◆スポーツの秋たけなわである。この週末、お子さん、お孫さんの運動会に行かれた方も多かっただろう。青山学院大学ビジネススクールの教え子らとのゴルフコンペ、ABS広木杯も春に続いて先週第2回が開催され、僕もゴルフを楽しんだ。プロスポーツでもゴルフのZOZOチャンピオンシップ、競馬の三冠レース最終戦である秋華賞など大きな試合、レースがあった。ZOZOはディフェンディング・チャンピオンの松山英樹選手が40位に沈み、秋華賞ではスターズオンアースの三冠達成は成らなかった。連覇、三連覇の難しさを改めて感じた。

◆その意味で、先週行われた試合で僕が注目したのはプロ野球のクライマックスシリーズ(CS)、サッカーJリーグの横浜Fマリノス×ジュビロ磐田、川崎フロンターレ×京都サンガ、そして箱根駅伝の予選会である。CSはヤクルトとオリックスが順当に勝って日本シリーズ進出を決めた。2年連続の顔合わせだ。ここから言えることは、リーグ優勝するレベルまでチーム力を高めた球団はそう簡単に負けないということだろう。実際にセントラル・リーグの優勝を振り返ると、ヤクルトの前は巨人、広島、中日など連覇が続いてきた。

◆しかし、Jリーグとなると連覇は難しい。川崎フロンターレは今年、三連覇に挑んでいるが苦戦が続いてきた。昨年までの連覇の原動力だった三苫や田中碧などの有力選手が欧州のクラブチームに移籍したからだ。サッカーはプロ野球より優秀な選手の海外移籍が活発なのでチーム戦力の維持が難しい。

◆戦力の維持という点では学生スポーツはもっと難しい。箱根駅伝予選会出場校を見て驚いた。75年連続75回出場の日本体育大学をはじめ早稲田、山梨学院、東海大など常連校が予選会に回っていた。本選でシード権内に入れなかったということだ。地元の強豪・神奈川大や伝統のNのタスキで有名な日大などは予選落ちで来春の箱根路を駆けることができない。

◆選手が抜けることもあり、チーム・スポーツは戦力の維持が難しい。しかし、だからこそリーグ戦やレースが面白くなる。毎回、決まったチームが勝つのでは面白くない。往年のジャイアンツ・ファンには申し訳ないが、巨人軍のV9をありがたがる時代ではないのだ。

◆岸田首相は所信表明演説で、成長分野への労働移動を促すため、個人のリスキリングの支援に5年間で1兆円を投入する考えを示した。首相は「リスキリングした人材が、より賃金が高く、やりがいを持てる場所で活躍することで、生産性を向上させ、さらなる賃上げを生む好循環を作っていくことが重要だ」と述べた。まったくその通りなので異論はないが、問題はそのような労働移動が起きるためには、企業や組織の雇用スタンスがより柔軟で流動的であるような環境が整っていることが前提である。人が学んでスキルや知識を得てもそれを活かす環境がない。博士号を取得してもまともな職に就けない、いわゆるポス・ドク問題などはその最たる例だ。

◆スポーツの世界では人材の流動化が進んで競争が生まれ、だからこそダイナミックなドラマが楽しめる。この構図を日本の社会全体に敷衍することこそが有効な成長戦略だ。「個人のリスキリング支援に1兆円」も良いが、その受け皿となる環境整備に政府はもっと知恵を絞り、汗をかくべきである。