先週1週間のマーケットは、S&P500は1.2%の下げ、ナスダック100は1.05%の下げで終わりました。6月3日(金)の寄り付き前に非農業部門雇用者数が事前予想の31.8万人を上回る39万人と発表され、金融引き締め継続の観測が広がり、これまで上がっていた株価指数が売られる展開となりました。
企業トップによって見方が分かれる米景気後退の可能性
市場の予想を上回った雇用統計とは裏腹に、先週は米国大手企業からJPモルガン・チェース(JPM)のジェイミー・ダイモンCEOやシティグループ(C)のジェーン・フレーザーCEO、家具大手RH(RH)のゲーリー・フリードマンCEOらが投資家に景気後退への警戒を呼びかける発言を行っています。テスラ(TSLA)のイーロン・マスクCEOも米国経済に「ひどく嫌な予感がする」(super bad feeling)とツイートしています。
一方、このような大企業のトップによる米国経済に対するネガティブな発言を受け、ゴールドマン・サックス(GS)のロイド・ブランクファイン上級会長はこういった否定的な見方を「少し控えるべきだ」とツイートで呼びかけています。ブランクファイン上級会長によると現在リスクは高まっている時だが、米国経済がソフトランディングする可能性はあると他のCEOたちと異なる見方をしています。
従業員10%削減を発表したテスラだが
テスラ(TSLA)のイーロン・マスクCEOは5月31日に同社幹部宛てに送ったメールで、従業員に対して最低週40時間の出社を要請し、従わなければ「退職したと見なす」とし、ほぼ強制的に職場復帰を義務づける考えを示しています。マスク氏は同社の工場で長時間を過ごし、製造ラインの従業員に自身が働く姿を見せており、このような努力をしなかったらテスラはとっくの昔に破綻していたであろうとも述べています。
6月3日、マスク氏は同社が従業員の約10%を解雇する必要がある、ただし、工場で車やバッテリーパックなど生産業務に携わっている時給労働の社員数は減らさないという考えを示していることが報じられました。しかしその翌日4日、マスク氏はその内容を一転し、「総人員数は増えるが、(このうちの)給与所得者は横ばいになるはずだ」とツイートしています。これは時間単位で雇用される工場関係労働者の採用数増加を示唆していると考えられます。
私はこれら一連のメッセージは、マスク氏によるリモートで顔を出さない本社の社員に対するある意味の警告であり、マスク流の社員の気持ちを引き締めさせるための策なのではないかと思いました。
10%解雇のニュースを受けてテスラの株価が大きく下がったのは、他の大企業のマネジメントが米国経済の先行きについてネガティブな見方を発表する中、投資家によるテスラの販売台数が減るのではという懸念が原因だったと思います。これまで報道されたところでは、同社の工場での生産業務に関わっている社員数は減らさないということですので、テスラ車の売れ行きに対する懸念からくる株価の下落は行き過ぎではないかと思います。
株価が悪いニュースに反応しなくなってきている
マーケットの中は必ずしも悪い話だけではありません。6月1日(水)の引け後のことですが、マイクロソフト(MSFT)が大幅なドル高により 4-6 月期業績見通しの中で1株利益の見通しを従来予想の2.28-2.35ドルから、2.24-2.32ドルに下方修正したという報道が出ました。このニュースを受け、同社の株価は寄り付きから大きく下げて始まったのですが、結局、前日の終値を超えて取引を終えたのです。
これは5月30日付のコラムでも書いたことですが、5月25日に決算発表を行った半導体大手のエヌビディア(NVDA)も事前予想を上回ったものの、次の第2四半期の見通しについては売上が事前予想を下回った内容を発表しました。これを受け、引け後の同社の株価は一時7%を超えて下落しましたが、翌日株価は5%上昇して1日を終えたのです。
つまり、マイクロソフトやエヌビディアのような時価総額の大きな企業が悪いニュースを発表するも、株価の下げは一時的となり、株価がリバウンドして高く終わる事例が散見されているのです。これは今の株価が下がり過ぎの状況であり、悪いニュースに反応しなくなってしまったということではないでしょうか。
今週のマーケットのフォーカスは6月10日(金)に予定されている5月のCPI(消費者物価指数)です。4月のCPIは8.3%、食品・エネルギー除くCPIは前回の6.2%でしたが、今回はそれぞれ8.3%、5.9%が予想されています。