「えっ、あなたの国でもネットフリックスが観れるのですか!」私が驚いたのは、2017年、アフリカ西部のセネガルの首都ダッカで、この国の最大手上場企業のソナテルの本社でのCFOとのミーティングをしている時のことでした。ソナテルとは、セネガルのドコモのような通信会社です。ソナテルの事業について話を伺っている際に、先方から彼らのサービスの一環としてネットフリックスのマーケティングを行なっているという話が出たのです。

私にとって意外だったのは、1人当たりのGDPが当時1,361ドル(当時の為替で約15万円)のこの国でネットフリックスを観る人がいるのだということでした。その後冷静に考えてみると、どの国の人であってもエンターテイメントを欲しがっており、その傾向はむしろ所得の低い国の方がその気持ちは高いのだろうなと、腑に落ちたのです。ハリウッドのグローバル進出はDVDや映画館だけでなく、インターネット上でも着実に進んでいたのです。

アメリカでコード・カッティングという言葉が使われ始めました。2007~2008年頃のことです。
コードカッティングとは、ケーブルテレビを解約して、インターネットの動画配信サービスを選択する消費者動向を表す言葉のことです。アメリカでは全米的にケーブルTVが普及しており、地方にいても地上波のローカルのTVだけでなく、スーパーチャンネルと呼ばれる地方の人気TV局や、ニュース専門チャンネルなど425以上のチャンネルが観られるようになっています。

ケーブルTV離れを引き起こしたきっかけが、ネットフリックス、アマゾン、HULUといったストリーミング動画配信の存在です。ネットフリックスは3,781以上の映画を、米国では月間9.99ドル(約1,200円)で観ることができ、いつでも解約可能です。一方、ケーブルTVは125ものチャンネルがあるものの、月間75ドル(約9,100円)も払う必要があります。しかも最低契約期間があるので自由にキャンセルはできません。加えて、125ものチャンネルのほとんどは観ないでしょう。

米国でのストリーミングサービス業界の競争は激化する一方です。日本でもサービスを行なっているアップルTVプラスやディズニープラスに加え、映画会社やネットワークTV局も独自のストリーミングサービスを開始しています。例えば、フォックスエンターテイメントのTubiでは、3.5万以上の映画や、95以上のローカル局のニュースを24時間無料で配信したりしています。無料なのはCMモデルだからです。4大テレビネットワークの一つNBC放送のストリーミングサービスであるピーコックは、過去のNBCが放送したドラマなどの番組を無料で見ることができます。実はアマゾンはアマゾンプライムとは別に、IMDb TVという無料でプレミアムな映画が観られるストリーミングサービスを保有しています。私が感動したのは、Pluto TVと呼ばれるストリーミングサービスで、ここでは映画に加え、100以上のチャンネルの中で、ある特定の番組を一日中放送しているチャンネルがあるのです。日本で例えて言うと、水谷豊演じる「相棒」シリーズを24時間連続で毎日放送しているようなチャンネルが数十もあるのです。それがもちろん全て無料なのです。
このような状況ですから、各社視聴者獲得のために大金をかけて、より質の高い番組を作ろうとしている訳です。

今年の94回アカデミー賞では、ネットフリックスオリジナル作品は合計10作品・27部門のノミネートを獲得し、2021年に続き、最もノミネートを受けた映画制作会社となりました。また今年はアップルTVからも史上初のアカデミー賞作品賞ノミネートがありましたが、3月27日に行われた発表、授賞式では同社制作のCODAが見事作品賞を受賞しました。ストリーミングサービスとして初の受賞となりました。

このように動画ストリーミングサービスから、並みいるハリウッドメジャースタジオを制する作品が登場しており、テレビ・映画ファンには見たい作品が多すぎる、忙しい時代になるかもしれません。