Ark Investのキャシー・ウッドさんにインタビューを行いました。彼女は女性版ウォーレン・バフェットとも称され、現在ウォール街で最も注目を集めている方です。このインタビューの内容が、皆さんの投資戦略の検討にお役にたてば幸いです。
米国でイノベーティブな企業が多数生まれる理由
岡元:世界の最もイノベーティブな企業のほとんどが、米国で誕生していますが、その理由は何故だと思いますか?
キャシー:今まではそうだったと思います。ただ、アジアの挑戦も始まっていると思います。イノベーションは、私たちに興味深いことを教えてくれていると思います。ベンチャーキャピタル業界は、実質シリコンバレーで始まりました。スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校などは、文化として学生にイノベーションを理解するためのトレーニングを行い、学生を夢中にさせてきたと思います。
しかし半導体が活気づいていたのは、昔の話です。今はイノベーションの機会がたくさんあるので、アメリカも競争にさらされています。イノベーションにインセンティブを与える国は優秀な才能が集まると思います。シリコンバレーの優秀な若者はアメリカ人だけでなく、世界から集まっており、今や母国に戻って母国のために革新を起こすための多くのインセンティブが与えられるようになっています。色々な国で政策立案が始まっていると思います。
2021年から次の5年目に入る中国の5ヶ年計画においても、イノベーションを戦略の中心に据える計画となっています。これまではイノベーション、特にエンジニアリングとITに強い世界中の若者達がシリコンバレーに集まりましたが、今後はシリコンバレーだけに優秀な若者が集まるということではないと思います。米国でも、シリコンバレーからテキサス州や資本優遇を行う州へ優秀な人たちが向かう動きがでてきています。
岡元:中国がイノベーションに力を入れるといっても、米国はこの分野で今後も主導権を握り続けるのではないですか?
キャシー:そうですね。私は、イノベーションはアメリカ人のDNAにとても深く根付いている、と信じています。また、バイデン政権は移民政策をもう一度緩め、世界中から「ベスト・アンド・ブライテスト」が渡米したくなるよう試みるでしょう。
テスラのS&P500指数採用により、指数の銘柄採用のルールが変更となる可能性も
岡元:キャシーさんが調査をされているイノベーティブなサービス・商品を提供する企業は、今後ますますS&P500指数に採用されるようになると思います。これは、過去と比較して、長期的にS&P500指数の将来のパフォーマンスにどのように影響するのか教えてください。
キャシー:テスラの事例が非常に興味深い例だと思います。テスラは時価総額が5000億ドルに達してから、やっとS&P500指数に採用されました。その為5000億ドルに達するまでの期間、S&P500指数の投資家、または指数を意識して運用している投資家はテスラの株価の大幅な上げの恩恵を享受していません。今回のことは、ベンチマークを意識して運用している投資家にとっての教訓だと思います。
私は、今回の件で、今後S&P500指数の銘柄採用のルールが変更される可能性があるのではないかと思っています。これがいつ起きるかはわかりません。これまで、テスラがS&P500指数に採用されなかった理由は、2020年第3四半期まで、4四半期の移動平均で黒字でなかった為です。多くのイノベーション企業は赤字なのです。なぜなら、彼らは今積極的に投資を行っており、収益を上げるのが現時点での目的ではないからです。今は投資をすべきという判断の元投資を行っています。その時が来たら収益を上げられる準備をしているのです。
今後もテスラのような例、つまり、もっと前に指数に採用しておくべきだったと後悔する事態が起きますと、S&P500指数採用の要件を緩和する可能性があるのではないかと思っています。私がそうなることを知っている訳ではありません。しかし、S&P指数に採用されていないイノベーティブな銘柄が沢山あり、何とか早めに指数に採用させよう考えるのは、割と自然なことではないでしょうか。
岡元:興味深いですね。つまり、キャシーさんが言っていることは、そういったこと(黒字を達成していなくてもイノベーティブな事業を行っている企業)が、今後長期的に株価指数にプラスの影響を与える可能性があるということですね。
キャシーさん:「長期的に」です。まだ指数採用のルールを変更していませんので、最初にルールを変更する必要があります。そのため、S&P500のような広範なベンチマークは、会社が利益を拡大するまで、多くのイノベーティブな企業を入れることができないのではないかと思います。
代わりに目につくのは、SPAC(特別買収目的会社)の存在です。彼らの目的は企業を早期に買収することであり、今後株式市場では、ベンチャーキャピタルに相当するSPAC指数がでてくるのではないかと想像しています。
イノベーションは長期的に米国の経済成長にどのように影響するか
岡元:これらのイノベーションが長期的に、米国の経済成長にどのように影響してくると思いますか?
キャシー:ハッチさん、非常に興味深いことなのですが、現在の米国のGDPは、正しく測定されていないと考えています。その理由は、GDPは産業界が主役の時代に誕生したからです。今のGDPが生まれたのは第二次世界大戦後だったと思いますが、政府が経済の成功を測るために、産業界の動きを測定していたのです。今はデジタルの世界であり、これまでのGDPの統計は現状に則していないと思います。
私たちは、実質GDP成長率は報告されているものよりも高く、実際にはインフレは報告されているものよりも低いと信じています。こういった統計は時間の経過とともに実態に追いつくでしょうが、そうなるまでは、経済は非常にゆっくりと成長しているように見えると思います。
GDP成長率は2〜3%、おそらく2%、インフレは1〜2%の範囲と予想します。これらは後程改訂される訳ですが、その改訂は今からおそらく5年または10年後になってわかるのです。
今後、イノベーションが経済にとってはるかに重要になってきます。2020年に世界で販売された220万台の電気自動車は、2025年には4000万台になり、5年間でこれは統計に反映されるはずです。自動運転がGDPに与える影響が問題で、これはタイムリーでなく、遅れて反映されることになるでしょう。ただ、これは悪い話ではありません。経済成長は一般に報告されているものよりも本当は高く、インフレは低いという事実、これは良いことだと思います。
次回はキャシー氏が大きな投資機会と考えている具体的なイノベーションの分野について、お届けします。
本インタビューは2021年1月21日に実施しました。