みなさん、こんにちは。相場の波乱が続いています。前回のコラムでも触れた通り、かなりボラティリティの高い展開にあると言えるでしょう。
実際、株式市場への逆風は着実に増してきている状況です。以前から指摘していた世界的な金利上昇に加え、東欧・東アジアにおける地政学リスクの高まり、国内では増税観測やスタグフレーションの発生懸念なども燻ってきました。
逆に、追い風は少なく、株価の上げ材料はかなり息切れという感触は否めません。当面はボラティリティが高いと割り切って、それに則した投資スタイルでの対応が重要と私は考えます。
株主優待は日本特有の株主還元制度
さて、今回は「株主優待」をテーマに採り上げてみましょう。そろそろ3月決算期の企業にとっては株主優待の権利確定日も近づいてきました。様々なサービスや製品が提供される株主優待は非常に楽しみでもあり、読者の中にも株主優待リストなどから投資銘柄を選んでいるという方は少なくないのではないでしょうか。
実は株主優待というのは日本独自の株主還元の方法で、欧米ではまず見られません。欧米でも株主優待のようなものは僅かにあるのですが、それは厳密には株主特典というべきもので、自社サービスを株主に受けてもらおうという意図のものがほとんどです。
日本のように金券や事業と関係のない製品・サービスを提供するような例は、まさに日本独自のものなのです。そして、それを重要な投資判断基準に置くというのもまた、日本独自の投資行動様式と言って良いのかもしれません。
株主優待に2極化の動き。縮小、廃止が増える背景とは
そのような株主優待ですが、今期は株主優待の内容を変更するとした企業が例年に比べてかなり増えているのです。しかも、これまではどちらかというと株主還元強化の流れから優待をより充実させる方向の変更が多かったのに対し、今期は株主優待の縮小・廃止を決める企業も目立つのです。この二極化の動きは一体どういうことなのでしょうか。
答えは、2022年4月からスタートとなる東証の上場市場区分の変更にあります。そもそも今度発足するプライム市場では、グローバルな投資家との積極的な対話に向き合う企業がその対象となっており、それに併せて株主数や流通時価総額、1日の売買代金などに一定の基準が設けられました。
この基準をクリアするために、あるいはより確固たるものにするために、株主優待の内容にも変更を加えようとする企業が増加しているのです。
株主優待の変更に伴う企業の思惑、投資家の視点
例えば、株主数や売買代金に関する基準の達成が心許ない企業では、株主優待を一層充実させて潜在株主に訴求しようという動きがあります。そのような条件は完全にクリアしているものの、プライム市場化を機に政策的に個人株主のウェイトを引き上げたいという企業も同様のアクションを取り始めています。これが株主優待強化のケースです。
一方、グローバル投資家との対話をより重視する企業では、株主優待の縮小・廃止へと動く傾向があります。海外の投資家にとって日本限定の金券や物品などは使いようがなく、そのようなものに優待としてお金を使うなら配当に回してくれ、という投資家サイドの主張に対応するためです。
これは国内の機関投資家にとっても同様で、株主優待品を勝手に社員が使うわけにはいかず、換金して投資リターンに組み込むか、換金不可なものは寄付しているというのが実状です。処分にコストが発生することなどを考えると、やはり配当への一本化が有難いところです。
個人投資家と機関投資家にかかわらず、あるいは国内と海外にかかわらず、株主還元は本来平等であるべきという観点に立てば、この主張もまた理に適ったものと言えるでしょう。
とはいえ、個人投資家からすれば、株主優待の縮小・廃止がマイナス材料であることは確かです。どれだけそれが理に適ったものであっても、個人投資家にとっては「既得権益」が阻害されることになるのですから。そのため、これらの動きを受けて短期に株価が調整する可能性もあると考えます。
企業の配当性向から本質的な株主還元を見極める
しかし、企業がより合理的な行動を採ろうという姿勢を過小評価することは危険です。どの企業も株主優待の縮小が株価下落を招くリスクだと理解しつつも、それでも筋を通すという経営判断に至ったはずだからです。
このことは、経営陣でリスクとリターンを見定めるしっかりとした議論がなされていることを示唆しています。このような決断をする企業は、今後もより合理的でわかりやすい経営を推進する可能性があると期待できるでしょう。株主優待の縮小・廃止で株価が嫌気される局面があれば、逆に投資機会になるかも知れないと前向きに捉えることも重要と考えます。
そこで、私は株主優待の縮小・廃止を明らかにする企業に対して、では配当はどうなのか、配当性向は明示されているか、を確認することにしています。
優待を縮小・廃止してもその分配当を増やせば、株主メリットに変更はありません。また、株主優待の縮小・廃止で企業側のコストが下がる分、単純に考えればその企業の利益が上乗せされるはずです。
配当性向をしっかりと明示している企業であれば、その利益上乗せ分もまた(一部ですが)配当として還元されることになります。きちんと株主還元を充実させようという意思はしっかり見えると言えるでしょう。
株主優待の変更に一喜一憂することなく、本質的な株主還元がどうなっているかを見極めたいところです。