マネックス証券が2021年10月より掲げている新たなブランドビジョン「大切なものに投資をしよう」には、投資の価値を儲けや利益だけではなく、それぞれの未来や夢を実現させるものへと進化させていきたいという思いが込められています。そこで、このビジョンが生まれた背景をより多くの方に理解していただくために、投資を通じて「大切なもの」の実現に向けた未来づくりをサポートするマネックス・アナリスト陣にインタビューを実施しました。

アナリスト陣が考える、「大切なもの」とはどのようなものでしょうか?第1回目はチーフ・ストラテジストの広木隆のインタビューをお届けします。

自信満々でヘッジファンド立ち上げを目指すも挫折を経験

――金融マーケットに30年以上携わっている広木さんのキャリアについて教えてください。

広木:新卒で入ったのは国内大手の証券会社でしたが、希望の国際業務にはつけず、与えられた仕事は、いわゆるドブ板営業。とはいえ、バブル時代で厳しいノルマがあったものの、証券の世界の面白さに気づき、当時は珍しかった転職をしました。

自分で大きなお金を動かして、運用したいという想いが強くなり、都市銀行の子会社でファンドマネージャーになりました。正直、銀行員に株のことなんてわからないだろうとタカを括っていたところがあったんです。でも、とんでもなかったですね。証券投資理論を徹底的に叩き込まれたエリートが集まっていて、証券会社に出向して現場経験を積んでいる。知識でも経験でも全然かなわず、ひたすらコンプレックスを感じていました。

そんなコンプレックスを原動力に、10年間猛勉強した後、外資系の大手運用会社へ再転職しました。自分自身のサラリーマン人生で最高水準の給料を手にしました。しかし、42歳で自らのヘッジファンドを立ち上げることを決意しました。

ちょうど子どもが生まれた時でもあって、「なぜこんなにもいいポジションを捨ててまで、危なっかしいことを始めるんだ」と言われましたが、あと何年、この生活を続けられるかわからない。今、自分でヘッジファンドを始めれば一生できると、自信満々で始めたんです。しかし、スポンサーの体調が悪くなりお金を引き揚げたいと言われ……。新しいスポンサーを探しにNYに行き、駆けずり回ったものの為す術なく、そのファンドはクローズせざるを得ませんでした。

資金を調達し、自らの責任で経営する難しさを肌で感じた時、思い出したのは中小企業を経営していた父親のことでした。

毎日、手形が落ちるか心配するような状態で、これ以上続けても借金が増えるだけだからということで、最終的には僕が父の事業を閉じてしまったんです。しかし、その後やりがいを失った親父は、あっという間に亡くなってしまって……。今では、自営業者として自らリスクを取って、苦しくても家族を養い、子どもを育ててくれた親父のすごさがわかるので、後悔が大きいです。

その後、縁あってマネックス証券へ。ファンドマネージャーとして運用するのではなく、分析を顧客に伝えるストラテジストになるとは思ってもいませんでした。しかし10年以上続けている今、この仕事を「天職」だと感じています。

お客様からフィードバックを直に、これほどたくさんいただける仕事があるとは驚きました。お褒めの言葉がモチベーションになっていますが当然、予想が外れれば罵詈雑言です。とはいえ、それさえもやりがいとして自分に返ってきています。

58歳で博士号を取得し、長年のコンプレックスを払拭

――博士号を取得されたとうかがいました。理由を教えてください。

広木:今の天職に出合うまでは、ヘッジファンド立ち上げの失敗を含めた挫折やコンプレックスを糧に、切り拓いてきた人生でもありました。ストラテジストとして脚光を浴びるようになるとテレビ出演も増え、青山学院大学で担当するMBA講座も毎年大人気です。それでも、学問として経済を学んでこなかったことへのわだかまりが、ずっと心の中から消えることはありませんでした。

銀行の投資部門時代、周りは東大、京大、一橋といったトップクラスの大学出身者ばかり。ハーバード大学でMBAを取ったなんて人もざらにいて、学歴コンプレックスができてしまったんです。叩き上げとして30年間やってきて、ストラテジストという立場で経済やマーケットを語り、青学の教壇に立っていますが、何の学位も持っていなかったし、”ちゃんと学んできていない”自分のままでいいのか、という引っ掛かりがどこかにありました。

そんな自分の中のわだかまりを払拭すべく、2020年に神戸大学大学院博士課程へ進学し、通常3年かかるところを2年で終えることができました。

――働きながら大学院に通うことは、かなりの時間と体力、そしてお金の投資も必要だと思いますが、大きな投資に見合うリターンはあったのでしょうか。

広木:僕は、根っからの文系ですが、今の経済学は数学から逃げていたら修められないんです。数学への苦手意識があるので大変でしたが、今では統計プログラムソフトのコードを自分で書けるようにまでなりました。博士号を取得できたことは、僕にとって人生の重大ニュース。素直にすごく嬉しかったです。

自分のために、誰かのために。ファイナンシャル思考の投資が暮らしを守り、夢の実現へとつながる

――広木さんにとって、「投資」とはどのようなことでしょうか。

広木:「投資」には様々な定義がありますが、最も単純に考えると、それは投じたお金に対してリターン=見返りを期待することです。企業を応援するだけであれば、寄付という形もあるわけですから。「大切なものに投資しよう」というと、僕にはすごく範疇が限られてしまうように感じられます。これを「大切なもののために投資しよう」と考えてみると、わかりやすいのではないでしょうか。

例えば、子どもという大切な存在のために、教育資金を投じる。この時のリターンは、子どもの成長や未来です。自分自身のために、授業料を投じて英会話を習う。これも、英会話を身につけることで得られる成長やステップアップという見返りがあります。つまり、自分にとって大切なもの、暮らしや夢のためにファイナンシャル思考で投資を行えば、リターンとして自分の大切なものを守ることができ、夢を実現できるのではないでしょうか。