<< <<【前編】「米インフレはピークアウト、デフレの兆候も」キャシー・ウッド氏

今後数年でテスラの「ロボタクシー」実現か

岡元:テスラの最新情報について、キャシーさんはどのようにお考えですか。現在のテスラの期待値は、株式分割前が4,600ドル、分割後の株価では2026年の株価の期待値はおよそ1,500ドルです。その期待値の60%、EBITDAの半分以上がロボタクシーから来るものと予想されていますね。ただ個人的には、ロボタクシーが活躍するにはもう少し時間がかかるのではないかと思います。そのロボタクシーの見通し、株価に与える影響を教えてください。

ウッド氏:この18ヶ月間、私たちは人工知能についてとても興味深く調査しており、その進歩に衝撃を受けています。そのため、既成概念の枠を超えるはるかに速いスピードの長期予測を立てています。すなわち、当初の予測より5年から10年早く実現することになると予測しています。ですから、マスク氏の「今後数年でロボタクシーが登場する」という予測は、まさに今だと思います。

マスク氏はこの3、4年、そう言い続けています。ですから、ほとんどの人はもうこの言葉を信じていないでしょう。しかし、私たちは人工知能の進歩を見ていて、驚かされることがありました。私たちは、テスラのAIチップとAIの専門知識によって、現在世界中に200万台以上あるロボット(テスラ車)にデータを集めさせ、AIエンジンに道路データを供給していると確信しています。

私はテスラのモデル3とモデルYを所有しています。私の2台の「ロボット」は、コネチカットとフロリダ周辺のすべての道路を把握しています。そして、世界中には200万台のロボットがいて、テスラが米国内はもちろん、世界中の道路を整備するのを助けていると考えられます。自動車事故の死因の80~90%はヒューマンエラーによるものです。ですから、「人間のドライバーはもういらない、自動運転だけでいい」となれば、完璧ではないにせよ、より多くの人命が救われるようになると思います。

しかし、世界のさまざまな地域の交通安全協会は、非常にリスクを嫌っています。そのため、彼らはもっと証拠を見たいと思うでしょう。そして、彼らはそれを手に入れることができると思います。ですから、今後2~3年のうちに、ロボタクシーが消費者に喜ばれるようになると私たちは信じています。

岡元:それは全米に展開されるのでしょうか、それとも都市ごとでしょうか?

ウッド氏:少なくともテスラでは全米展開になるでしょう。もちろん、都市ごとに行われる必要がありますが、非常に迅速に展開されるでしょう。一方、アルファベット(GOOGL)傘下のウェイモと、ゼネラル・モーターズ(GM)傘下のクルーズ・オートメーションは、都市単位で進めているようです。実際に、クルーズ・オートメーションは、サンフランシスコだけでなく、テキサスとアリゾナにも進出すると言っています。アリゾナはウェイモが進出していますが、まだテストカーの数が非常に少ない状況です。また、テスラよりもはるかに少ないデータしか収集できていません。ですから、最大のデータ情報と最高のAI専門知識、そして輸送に関する専門知識を持つ企業が勝者になると考えています。そして、米国ではそれがテスラになるだろうと私たちは考えています。

岡元:自動運転技術において、テスラの次に技術があるのはどの企業で、テスラよりどのぐらい遅れているのでしょうか。

ウッド氏:私はウェイモよりもクルーズ・オートメーションの方が進んでいると考えています。クルーズ・オートメーションはGMのメアリー・バーラCEOのもと、多大なリソースを投入しています。クルーズ・オートメーションの創業者は、自動運転を実現するために非常に大きな力を発揮しています。もちろん、サンフランシスコでの困難な状況も知っています。しかし、成功例を見れば、それは非常に大きなものです。ですから、クルーズ・オートメーションがテスラに次ぐ2番手になると思います。

また、EVトラックや自律走行トラックのプロバイダーも良い位置にいると考えています。リビアン(RIVN)はアマゾン(AMZN)と提携した小型のバンのようなトラックを開発しており、良いポジションにいると思います。トゥーシンプル(TSP)の自動運転トラック戦略にも非常に興味を持っています。実際、テスラがトゥーシンプルの戦略の一部を採用しているのを目にしています。そのため、トゥーシンプルが米国外の国、特に中国での自動運転トラックの勝者であるという確信が高まりました。

中国は動きが早いです。シャオペン(小鵬)(XPEV)はテスラを模倣しています。うまくいくかどうか注視しています。ニオ(NIO)や比亜迪(BYD)(01211)も動いています。そして、中国は自国からチャンピオンを出すことを追求しています。欧州と日本では、おそらく他の企業と提携したローカル・チャンピオンが誕生するでしょう。

テスラ、効率を高め生産性向上を加速する見通し

岡元:2026年までのテスラのリスクとは何でしょうか。

ウッド氏:テスラが私たちの旗艦戦略やその他の戦略の最大のポジションを占めているのは、消費者志向が電気自動車にシフトする中で最先端にいるからです。電気自動車の販売台数は、2021年の480万台から2026年には4,000万台になると考えています。

また、テスラは工場の建設方法を理解しており、自動化された工場で電気自動車を生産し、規模を拡大することができる世界で最も進んだ企業だと考えています。また、電気自動車を製造しているという点だけでも、私たちの最低ハードルである年率15%のリターンを実現できると考えています。

岡元:(テスラの)ギガファクトリーと他の企業の工場との効率性の違いを教えていただけますか。例えば、ゼネラル・モーターズや他の工場と比較した場合、どうでしょうか?

ウッド氏:テスラは、上海で50万台の生産体制を整え、わずか1年で生産工場をオープンさせました。そして、最初の1年の目標生産台数を50万台とし、その後、規模を拡大しました。そして今、私たちは上海工場が100万台近くまで成長する可能性があると考えています。テスラで最も古いフレモントとカリフォルニアの工場も同様です。これらの工場では、製造の効率化、自動車の自動化、人工知能の導入により、毎年生産台数を増加させることができ、私たちを驚かせています。そして、テキサスとベルリンの工場は、フリーモントよりもはるかに生産性が高くなることがわかっています。

マスク氏は、自身の使命は世界で最も効率的な工場を作ることだと述べています。特に中国から他の国へのオンショアリングが増えるので、産業インフラの多くを失った国々に最先端の製造業を取り戻そうとしているのだと思います。これは、世界の均衡を取り戻す素晴らしい方法だと思います。中国が支配力を強めてから、リスクを最小限に抑え、最終消費者の近くで生産する必要があると感じている国々に、最先端の技術をもたらすというエコシステムです。

岡元:スペースX社が生み出すシナジーが、今後テスラにどのように役立つとお考えですか。

ウッド氏:テスラとスペースXの間には才能を持った人材の交流があります。彼らは世界最高のエンジニアで、最も困難で進歩的な問題に取り組みたいと考えています。進歩的というのは、エンジニアとしてどんな問題を解決すれば、人類を変え、改善することができるのかという意味です。

材料に関する情報や知識も共有されており、材料科学は非常に重要なものとなっています。このように世界で最も先進的な2つの企業が、一方は陸上に、もう一方は宇宙に焦点を当て、材料科学に関する情報を共有し、地上ではできないことを宇宙ではできるようにし、またその逆のことも理解できるように助け合っているのです。

ここで最も興味深い力学の1つが、LiDAR(ライダー、光センサー技術)をめぐる論争です。ご存じのように、テスラは自動運転車や商用車にLiDARを使用していませんが、スペースXは国際宇宙ステーションとの接続にLiDARを多用しています。このようにLiDARの関する知識を共有し、うまく活用することで、テスラとスペースXは競争上の優位性を獲得してきたのだと思います。

下落局面でも強気な理由

岡元:面白いですね。では、次は、私のTwitterのフォロワーの方からいただいたキャシーさんへの質問です。イノベーション銘柄の大幅な下落を経験し、どのように痛みに耐えていますか。精神的、肉体的にどのように困難を克服しているのでしょうか。イノベーション銘柄を保有する人たちに、何かアドバイスをいただけますか。

ウッド氏:私が夜も眠れ、自分たちのやっていることに満足できる大きな理由は、私たちの調査にあると思います。私たちが行っているのは、「第1原理」を研究することです。他の運用会社はこの研究を行っていないため、イノベーションの成長の軌道がどれほど深いものであるかを理解していないのです。ですから、私の確信とそれに対する勇気の源は、私たちの調査にあるのです。

この1年半、投資家の皆さんが大変な思いをされていることを承知していますし、皆さんの忍耐強さにとても感謝しています。私たちは5年間を投資期間の目安としています。もし私たちの調査が正しければ、私たちのポートフォリオは市場を上回るリターンを提供することになるでしょう。私たちのことを信じてくれている人が多いと感じる理由は、私たちの戦略に多くの資金フローがあるからです。

それではいったい何が私たちのファンドを大きく下げたのでしょうか。インフレと金利上昇の懸念でしょうか。非常に有名な経済学者であるアーサー・ラッファーから学んだマクロ経済の知識と、経済学のバックグラウンドをもって私は供給と需要のアンバランスを分析し、下落の要因がインフレ関連ではなくパンデミックや軍事衝突に関連しているものだと分かってきたのです。(70年代のような)15年間のインフレ醸成とは違うのです。

もし私たちの見方が正しければ、インフレと金利の問題は非常に短期的なものでしょう。今後インフレと金利が低下するだけでなく、イノベーションの成長が最盛期に移行し、危機や問題が逆にイノベーションの浸透を助けることになると思います。つまり、優れた成長という追い風と、インフレや金利が下がるという追い風を得ることができるのです。そのため、私たちは大きな希望を持ち続けています。

>> >>【後編】「キャシー・ウッド氏のポートフォリオ戦略、長期保有銘柄」

※本記事は2022年9月22日に放送した「ハッチの米国株マーケットセミナー」の特別インタビューを後日編集記事化したものです。