◆この大型連休中、最寄り駅には連日、長蛇の行列ができていた。訊けば劇場版「名探偵コナン」とのコラボ企画によるスタンプラリーだという。子供から大人までを惹きつける、この圧倒的なIP(知的財産)の強さを改めて思い知らされた。
◆3月に日経新聞「私の履歴書」を連載された元厚生労働事務次官の村木厚子さんも、大のコナンファンであることを明かしていた。「コナンから学んだのは、それらしく見えることと、客観的な事実を丁寧に分けることだ。(中略)拘置所のなかで私がしたことは、コナンの謎解きあってのことのように思う」(日経新聞「私の履歴書」)
◆「それらしく見えること」と「客観的な事実」を分ける能力は、AI全盛の現代において、かつてないほど重要性を増している。生成AIはしばしば、事実とは異なる情報を「自信満々に、もっともらしく」捏造する。いわゆる「ハルシネーション(幻覚)」だ。文法も文脈も完璧なため、一見すると正解に見えてしまう。確信犯的な「嘘」よりも、性質(たち)が悪い。
◆「嘘」といえば、僕のお気に入りの一冊に坂崎かおるの短編集『嘘つき姫』がある。巻頭を飾る「ニューヨークの魔女」に、こんな台詞が登場する。「難しいのは見た目なのよ。中身は見えないんだから、いくらでも隠し通すことができる」
◆村木氏が説く「客観的真実の識別」と、この台詞は、いわばコインの表裏だ。共通するのは「人間は、整えられた見た目(嘘)に容易に騙されてしまう」という根源的な脆弱性である。AIが生成する完璧な「見た目」に惑わされず、その裏にある事実の裏付けを冷静に見極めること。それこそが、現代の魔女であるAIに翻弄されることなく、それを手なずけるための要諦にほかならない。
