TSMC、2022年第4四半期は過去最高益を更新

ファウンドリー世界最大手のTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)(TSM)が1月12日、2022年10-12月期の決算を発表した。売上高は前年同期比42.8%増の6255億台湾ドル、純利益は78%増の2959億台湾ドルと、四半期として過去最高を更新した。

米ドルに対しての台湾ドル安がプラスに寄与しているため台湾ドルベースでは大幅な増収増益となったが、米ドルベースでは第3四半期に比べると減収だった。米アップルの新型スマートフォン「iPhone14」向けや高性能パソコン、サーバー向けの先端半導体の出荷は好調でTSMCの業績を支えた。

【図表1】TSMCの売上高、営業利益、営業利益率の推移
出所:決算資料より筆者作成

第4四半期時点の分野別売上高を見ると、パソコン、サーバー、ゲーム機等に使われるHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)向けが42%と前期(第3四半期は39%)から増加した。一方でスマートフォン向けは、第3四半期の41%から38%へ低下し、第3四半期からは5.4%減少となった。センサー、イヤフォン、AIスピーカ用半導体向けのIoTは8%(第3四半期は10%)、自動車向けは第3四半期から10%増加した。

【図表2】TSMCの分野別売上高と前四半期からの増減率(第4四半期末時点)
出所:決算資料より筆者作成

テクノロジー別に見ると、5ナノの売上構成比が第3四半期(28%)から32%に上昇したものの、7ナノが22%に低下したため、微細化世代である先端半導体の売上比率は54%と第3四半期から横ばいだった。さらなる微細化世代である3ナノのチップがこの四半期から大量生産に入っており、2023年の第3四半期頃から正式な出荷が始まりそうだ。

【図表3】TSMCのテクノロジー別売上高
出所:決算資料より筆者作成

2023年第1四半期の売上高は167億-175億ドルを見込んでおり、4年ぶりの減収となりそうだ。会社側の資料によると、為替の前提は1ドル=30.7台湾ドル、売上総利益率53.5-55.5%、営業利益率41.5-43.5%との予測である。これは2022年4Qに比べると16.1%減収かつ利益率も落ち込むことが想定されている。

【図表4】TSMCの2023年第1四半期のガイダンス
出所:決算資料より筆者作成

半導体市況は、自動車向け等一部を除いて在庫調整期に入っている。ただし業界全体が低迷し、より安価な半導体が打撃を受ける中、先進半導体の好調を背景にTSMCがどこまで好業績を維持できるかが今後の焦点となる。

TSMCの熊本進出はアップルの要請だった可能性

決算発表に伴いオンラインで開催された業績説明会において、TSMCの魏哲家CEOは、現在、熊本に建設している新工場に続き、日本で2番目となる半導体工場の建設を検討していると明らかにした。

また、欧州に自動車部門向けに特化した工場を設置する可能性についても顧客やサプライチェーンのパートナーと共に検討していることも表明した。「建設を検討中だが、まだ決定していない」と述べ、工場の立地場所については言及しなかったが、ドイツが有力視されていると言う。

2023年の設備投資は320-360億ドルとし、2022年の363億ドルからの減額するものの、2021年の300.4億ドルを上回る高水準な投資が続く見込みだ。魏CEOは2023年には「業界全体はやや低迷するが、当社は小幅ながら成長するだろう」と述べている。日本に2つ目の工場建設を検討という話題が示すように、TSMCは今後もハイペースで設備投資を継続する見通しだ。

【図表5】TSMCの設備投資の推移
出所:決算資料より筆者作成

2022年12月、アップルのティム・クックCEOが来日した。その中で、熊本にあるソニーの半導体部門である「ソニーセミコンダクタソリューションズ」を訪問し、クック氏はその様子をTwitter上で写真付きで紹介した。同氏はTwitterの投稿で次のようにコメントを添えている。

We’ve been partnering with Sony for over a decade to create the world’s leading camera sensors for iPhone. Thanks to Ken and everyone on the team for showing me around the cutting-edge facility in Kumamoto today.
(私たちは 10 年以上にわたり、ソニーと提携して世界をリードする iPhone 用カメラセンサーを開発してきました。チームのみんな、今日は熊本の最先端施設を案内してくれてありがとう。)

2022年12月23日付TECH +の記事「TSMCの熊本進出決定はAppleの要請によるもの、台湾メディア報道」は、2022年12月17日に台湾で開催された「The New Challenges in the Semiconductor Industryフォーラム」においてTSMCの魏CEOが講演した内容を報じた。

同記事では、魏氏は日本に工場を建設する理由について、「日本は低コストで製造できる場所ではない」と認めつつも、ファブ建設を決定したのは顧客ニーズを優先することが常にファウンドリーの中核的な考慮事項であり、主に最大顧客からの要請があったためだとしている。

魏CEOは「当社の重要なサポートしなければならない顧客が日本におり、またその顧客は、当社の重要な顧客のサプライヤでもある」と述べたという。具体的な企業名は出さなかったが、重要な顧客は米アップルで、アップルをサポートしなければならない日本にいる顧客とはソニーを指しているものと見られている。

2022年12月16日付のPILEWEBの記事「アップルのティム・クックCEOがソニー訪問、隠された2つの狙い」は次のように指摘している。

アップルが「ソニーとの関係」を長期かつ良好な形で維持したいと考え、ソニーもまたアップルに対し、半導体顧客としての最恵国待遇を維持したい、と考えた結果ということのようだ。iPhoneは「画像の記録解像度を上げるよりも1画素あたりの精度を高める」というカメラ設計が得意で、その方向性は、どちらかといえばソニーがスマホ向けイメージセンサーで目指す方向性に近い。少なくともあと1、2世代は、今後も両社が歩調を合わせて開発する流れだと想定できる。

日本における2つ目の工場が建設される場所も熊本になるのだろうか。

台湾のICチップの輸出、3年連続で2桁の伸び

台湾財政部(財政省)によると、電子機器やコンピューター、スマートフォン向け等に使われる、極めて重要な部品であるICチップの輸出は、前年比で18.4%増加し3年連続で2桁の伸びを記録した。米中の緊張やサプライチェーンの多様化によって業界の勢力図が揺れ動いている中、世界の半導体産業における台湾のリーダーとしての存在感が改めて確認された。

2023年1月14日付ウォール・ストリート・ジャーナルの記事「Chips Are the New Oil and America Is Spending Billions to Safeguard Its Supply(半導体チップは今の時代のオイル、米国はその供給を守るために何十億の支出をする)」は、2022年10月に開催されたウォール・ストリート・ジャーナルのカンファレンスにおけるインテルのパット・ゲルシンガーCEOの発言を取り上げている。

Where the oil reserves are located has defined geopolitics for the last five decades, where the chip factories are for the next five decades is more important.
(石油の埋蔵量がどこにあるかが、過去50年間の地政学を決定づけた。今後50年間、チップ工場がどこにあるかはさらに重要だ。)

TSMC、競合他社との圧倒的な違い

1980年代のジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた時代、日本はビデオデッキやテレビなど民生分野における大きな市場に支えられ、メモリ(DRAM)を主力として、世界の半導体製造シェアの半分以上を握るようになっていた。しかし、1990年代に入り、半導体製品の主流がマイクロプロセッサやロジックへと移行すると、日本メーカーはこの潮流に乗り遅れた。その一方、米国はシェア奪回へ向けて国を挙げて半導体産業の強化に取り組み始めた。

1980年代から1990年代にかけて半導体業界における大きな変化を引き起こした要因は2つある。1つは産業政策の旗振り役として国が積極的に関わったこと、2つ目はビジネスモデルの変化だ。半導体業界の構造が垂直統合型から水平分業型へと大きく転換した。この2つ目の要因がTSMCというファウンドリーの雄を生み出すきっかけとなった。

半導体業界を日本が席巻していた1980年代までは、半導体の設計開発、ウエーハ製造、組み立てからテスト、そして販売に至るまで、全ての事業を社内で完結させる垂直統合型でのビジネス展開が主流であった。ところが1990年代から2000年にかけて巨額の設備投資がかかる半導体業界において水平分業が拡大する。

米国ではエヌビディア(NVDA)やクアルコム(QCOM)など工場を持たないファブレスの半導体メーカーは設計開発に注力し、製造はファウンドリーに委託するスタイルに変わっていった。その流れに乗って一大企業となったのがTSMC(TSM)である。日本企業はこの水平分業への対応が遅れシェアダウンにつながった。

TSMCの最大の功績はこのファウンドリーと呼ばれるビジネスモデルを確固たるものにしたことである。いち早くファウンドリービジネスを展開したTSMCには長年にわたる生産技術の蓄積がある。半導体製造は多くの工程を必要とするだけではなく、細心の注意が求められる。設計が正しくても、実際の製造の場面においては、設計通りに製造できるとは限らない。

半導体製造にはコツが必要だ。このコツの積み上げがTSMCの持つ製造技術であり、他社との違いを際立たせている要因だ。国際的な経済競争の輪郭を決め、各国の政治的、技術的、軍事的な優位性を決定する産業への大きな賭けである。

主力となる最先端の半導体工場の立地は台湾に集中しており、台湾が抱える地政学リスクはTSMCにとっても大きなリスクであることは間違いない。しかし現在、TSMCは生産拠点を分散し始めており、リスクへの備えを急いでいる。今後もこの動きは加速するであろう。

石原順の注目5銘柄

台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSM)
出所:トレードステーション
インテル(INTC)
出所:トレードステーション
エヌビディア(NVDA)
出所:トレードステーション
クアルコム(QCOM)
出所:トレードステーション
ASMLホールディング(ASML)
出所:トレードステーション