第4四半期決算、インテルとサムスンの業績に急ブレーキ

米半導体大手インテル(INTC)は1月26日、2022年10-12月期(第4四半期)の純損益が6億6400万ドルの赤字になったと発表した。市場予想の2億7800万ドルの赤字に比べ4億ドル近く赤字幅が拡大した格好での着地となった。

売上高で見ればインテルは米国の半導体メーカーとして最大手の地位を維持しているものの、半導体市場の低迷や在庫調整、競争激化が響き、売上高も低下傾向が続いている。第4四半期の売上高は前年同期比32%減の140億ドルにとどまった(アナリスト予想は144億9000万ドル)。

【図表1】インテルの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成

同時に発表した2023年1-3月期(第1四半期)の売上高見通しは105億-115億ドル程度になりそうだ。これは市場予想の139億ドルを下回る水準だ。背景にあるのはパソコン出荷台数の減少である。2023年のパソコン出荷台数は同社の予想レンジ(2億7000万~2億9500万台)の下限になるとの見方を示した。

この見通しは現在インテルが直面している課題をもろに映し出している。パソコン用チップが主な収益源であるインテルにとっては、この分野における在庫調整が一巡し、主要パソコンメーカーからの部品の発注が再開されることが必要だ。

インテルと共に半導体デバイスメーカービッグ3の一角をなす韓国サムスンの業績も好調とは言い難い。1月31日にサムスンが発表した2022年10-12月期の決算で、売上高は前年同期比8%減の70兆5000億ウォン、営業利益は69%減の4兆3000億ウォンに落ち込んだ。これは、スマートフォン事業が不振だった2014年7-9月期以降で最も低い水準だ。

世界的な経済停滞で需要が縮小しビジネス環境が悪化したとして、サムスンは決算に先立って業績不振を既に明らかにしていた。決算発表で同社は、モバイル端末やパソコンの需要が弱く、先行き不透明感が高まるなかでユーザー各社が在庫調整を続け、このため半導体部門も打撃を受けたと説明した。さらにこの先行き不透明感による需要低迷は今後数ヶ月続くとしており、回復し始めるのは2023年後半との見通しを示した。

メモリチップは、一般的に変動が激しい市場で、直近では周期的な落ち込みの真っ只中にある。コロナ禍を背景とした歴史的な半導体不足からわずか数ヶ月、チップ業界はサプライヤー優位の状況になると考えられていたが、今回の不況のサイクルはこれが誤りであったことを示している。

半導体市場は主に、演算を担う「ロジック」と記憶を担う「メモリー」に分けられる。日本経済新聞の2022年7月13日付の記事「台湾TSMC、設備投資1割減 業界先行きに不透明感」によると、メモリーは一般的に汎用性が高く需給の影響を受けやすいため、販売価格が変動する傾向にある。一方、価格変動が緩やかなロジック半導体を主力としているのがTSMCだ。ロジックは市況に振り回されにくい特徴を持っているとの指摘がある。サムスンの低迷は、主力製品であるメモリー市場が悪化していることが要因だ。

半導体メモリー不振の韓国、貿易赤字が拡大

同じく韓国の半導体メモリー大手SKハイニックスの決算も確認しておこう。2月1日に発表した第4四半期(2022年10-12月期)決算は、売上高が前年同期比38%減の7兆7000億ウォンだった。営業損益は1兆7000億ウォンの赤字と、1年前の営業黒字(4兆2000億ウォン)から大幅な赤字に転落した。赤字額は過去最大だった。

サムスンとSKグループの韓国勢でフラッシュメモリー市場のほぼ半分のシェアを占めている。このメモリー市場の低迷は韓国経済に課題をつきつけている。

【図表2】NAND型フラッシュメモリーの市場シェア(2022年第3四半期末)
出所:ブルームバーグの記事より筆者作成

韓国産業通商資源部が2月1日に発表した1月の貿易収支は、月次ベースで過去最悪の赤字を記録した。1月の輸出は前年同月比16.6%減、対する輸入は2.6%減と、貿易収支は過去最大の126億9000万ドルの赤字だった。

【図表3】韓国の貿易収支の推移
出所:韓国産業通商資源部の資料より筆者作成

これは2022年の年間貿易赤字(474億7000万ドル)の4分の1に相当し、単月で100億ドル以上の赤字は、アジア通貨危機や世界金融危機の際にもなかったことだ。また、貿易収支は2022年3月以降11ヶ月連続赤字となっている。これは25年ぶりだ。

貿易赤字拡大の背景にあるのは、韓国の輸出を支えてきた2つの軸である半導体と対中輸出が大きく低迷する一方、エネルギー輸入が過去10年間の平均を50%上回ったためだ。半導体輸出は1年前(108億ドル)を44.5%下回る60億ドルに落ち込み、2016年12月(59億ドル)以降で最も不振だった。

朝鮮日報の2月2日付の記事「韓国、1月貿易赤字は過去最大127億ドル…半導体輸出は44%減」によると、韓国貿易協会のチョ・サンヒョン国際貿易通商研究院長は「通常半導体は韓国の輸出の18-20%、対中輸出は25%を占めてきたが、輸出額と割合が同時に低下した」とし、「中国の景気が依然として回復していない状況で、半導体輸出までもが景気後退の余波で急減した」と指摘した。

ASML、世界的な設備投資が追い風に

半導体に関連するセクターがいずれも低迷しているかと言えば決してそうではない。前回のコラムで取り上げたTSMC(TSM)は2022年第4四半期決算において過去最高益を更新した。

また、インテルの決算発表前日(1月25日)、半導体製造装置を手がけるオランダASMLホールディング(ASML)は、先端半導体製造装置に対する強い需要を背景に1-3月期の売上高の見通しが61億-65億ユーロ(約8700億-9200億円)と、市場予想の60億7000万ユーロを上回る見通しだと発表した。

なお、同時に発表した2022年10-12月(第4四半期)の売上高は64億ユーロと、アナリストの予想平均とほぼ一致、純利益は18億ユーロと、アナリストの予想平均(16億8000万ユーロ)を上回った。

また、投資家へのキーメッセージの1つとして決算発表資料の中で、2025年の年間売上高は約300億-400億ユーロ、2030年の年間売上高は約440億-600億ユーロになる見込みだと明らかにした。

さらなる半導体の対中輸出規制に要注意

しかし、ASMLを取り巻く事業環境に一点の曇りもないかといえばそうではない。米国による対中輸出規制だ。半導体製造装置の主要サプライヤーを抱える日本とオランダは、バイデン米政権が主導する対中半導体輸出規制に歩調を合わせることで合意した。

【図表4】ASMLの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成

こうした逆風があるにも関わらず、ASMLは強気の姿勢を崩していない。ロイターの1月25日付の記事「蘭ASML、今年の対中輸出は規制下でも前年水準維持へ=CEO」によると、決算発表後行われた会見において、ASMLのピーター・ウェニンクCEOは、2023年の中国本土への輸出は2022年の水準を維持する可能性が高いと述べた。

最先端の半導体の製造に使われるEUV(極端紫外線)露光装置はASMLがほぼ市場を独占しており、この最先端のEUV露光装置については2019年以降、中国の顧客への販売を制限されている。しかし、最先端以外の装置の中国輸出は続いている。

2022年の対中国売上高は約21億6000万ユーロと、2021年の21億7000万ユーロからわずかな減少にとどまった。ウェニンクCEOは、2023年の中国向け売上高もほぼ同水準になると語り、400億ユーロある受注残のうち中国企業からの受注が約15%を占めていることも明らかにした。

ウォール・ストリートジャーナルの1月31日付の記事「対中半導体規制で日米蘭連携、中国の野望に圧力 日本とオランダの参加、同盟国の結束示す強いシグナル 中国の半導体国産化に影響も」によると、最新の規制の動きは、中国半導体産業を完全に無力化するわけではないが、同盟国の結束を示す強力なシグナルを送り、さらなる措置を講じる前触れともなると論じている。今後、さらに米国が規制を強める場合は要注意だ。

【図表5】世界3大デバイスメーカーが3000億ドル以上の設備投資計画を発表している
出所:ASML決算資料より筆者作成

デバイスメーカーが設備投資を行う際、まずASMLの露光装置へどの程度支出するかが決められ、その後、他の製造装置への予算の割り振りが行われるという。デバイスメーカーはAMSLの露光装置の調達を最優先で進めているため、ASMLの製品は強い価格競争力を持っている。

工場新設へ向けた設備投資が活発に行われる中、パソコン需要の低迷と設備投資が先行し業績へのプレッシャーがかかっているインテルやサムスンと、その設備投資の追い風を最大に受けるASMLの立ち位置の違いが際立っている。

石原順の注目5銘柄

ASMLホールディング(ASML)
出所:トレードステーション
インテル(INTC)
出所:トレードステーション
台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSM)
出所:トレードステーション
エヌビディア(NVDA)
出所:トレードステーション
アドバンスト・マイクロ・デバイシズ(AMD)
出所:トレードステーション