実は、私は全くと言って良いほど、自動車に興味がありません。一応、運転免許は持っていたのですが、米国勤務中に有効期限切れとなってしまい、1995年に帰国後、仕事が忙しくて更新する暇がなく、完全失効させたくらいです。特に東京に住んでいると公共交通機関の便も良く、急ぎの時はすぐタクシーに乗れるので、自分で自動車を運転しようと思わなかったのです。自宅には家族が乗るための自動車がありますが、私はいっさい運転しません、というか運転できないのです。
そんな私は2010年代前半、東京都港区の青山の近くにあった当時聞いたこともない自動車会社のショールームの前を何度も散歩していましたが、その自動車に対して全く興味を抱きませんでした。実はそのことを非常に後悔しています。その自動車会社とは、テスラ[TSLA]のことです。
テスラは単なるEVメーカーではない
その後、私は米国株の仕事を通じて、テスラが脚光を浴びているEV(電気自動車)の企業であることを知りました。それでも当時テスラに対してほとんど興味がなかったのです。当然イーロン・マスク氏の名前も知らないくらいでした。
それが一転してテスラに対して興味を覚え始めたのは、テスラの自動車が単なるEV車でなく、コンピューターを搭載したEV車であり、将来的に自動運転を可能にしそうだということを知ってからです。私は自動車には興味がないものの、未来のテクノロジーに対しては非常に興味を持っています。そこからマスク氏について興味を持ち、テスラの将来性について真剣に考え始めたのです。そして、仕事でテスラの最高技術責任者兼共同創業者(当時)のジュ・ストラウベル氏にインタビューする機会を得るなど、テスラ車の魅力を理解するようになりました。
テスラの時価総額順位は世界の株式市場で第9位
テスラの株価は、2021年11月に414ドルと史上最高値を付けました。世界の株式市場の時価総額で見ると、現在テスラは図表1の通り9番目です。
テスラに100万円投資していたら
テスラが上場したのは2010年6月29日のことです。テスラのIPO(新規公開株式)で100万円分のテスラの株式を購入し、これまで保有していたらどうなっていたのでしょう。
その100万円を2023年5月30日の引けまでS&P500に投資していたとすると、配当金の再投資を含むリターンは404万円になります。一方、同じように100万円をテスラ株に投資していたとすると、その100万円は、1億2630万円となります。
このテスラの同期間のリターンは、他のGAFAM銘柄のリターンを桁違いに大きく上回っています。テスラの創業者であるイーロン・マスク氏が、今、世界一の富豪と言われている理由がよくわかる気がします。
テスラ株は非常にボラティリティが高い
ただし、現在に至るまでのテスラ株の道のりは大変険しいものでした。図表3はテスラ株が高値を更新してからの下落の推移です。
図表3を見て分かることは、テスラ株は高値をつけてから30%を超える調整が何度か起きたということです。株価が半分程度になったことも4回あります。テスラ株は非常にボラティリティが高いのです。つまり、テスラ株に投資をすると、非常に激しい株価の乱高下を経験することになります。やはりハイリターンは、ハイリスクなのです。夜も眠れず不安に思ってしまう人もいることでしょう。そういうのが嫌だという方にはテスラ株への投資は向かないかもしれません。
そんなに乱高下するのであれば、テスラの株価が上がったら売ってしまい、下がったら買い戻せば良いだろうという意見が聞こえてきそうです。
図表4は、もし2010年6月28日から2023年5月30日までの期間で株価のパフォーマンスがどうなったかを示したものです。この間テスラ株を売らずにずっと保有してきたとすると100万円で買ったテスラ株は1億2630万円になりました。
それが、ベストの1日間保有していなかったとすると、そのリターンは1億152万円へと下がるのです。もしベストの2日間保有していなかったとすれば、その間のリターンは8468万円となります。3日間を除く場合7,078万円で、4日間を除く場合だと5,938万円であり、5日間だと5,015万円へとテスラ株の投資の魅力が減ってくるのです。
実際、最も上昇した日だけ株式を保有していないということは現実的に考えられませんが、このデータが示唆するものは、売買のタイミングを狙い、株価が上がった時に株式を保有していない時のリスクです。多くの場合、株価の急上昇は突然やってくるのです。
前述の通り、保有しているテスラ株を高くで売って安く買い戻すという意見もあるでしょうが、売却するとその度に税金を払わなければなりませんのでその点にも留意が必要です。
テスラ株の長期的な可能性とは
株式を長期的に保有するのであれば、その企業の長期的な可能性を信じられるかが大切です。先ほどテスラは単なるEVメーカーではないと説明しました。では、テスラの可能性とは何でしょうか。
テスラは既に2023年以降、「セミ」と呼ばれるトレーラーヘッドのEVトラックや、「サイバートラック」と呼ばれるEVピックアップトラックなど未来のEVトラックを生産することを発表しています。
テスラはこれまでの常識では考えられない事業の展開を始めています。例えば、自動車保険というと、従来は年齢や性別、事故歴といったドライバーの属性情報を使って保険金の算定を行なっていましたが、同社は運転手向けに運転行動にもとづいた月ごとの保険料を算定しています。これができるのは、将来の自動運転を可能にする運転支援機能「オートパイロット」向けセンサーデータの活用を行なっているからです。このような算出方法により、同社はこれまでの一律の保険料でなく、運転手に合わせた割安な保険料のプライシングが可能となります。これにより、テスラ車を所有するトータルのコストを下げることができます。
マスク氏は、テスラは2023年中にハンドルを一切触る必要のない完全自動運転車を実現するだろうとコメントしています。また、同社は半導体不足等で以前の計画より遅れていますが数年後に低価格の小型電気自動車を投入する予定です。
これらが実現したら次の展開として、同社はロボタクシーと呼ばれる自動運転タクシー事業を開始したいとしています。タクシーのコストの大半は運転手の賃金とガソリン代です。
テスラは太陽光ソーラー事業も行っており、発電、蓄電の分野も押さえています。つまり、初期投資を行なってしまえば電気代は基本タダですし、自動運転ですから人件費もかかりません。同社によると、タクシーをバスと同じような料金で提供できるとしています。これは既存の自動車業界とは別の市場を新たに作っていくことになります。
また、テスラは既に人を運んでくれる空飛ぶドローンの開発を終えているという見方もあります。マスク氏は、「ボーリング・カンパニー」という会社を設立し、地下にトンネルを掘り、その中を自動運転車で移動することで、地上の渋滞を緩和させようとするプロジェクトも進めています。
このような展開を見ていると、テスラは地上だけでなく、空中、地下、そしてスペースXを含む宇宙といった空間における輸送のプラットフォームを築くことになるように思います。
かなり以前からテスラの将来性を見抜き、テスラの株価上昇を当てたことで有名なアーク・インベストメントのキャシー・ウッド氏率いる調査チームは2023年の4月に、2027年のテスラの目標株価は2,000ドルになるだろうと発表しました。強気のシナリオでは2,500ドルであり、弱気のシナリオでも1,400ドルとしています。その価値の6割以上がロボタクシーとしています。
私は正直、5年後のテスラの価値がいくらになるかわかりません。ただ、テスラの成長はまだ始まってばかりであり、これからも同社は進化し、世間を驚かせていくだろうと思っています。株式投資とは夢を買うことでもあります。同社は十分夢を感じさせる企業であり、その夢は少しずつ実現されていくのだと思います。その過程で、株価は今のレベルより上がっていき、同社いずれ米国株の時価総額1位のアップルの時価総額を超えてくる可能性を潜めているのではないかとすら考えています。
冒頭に触れた私の免許の話ですが、このようにテスラが自動運転のタクシーを始める世の中になるのであれば、ますますあらためて免許を取得する必要性はなくなってくると思っています。
※本レポートは2022年5月31日に作成し、2023年6月2日に内容を更新しました。