先週、米国株式市場を下げた要因とは

S&P500は先週0.03%下げました。これをもってS&P500は7週連続で下落したことになります。最後に7週連続で下落したのは1980年3月来のことで、この時は8週連続で下落しています。NYダウも、8週連続の下落となり、1932年来、90年ぶりの連続の下げとなりました。

先週の下げで目立ったのは水曜日(5月18日)のマーケットの急落です。この日のS&P500は4%の下げを演じました。きっかけはディスカウントストア大手のターゲット(TGT)の決算が事前予想を下回ったことでした。「ターゲット・ショック」と呼んでも良いでしょう。ターゲットの第1四半期決算は市場のコンセンサス予想を29%下回り、株価は1日で25%下落しました。これまで堅調だった米国人の消費動向を懸念してのことです。

加えて、この日は米国時間朝方2%台で推移していた米国債10年利回りが、再度3%という大台に乗ったこともこの日の下げを誘発したと見ています。米国債10年利回りは5月9日に3.29%まで急上昇しましたが、その後、株価が大きく下落する過程で3%を切って推移していました。

私が不思議に思ったのは、前日火曜日(5月17日)世界最大の小売店のウォルマート(WMT)の決算が予想を下回り、株価が11.4%下落したにもかかわらず、マーケットは特に反応せずこの日S&P500が2%上がったことです。しかも、この日、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長がインフレ退治の為にはFRBは必要なだけ金利を上げる、とタカ派的なコメントをしていたのですが、これについてもマーケットは反応しなかったのです。

翌水曜日(5月18日)、前日のことを思い出したかのように、マーケットはネガティブに反応しました。このようなディレイド・リアクション(遅れた反応)もマーケットの下げを強めたのだと思います。

また、先週金曜日(5月20日)は1.9兆ドル相当のオプションの最終取引日(そのうち4600億ドル相当は個別株オプション関係)であったこともあり、先週のボラティリティの高さ(株価の乱高下)はオプション絡みのテクニカルな理由であったと考えられます。5月20日、S&P500は一時的に最安値の3,810ポイントまで下落しましたが、その後2時間半かけて1.9%リバウンドしたのはまさにオプション関係の取引のためでしょう。

引値ベースではベアマーケット入りを回避したが

S&P500の1月3日の史上最高値から5月20日までの下落率は18.7%(引値ベース)です。ベアマーケット(弱気相場)の定義は20%の下げですから、引値ベースでは辛うじてベアマーケット入りを避けています。

現在、投資家の皆さんが最も知りたいのは、いつマーケットは下げ止まるのかということでしょう。インフレは40年来の高いレベルであり、金利も上昇し、将来に対する不安が高まるなか、これ以上悪化しないだろうというくらい投資家のセンチメントは歴史的にみて最悪の状況です。そう言った意味では、マーケットはいつ底を付けてもおかしくはないのですが、市場は毎週連続下がるのみです。

今回のような大きな調整局面で株価が最安値を付けたことを確認するにはキャピチュレーションが必要です。キャピチュレーションとは、降伏するというような意味で、これで米国株はもう終わったと、誰もがヒヤッとするようなパニック的な、クライマックス的な売りのことです。これが起きると株価は底をつけ、リバウンドするのです。それがなかなか起きてくれません。米国のメディアでも、マーケットがいつ下げ止まるのかについて議論されていますが、コンセンサスはありません。

5月20日の安値は今回の下げのボトムなのか

先週金曜日(5月20日)のS&P500は0.01%上がって終えているものの、ザラ場中には一時前日比で2.3%下げています。この売りでS&P500は3,810ポイントへ下がり、最安値を更新、一瞬だけ史上最高値からの20%の下げとなり、ベアマーケット入りしていました。しかし、引値ベースでベアマーケットを避けたことで、5月20日の下げが、今回の調整局面の大底だったのではないかという見方もあるのです。

週末、私のツイッターで、「金曜日の下げで今回の調整は終わったと思いますか」とアンケートを行ったところ、1,838人の回答者の中で「そう思う」との回答は18%だけで、82%が「そう思わない」と回答しました。コンセンサスは常に間違うという法則に沿って、逆張り的に考えるとすると、5月20日のザラ場中の下げが、今回の下げのボトムであった可能性もあるかな…とも思います。その見方が正しいのか、これは歴史が教えてくれることになります。

マーケットは常に単純ではありません。今はパウエル議長率いるFRBがパンデミックでダメージを受けた米国経済を正常に戻そうとしている局面です。そのため、誰もが経験しなかった状況の舵取りをしている難しさがあります。そんな難しさを今の株式市場は反映しており、投資家の皆さんは不安に思っていることでしょう。

長い米国株の歴史を見てきて言えることは、現在の株価の調整というのはあくまでも2013年に始まったブルマーケットのなかでの一時的な下げであり、これで長期的な上昇トレンドが終わろうとしているわけではないということです。