◆NHKの大河ドラマが好きで欠かさず見ている。大河ドラマは戦国時代ものがいい。最近では「真田丸」や「どうする家康」などの傑作があったが、今年の「豊臣兄弟!」も非常に面白い。秀吉を描いた作品はこれまで何度も作られてきた。今回は趣向を変えて、秀吉を支える弟・秀長が主役である。

◆貧しい農家出身で猿と呼ばれ馬鹿にされてきた秀吉がのし上がっていくサクセスストーリーは庶民受けする。それには「太閤記」などで語られてきた数々のエピソードの力が大きいが、大半が作り話であるというのが定説だ。なにしろ信頼性のある史料が少ないのだから仕方ない。弟・秀長となると、さらに確認できる史実は少なく、「豊臣兄弟!」の小一郎(秀長)が演じるストーリーもほとんど創作であろう。

◆第11回「本国寺の変」は小一郎が公方様(足利義昭)を守った話になっているが、三好三人衆らが義昭を襲撃した際、実際に防戦に当たったのは、現場にいた明智光秀である。まあ、ドラマだからフィクションでも一向に構わない。ただ、小一郎が発した台詞はリアリティがあり見る者の胸に響いたであろう。三好三人衆に囲まれ、もはやこれまでと死を覚悟した義昭は、自害するので「三好三人衆は将軍殺しだ」という悪名を世に伝えろと言う。しかし、小一郎はこう言い返すのである。

◆「(将軍を誰が殺したなど)そんなことはすぐに忘れられてしまいます。百姓にとってはだれが将軍であろうがさして違いはありません。潔く死んで満足するのは侍だけ。自分から死ぬ百姓はいない。泥水をすすってでも生きる。来年こそ豊作になると信じているから。豊作の世にしてくだされ。無様でも生き延びてくだされ」

◆為政者は面子やプライドのために戦争をする。それで迷惑するのは市井の人々である。庶民にとっては日々の暮らしが、自分や家族の安全がなによりも大事だ。いつか戦争が終わると信じて、泥水をすすって生き延びているひとたちが世界には多くいる。このような時代だからこそ小一郎の台詞は視聴者の共感を呼んだはずだろう。中東をはじめ世界で起きている戦乱が一刻も早く終わることを願っただろう。戦国時代が面白いのはドラマの世界だけである。