2023年の日本株市場は、世界の主要な株式市場の中で最も難しい立場に置かれるかもしれない。日経平均株価は、高値で2万8,500円(1月~2月)、安値で2万3,500円(10月)程度を予想している。おそらく、市場関係者の中では弱気な予想だろう。

先進国はインフレの継続から景気後退への懸念が高まっている。その中で、日本経済は依然として回復の途上にあるため、深刻な状況とは無縁に思うかもしれない。それにもかかわらず、日本株を悲観視するのはなぜか。

日本株を悲観視する理由

まず、日本は海外景気への感応度が高く、欧米経済の後退に対して無傷ではいられない。事実、来期のTOPIXの純利益の予想成長率を時系列で見ると、日を追うごとに右肩下がりのトレンドを描く。この流れが続けば、減益に陥るのも時間の問題だ。すでに製造業や資源などの外需系の業種に限定すれば、1年先には減益の見通しで、内需の回復とは別のベクトルから業績の下押し要因として顕在化している。

次に内需系の業種について考える。日本は先進国の中でコロナ禍における、行動制約の解除が遅れたことで「リオープン」による経済回復が期待されてきた。実際に小売やサービスなどの内需の中心業種は力強い回復を達成したが、それもすでにピークアウト感が強く、予想増益幅は急速に縮小し始めている。もう一段の上昇を期待するには別の成長テーマが必要だが、現状で特筆すべき原動力は見当たらない。

米国経済が悪化し緩和へ動くと仮定しても、日本の株価は上昇しない

それでも欧米のようにリセッション懸念がないだけ、日本株は底堅いと考えるかもしれない。しかし、それも大きな誤解だ。米国を例にとると、FRB(米連邦公開市場委員会)は足元までにテーパリングとQT(資産圧縮)を進め、インフレを抑え込むために急速な利上げを実施してきた。そして、米国はこの引き締め政策によって「緩和余地」という最強の武器を手に入れたことになる。今後、米国経済が悪化しても、彼らは利下げに転じるのに十分な金利の標高を有し、量的緩和を再開できるほどに金融政策の正常化を達成している。物価の高騰さえ落ち着けば、いつでも緩和的な政策へと転じ、経済の回復期待を維持しつつ、リスクオンの環境を演出できる。

実際に米国が緩和方向へと動いた場合、それにつられて日本の株価も上昇するのか。答えは「No」だ。なぜなら、米国の利下げおよび量的緩和はドル安を促進させ、その反対側で日本は強い円高に見舞われるからだ。日本企業は円高の進行によって不利益を被りやすい。日銀による抵抗も現状の異次元の緩和状態に追加したところで、効果は限定的だ。日本の金利はマイナス状態で、それを深堀りしても最終金利が5%超と予想される米国の利下げ余地には到底追いつかない。

日本株が悲観視される中、成長を期待できる分野とは

では、日本株には上昇の芽はなく、投資に値しないのか。それに対する答えも、また「No」だ。前向きな要素としては、中国のゼロコロナ政策の解除が挙がる。習近平政権はコロナ禍の拡大に敏感であるため、直ちに完全解除へと向かう可能性は低いが、事態が進展するだけで日本株上昇への起爆剤となりうる。他力本願ではあるが、かつての「爆買い」が日本の消費に上乗せされれば、日本株への評価は一変する。すでにリオープン特需を消化した小売やサービスも、その追い風の瞬間最大風速は凄まじいだろう。

また、魅力的な投資対象として、内需系の中小型・成長株は需給の観点で優位性が高い。海外の景気後退に巻き込まれにくいだけでなく、仮に世界経済の減速が深刻化した際に想定されるのは、欧米の年金基金やヘッジファンドによる解約売りの発生だ。海外の大手機関投資家は資産規模が巨大であり、基本的に大型で流動性の高い銘柄しか保有できない。つまり、解約売りの対象も彼らが保有する大型株に限られ、中小型株は相対的に底堅く推移が期待される。

加えて、欧米の金利の伸びの鈍化が想定される中では、高い成長力を有するグロース株は、割安株に比べて需給で有利になる。特に海外のインフレ鈍化を前提とすれば、原材料高が緩和されつつ、輸入物価も低下する可能性が高まるため、食料品などの加工産業は粗利の改善が見込めるだろう。

また、ニッチな分野として注目すべきは「高齢者特化型イノベーション」だ。周知のように、日本は少子高齢化の最先進国であり、介護分野への先進的なサービスの開拓や業務の効率化は避けて通れない。それに対し、訪問介護のDX化や業務支援を主力とするeWeLL(5038)、パーキンソン病専門の介護施設を運営するサンウェルズ(9229)など、最近の東証グロース市場は介護関連の成長株が活気づいている。厚生労働省によれば、コロナ禍前(2019年)の介護施設の職員数は210万人程度と推計されている。同分野の改革は関連銘柄の成長性の加速だけでなく、日本全体の賃金上昇や消費の成長にも寄与しうる規模感だ。高齢化による低成長という日本の弱点が、逆に今後の成長余地へと読み替えられるだろう。今後も、「高齢者特化型」のイノベーション銘柄の登場と躍進に期待したい。