キオクシアホールディングス(285A)が迷走の4年を経て株価50倍に、メモリ市場は「スーパーサイクル」入りか?
キオクシアホールディングス(285A)の時価総額が44兆円に達し、時価総額で日本企業トップに立った。キオクシアの前身である東芝の半導体メモリ事業は、経営不振を背景に2017年に分社化。その後、2018年に米ファンドのベインキャピタル主導で、競合の韓国SKハイニックスも含む企業連合へ約2兆円で売却された。2019年には、社名を「東芝メモリ」から「キオクシア」に変更した。
日本経済新聞の6月12日付の記事「キオクシア、上場前の『迷走4年間』から逆転劇 時価総額で国内首位に」は、2024年12月にキオクシアが上場を果たすまでの紆余曲折を取り上げている。ベインキャピタルやキオクシアは当初、独立から3年以内に上場する方針を掲げていたが、キオクシアの上場は遅れに遅れた。半導体市況の悪化により、2023年3月期から2期連続で巨額の最終赤字を計上していた。
苦戦していたキオクシアの状況を一変させたのが、AI(人工知能)需要だ。上場前に赤字だった業績は急速に改善。キオクシアが発表した2026年3月期決算では、売上高が2兆3376億円(前期比37%増)、営業利益は8704億円(前期比93%増)と過去最高を更新した。2026年4~6月期の連結純利益は8690億円と、前年同期比48倍となる見通しだ。株価は上場時の初値から直近で50倍以上に跳ね上がった。
AIの活用が、膨大なデータを読み込ませる「学習」段階から、日常のシステムで実際に回答や処理を行う「推論(運用)」段階へと本格的にシフトしている。推論を瞬時に行うには、データをためておくSSD(ソリッドステートドライブ)の読み出し速度が重要となる。データセンターではHDD(ハードディスクドライブ)から、より高速で大容量のエンタープライズ向けSSDへの置き換えが進んでいる。
メモリ市場はかつて「シリコンサイクル(半導体サイクル)」と呼ばれる激しい好不況を繰り返していたが、今回のNAND需要はAIインフラに直結した「構造的な需要拡大」であり、2027年以降もこの好況が持続するとの見方が強まっている。この構造変化により、NAND市場は空前の供給不足が続く「スーパーサイクル」入りしているとも言われている。
世界半導体ランキングでトップ5入りした米マイクロン・テクノロジー[MU]
日米ともにメモリ企業が熱い。米国市場では半導体大手のマイクロン・テクノロジー[MU](以下マイクロン)の時価総額が1兆ドルを突破した。年初来の上昇率は約210%とS&P500構成銘柄の中でも突出したパフォーマンスを記録している。5月上旬には7000億ドル台だった時価総額は、わずか数週間の目を見張る速さで1兆ドルの大台まで駆け上がった。
メモリを確保するために顧客である大手テック企業が、数年単位の固定価格で供給を確保する長期契約に移行している。従来のような価格が乱高下するサイクルの激しい業界ではなく、安定成長する高付加価値ビジネスとして再評価が進んでいる。AIデータセンター向けのHBMの比率が上がり、需要の質が変わってきているという。
調査会社のGartnerが2026年1月に発表した世界半導体企業売上高ランキングで、マイクロンは2024年の7位から順位を上げ、インテル[INTC]に次ぐ5位に浮上した。2025年の売上高成長率は約50%と、圧倒的トップであるエヌビディア[NVDA]の伸び率(約64%)を追う勢いとなっている。
マイクロンの売上高成長率と営業利益率の合計は驚異の200%超え
伸びているのは売上高だけではない。営業利益率も大きく伸びている。以下は、AI企業パランティア・テクノロジーズ[PLTR]の決算発表資料に掲載されていた時価総額上位100社の「40%ルール(Rule of 40%)」をプロットしたものである。「40%ルール(Rule of 40%)」は企業の売上高成長率と営業利益率を合計した値だ。
これを見ると、HBM市場で過半数のシェアを持つSKハイニックスは270%、マイクロンは265%と、半導体大手のエヌビディア(141%)やパランティア(145%)をも大きく突き放している。需給逼迫を背景にHBMの値上げが進んでいることが分かる。
250億ドル超の巨額投資へ、試されるマイクロンの底力
需要が急増しているのであれば、製造ボリュームを増やせばいいだけではないかというと、単純にそうはいかない事情がある。HBMの供給が増えない、あるいは需要に追いつかない理由は、主に製造技術の難易度と生産能力(キャパシティ)の拡張スピードが追いついていないためだ。
HBMはDRAMチップを垂直に何層も積み重ね、それを数千の微細な穴で接続する「3D積層」技術を使う。この工程は、従来のメモリ製造よりもはるかに難易度が高く、完成品になる割合(歩留まり)を高く保つのが難しい。また、設備投資と増産の物理的、時間的限界もある。新しい工場や生産ラインを建設し、最先端の製造装置を導入して安定稼働するまでに、1年半~2年以上かかる。
作ろうと思えばすぐ増産できるものではなく、前工程・後工程・歩留まり改善・装置リードタイムなど制約が多い。結果として、価格上昇局面では利益が出やすい産業構造となる。その一方で、需要に応じて設備投資(CAPEX)を積む局面では、タイミングを誤ると次の供給過剰を招く要因にもなる。
決算発表とともにマイクロンが公開した年間設備投資額は、HBMに対する旺盛な需要を受けて250億ドル以上になる見通しだ。大規模な設備投資に対しては、投資家の懸念も高まっている。莫大な設備投資を実行しながら高い利益率を維持できるのかどうか、見極めも必要になろう。マイクロンの2027年第3四半期(2026年3-5月)の決算は、6月24日(水)の市場終了後に発表される予定だ。
石原順の注目5銘柄
