◆この季節、空を見上げると、夏雲の積乱雲と秋雲のうろこ雲とを同時に見ることがある。行く夏の名残りと秋の訪れを目で確認できる。こういう空を「行き合いの空」という。夏と秋とが空で行き交う様は古今集の歌にも詠まれている。

夏と秋と ゆきかふ空の かよひじは
かたへ すずしき風や吹くらむ

◆昨日の関東地方は小雨交じりの天気で気温は9月下旬並み。秋を感じさせる涼しい日曜日となった。夏の終わりは寂しいものだが、今年のような異常な暑さが収まってくれるのは、文句なしにありがたい。暑さのほうは季節の移ろいで自然に和らぐが、果たしてこちらはどうか。インフレである。インフレは時の流れとともに自ずと鎮まるようなものではないから始末が悪い。先週末のジャクソンホールでFRBのパウエル議長は、徹底的にインフレを封じ込める態度を改めて示した。

◆10分にも満たない短い講演だったが市場に動揺を与えるにはじゅうぶんだった。市場は議長の発言を「タカ派的」と受け止め、NYダウ平均は1,000ドル超も急落した。インフレ退治に15年を要したボルカー時代の政策にも触れ、その轍は踏まない、だから今、決意を持って行動する、との言葉は確かに強い意志を感じさせる。しかしパウエル議長はこれまでと同じスタンスであることも講演の中で明らかにした。「データ次第」「今後は利上げペースをスローにすることが適切となる可能性が高い」と繰り返したのだ。

◆今は二つの見方が混在している。インフレ抑制のために大幅利上げを続けるというものと、インフレは早晩ピークアウトが確認され利上げペースは緩やかになるだろうという見方である。まるで夏空と秋空が同居する「行き合いの空」のような状況だ。だが、いつまでも同居は続かない。落ち着く先はインフレのピークアウトで利上げペースの減速だろうと思われる。「かたへ すずしき風や吹くらむ」(来る秋の方は涼しい風が吹いているだろう)と歌が詠む通り、利上げの季節も涼しい方に向かうだろう。予測というより、期待である。