私は、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイの定時株主総会に出席すべく、米国ネブラスカ州のオマハへ向かいました。バフェット氏は世界で5番目の富豪であり、最も成功している投資家として知られています。その彼がCEO兼会長を務めるバークシャーの時価総額は7,043億ドル(約91.6兆円)、世界の株式市場では7番目の時価総額の規模を誇っています。

バフェットの故郷オマハは、どんな場所か

実はオマハへ行くのは私にとって初めての経験です。米国には9年ほど住んでいましたし、コロナ以前は毎年のように米国を訪問していましたが、ネブラスカ州には一度も足を踏み入れたことがありませんでした。渡米経験がある日本人でもネブラスカ州へ行ったことのある方はかなり限られているでしょう。あまり観光名所がないからです。

オマハで生まれ育ったというウーバー(UBER)の運転手に、オマハの名所を聞いてみると、「オマハ動物園とダウンタウンにあるレストラン街のオールドマーケットくらいでしょうか。退屈な町ですよ」と笑って答えられました。そして、「言い換えると、のんびりとした、人も良い町です」と言われました。実際にオマハの街に4日間ほど滞在し、「それは間違いない」と思いました。まさにそれは、今回の旅の中心人物であるオマハ出身のバフェット氏の人柄についても言えることだと思います。

バークシャーの年次株主総会はバフェットファンの一大イベント

そんなネブラスカ州の州都であるオマハですが、年に1回春に開催されるバークシャー・ハサウェイの株主総会にはバフェット氏の話を生で聞きたいバフェットファンが世界中から集まります。コロナ禍の影響で過去2年間の株主総会はオンラインで開催されていたので、今回は3年ぶりの対面株主総会となりました。

バフェット氏によると、バークシャーの株主数は350万人ほどとのことです。地元のお土産屋の店主の話では、3年前の株主総会には株主数の1%を超える約42,000人のバフェットファンが集まったそうです。ただ、今年の総会についてはまだコロナが終息していないため、対面での参加を躊躇した株主がかなりいたようです。

地元紙のオマハ・ワールド・ヘラルド紙のヘッドラインは、久しぶりに対面で開催されるバークシャーの株主総会の週末はまるで「家族の再会のようだ」と報じています。また、報道によると、今回の株主総会には、アップルのティム・クックCEOや、JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOも観客として参加していたとのことです。

余談ですが、オマハに滞在中AP通信の記者と目が合い、株主総会についてインタビューを受けました。そして私がコメントした内容がニュースとして世界のメディアに配信されるという大変名誉なハプニングにも預かりました。

地元の人から伝わるバフェットの人柄

今回の旅の最中、地元の方々にバフェット氏について聞いてみましたが、彼はオマハでごく普通の人として生活しているようです。「地元の普通のレストランで食事をしていたら、隣のテーブルにいたのがバフェットだった」と言うウーバーの運転手もいました。バフェット氏が月に3〜4回ほどは必ず訪れるというステーキハウスのスタッフのエレンさんは「2005年から彼(バフェット氏)を接客していますが、気さくに声をかけてくれ、素朴で、かつ謙虚な人ですよ」と語ってくれました。

バフェット氏は大のコカ・コーラ好きで、毎日缶のコーラを5本ほど飲んでいることで有名ですが、マクドナルドのハンバーガー好きであることでも知られています。バフェット氏を特集したTVドキュメンタリー番組によると、彼は自宅からバークシャーの本社の間にあるマクドナルドの店舗のドライブスルーで3種類の朝食メニューから、気分次第でその日食べるものを決めるそうです。マーケットが下がっている日は、最も値段が安いソーセージが2つのパティを食べるようにする…などの判断をしているとのことです。

バフェット氏の親友であるマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は、ブログ上でバフェット氏の食習慣について「6歳児のようだ」と表現し、「離乳食を食べることは卒業したが、彼は大体においてハンバーガー、アイスクリームやコカ・コーラを口にしている」と書いています。その理由についてバフェット氏は2015年の米フォーチュン誌のインタビューで以下のように語っています。「保険統計表を調べてみると、死亡率が最も低いのは6歳児のあたりだとわかりました。なので、6歳児のように食べることにしたのです。この年代の食事が最も安全なのですよ」と。

本当にバフェット氏が今もマクドナルドに通っているのかを確認すべく、私は株主総会の翌朝10時くらいに彼が訪れると言われるマクドナルドの店舗を訪れました。「本当にバフェットはここに買いに来ている?」と聞くと、カウンターの女性スタッフが「そうよ、今朝も先ほどこちらのドライブスルーに来ていましたよ」と教えてくれました。

1958年に3万ドルで買ったバフェットの自宅

バフェット氏の自宅前にて

バフェットファンが、バークシャーの株主総会でオマハに来たついでに必ずと言って良いほど訪れるのが彼の自宅です。地元の人に聞くとバフェット氏の住むオマハ市のダンディー地区は高級住宅街ではなく、ミドルクラスよりちょっと良い程度の住宅街だと言います。しかも、近所を歩くとこの辺りではバフェット邸が最も大きな家というわけでもありません。

株主総会の前日、この家を訪れてみると、次から次へとバフェットファンが見学に来て、写真撮影をしていました。その場にいた3人に話を聞いてみると、皆さんオマハ訪問は初めてで、シアトル、ロスアンゼルス、フィラデルフィアから来ていると言います。他のアジア人の2人にも話をしてみると、マレーシアから来ており、3年前からバークシャーの株主で、株主総会に参加するのは初めての経験だと言います。

オマハで最も有名であろうこの家をバフェット氏は1958年に31,500ドル(当時の為替レート1ドル=360円で換算すると約1134万円)で購入しています。それが現在の価値は652,619ドル(現在の為替レート1ドル=130円で換算すると約8500万円)くらいだと言われています。もちろん、この家が実際に売りに出されたらバフェットプレミアムが付き、売り出し価格はこの倍以上はいくだろうと見られています。2022年米フォーブス誌の世界富豪リストによると、世界で5番目の富豪のバフェット氏の総資産は1,180億ドル(約15.3兆円)と言われていますので、この家の価値は彼の総資産の0.1%を下回る計算です。

バフェット氏の自宅の広さは約610平方メートルで5つの部屋があり、バス・トイレは2.5あるそうです。実際に見たところ、これに警備員用の部屋も付け足したようです。それでも2010年の「株主への手紙」で、バフェット氏はこの家を買ったことをこれまでに行った投資の中で「3番目にベストな投資」と書いています。彼の家からバークシャー・ハサウェイ本社までは20ブロックで、その運転時間は5分間。今でもできる限り自分で運転しているようです。

株主を笑わせ続けるバフェットとマンガーの絶妙な掛け合い

株主総会の当日の朝は、オマハ市内の数多くのホテルからバークシャーの株主たちが、一斉にタクシーやウーバーを利用して会場であるCHIヘルス・センター・オハマと呼ばれる巨大な展示会会場へ向かいます。事前に私は、バークシャーの株主総会に詳しい米国人の知り合いから、かなり早い時間から会場に向かうことを勧められました。会場は自由席なので少しでもバフェット氏を近くで見ようと皆が朝早くから並ぶからです。

会場近くのホテルの部屋は早い段階から満室になり、総会の前日は部屋があったとしても1泊1,000ドルと、バークシャー株主総会プレミアムが付いており、私はダウンタウンから離れたホテルに宿泊しました。それでも通常では1泊100ドルもしないであろうこのホテルの部屋は4倍の1泊400ドルというプレミアム価格になっていました。

私の宿泊したホテルは株主総会の会場から車で30分ほどの場所だったので、朝6時にホテルを出発しました。開場の7時の30分前である6時30分過ぎに到着したものの、その時には既に長蛇の列ができていました。私の後に並んでいた方はロンドンから訪れており、今回初めて参加でき非常に嬉しいと笑顔を見せていました。

入場に際しては、株主であることを証明する事前に送られたバッジ、身分証明書、そして今回はワクチン接種証明書の提示も求められました。最大18,300名ほど収容できる会場ですが、私が席についた時には既に7割以上の席が埋まっていたと思います。

株主総会はスケジュール通り午前8時半から始まり、バークシャー制作の同社の子会社を紹介するプロモーションビデオが45分に渡り上映されました。興味深かったのは、その中にアメリカン・エクスプレスやアップルのプロモーションビデオも入っていたのです。これはバフェット氏が言う、「バークシャーは企業の一部を保有している」という考えの表れなのかもしれません。

9時15分にビデオの上映が終わると、暗かった会場のホール前方の席に密かに座っていたバフェット氏を含む4名のバークシャーのマネジメントにライトが当たります。彼らの姿が見えると、観客は皆立ち上がり、スタンディングオベーション(観客が立ち上がって拍手を送る)で、彼らに敬意を表します。まさに、ここは「資本主義のウッドストック(1969年に行われたロックを中心とした大規模な野外コンサート)」と言われていることを思い出した瞬間です。

スピーカー席にはバフェット氏、チャーリー・マンガー氏、そしてその横にはバークシャー・ハサウェイ・エネルギーCEOのグレッグ・エイベル氏とバークシャーの保険部門を統括するアジット・ジェイン氏が並んでいました。この2人は昨年初めて登壇して、今年は2回目になります。これはバフェット氏とマンガー氏から、エイベル氏とジェイン氏への引き継ぎが始まっていることを示しています。

バフェット氏の話は、分かりやすいだけでなく、参加者を笑わせてくれます。天才的なユーモアのセンスがあり、10分に1回は笑わせてくれます。バフェット氏は、総会の最初にバークシャーは、2人で合計ほぼ190歳によって経営されていると話し、「91歳と98歳の老人がバークシャーを経営しているのであれば、株主としてはどんな年寄りがこの会社を経営しているのか見てみたいと思っているのでしょう」と言います。

また、「チャーリーはいつも自分がどこで死ぬのかを知りたいと言っています。前もって自分が死ぬ場所がわかっていれば、そこに行かないようにすればいいのですから」と言い、なるほど…と思わせてくれます。それに対しマンガー氏も「これまでのところは、(死ぬ場所に行かないことに)成功しています」とツッコミを忘れません。

日本の株主総会で、これだけ株主を笑わせ続ける経営者はそれほどいないでしょう。

バフェットにとってバークシャーは芸術作品

バフェット氏は、自分は芸術についてよく分からないと言います。実際、美術館に行っても気になるのはトイレがどこにあるかぐらいだと冗談から始まるのですが、「私にとってバークシャーは絵画のようなものです」と語ります。「絵の大きさは無制限だし、キャンバスも必要に応じて大きなサイズにできる。自分が描きたいように絵が描けます」、「アイディアは私の頭の中にあり、描き始めると次から次に色々なものが見えてくるのです。満足しています」とのこと。この発想こそがバフェット氏の、いやバークシャーの真髄とも言えるでしょう。

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