配当貴族銘柄は荒れ相場の中の優等生

ウォール・ストリート・ジャーナルの記事「高配当に殺到、荒れ相場の影で」(2022年2月9日)によると、「株式市場が低迷しているこの冬、退屈な企業に熱い視線が向かっている」という。「今年に入り米主要株価指数が下落したことから、一部の投資家は安全な逃避先を求めて高成長のテクノロジー株を売って、銀行や石油会社、通信企業など、株主に配当を支払ってきた堅実な企業の株を買っている」とのことだ。

同記事によると「S&P500種の配当支払企業の上位80社で構成するS&P500高配当指数は、2月4日までに配当込みで2.1%上昇した。これに対し、4日までのS&P500種指数のトータルリターンはマイナス5.5%となった」という。FRB(米連邦準備制度理事会)による金融政策の転換を前に相場が乱高下している中、こうした荒波に耐久性のある配当志向の企業は投資家にとって都合のいい逃避先になっていると指摘している。

配当貴族指数銘柄の配当利回りランキング

配当を支払う余力のある財務の健全な企業として思い浮かぶのは「配当貴族」指数に採用されている企業だろう。配当貴族については、本コラムにおいても何度かご紹介させていただいた。配当貴族指数は、S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが公表している株価指数で、25年以上にわたって連続増配を行う上場企業から構成されている。

前年の配当実績をもとに毎年1月に構成銘柄の見直しがなされている。2022年はAT&T(T)が除外された一方、新たに保険会社のブラウン・アンド・ブラウン(BRO)と日用品メーカーのチャーチ・アンド・ドワイト(CHD)が採用され、2月1日より66社で構成されている。

以下は、配当貴族指数に採用されている銘柄を配当利回り順にまとめたものである。

トップはIBM(IBM)で配当利回りは4.9%と高水準だ。エクソン・モービル(XOM)やシェブロン(CVX)といったエネルギー企業が上位に入っている他、ヘルスケアセクターからはアッヴィ(ABBV)、ドラッグストア等を展開するウォルグリーン・ブーツ・アライアンス(WBA)、資本財セクターからはスリーエム(MMM)、さらには資産運用会社のティー・ロウ・プライス・グループ(TROW)も3%を超える配当利回りとなっている。

【図表1】配当貴族銘柄配当利回り順一覧(2022年2月1日時点)
出所:筆者作成

IBMが1月24日に発表した2021年第4四半期の決算は、インフラサービス事業のキンドリル・ホールディングス(KD)を分社化したことで全体の売上高は減少したものの、ハイブリッドクラウド事業の売上高が2桁増を達成するなど好調だった。

IBMはこれまでに不採算のハードウェア事業を縮小する一方で、AI(人工知能)やハイブリッドクラウドへの注力を強化するために、多くの投資を行ってきた。従来の企業イメージから大きく脱皮しつつあり、高利益率企業へ転換してきている。1年前に比べて利益が大きく伸びているのはその証だろう。配当利回りの高さ、業績、財務の安定性を考慮すると荒れ相場に相応しい堅実な企業の1つだろう。

【図表2】IBMの売上高と純利益の推移
出所:筆者作成

著名投資家たちも退屈な銘柄に投資

投資というのは本来退屈なものだ。投資の神様と言われるウォーレン・バフェット氏も、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター率いるレイ・ダリオ氏も地道で地味な投資を行なっている。一時的な流行りに乗るのは良いが、飛び道具のようなものに乗ってしまうと、オール・オア・ナッシング(全か無か)の世界に引き込まれてしまい、長期にわたって投資の世界で生き残ることはできない。

●関連記事:レイ・ダリオの投資哲学、ブリッジウォーターの最新ポートフォリオは?(2021年9月7日)

バフェット氏の投資先を選ぶ基準は極めてシンプルだ。それはキャッシュフローに始まりキャッシュフローに終わる。縦軸に投資キャッシュフロー、横軸に営業キャッシュフローをとったキャッシュフロー・マトリックスから確認してみよう。

●関連記事:バフェットの銘柄選択で最も大切な「安定期」投資とは!?(2021年11月16日)

投資キャッシュフローは将来のキャッシュを生み出すために使われる先行投資である。企業が成長している時期にはキャッシュが設備投資等に使われるためキャッシュが出ていき、基本的にはマイナスとなる。投資が進み、キャッシュが稼げるようになるとリターンが生み出され、営業キャッシュフローがプラスとなる。

バフェット氏が投資をする企業のほとんどが、投資よりも稼ぎのほうが大きい「安定期」にある企業だ。

【図表3】キャッシュフロー・マトリックス
出所:筆者作成
【図表4】アップルのキャッシュフロー・マトリックス
出所:筆者作成

大化け株などで一時的に大きな資金を得たとしても、あぶく銭はすぐに泡と消える傾向が高い。事業として長く投資を続けたいのであれば、安定した王道株への投資が必須である。「波が引いた時に初めて誰が裸で泳いでいたか分かる」これはバフェット氏の名言の1つである。

2021年、高リターンを上げたバフェットのポートフォリオ

2022年は米国で少なくとも3回の利上げが実施されると言われている。金利のなかった世界から金利のある世界へと正常化が進んでいく過程においては、低金利を享受していた一部のハイテクグロース株にとっては大きな逆風だ。

その一方で、金利の上昇は金融株など一部の銘柄には有利に働く。2021年のウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイのポートフォリオは、ほとんどの銘柄が2桁のリターンを記録した。FRBの利上げが進めば、2022年のリターンはさらに向上する可能性もある。バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)自体の時価総額も7000億ドル以上に上昇し、1兆ドルに迫る勢いとなっている。

2021年、バークシャーのポートフォリオでどんな銘柄が高パフォーマンスを誇ったのか。ヤフーファイナンスおよびINSIDER MONKEYの記事「Warren Buffett’s Performance in 2021: 10 Best Stock Picks(2021年のウォーレン・バフェットのパフォーマンス:ベスト10ストックピック)」を参考に以下、ご紹介していきたい。

10位 USバンコープ(USB)2021年のリターン:21%
バークシャーが長期保有する銘柄の1つである。バークシャーは2010年第4四半期に初めてUSバンコープの株式を取得し、その後も数年にわたり追加取得し、2021年9月末時点で75億ドル以上の価値となった。

9位 ムーディーズ(MCO)2021年のリターン:33%
ムーディーズはバークシャーのポートフォリオの3%近くを構成している。2010年第4四半期以降、ポートフォリオに組み込まれ、2021年第3四半期末の価値は87億ドル以上となった。

8位 アップル(AAPL)2021年のリターン:37%
2016年第1四半期にバフェット氏がアップルの株式を初めて購入した際には大きな話題となった。バークシャーは、その後、2016年末から2017年初めにかけて大幅にアップル株を買い増した。1250億ドル以上の価値を持つバークシャー最大の保有株である。

7位 アメリカン・エキスプレス(AXP)2021年のリターン:38%
インフレ率が上昇し、金融株が市場で力強く復活する中、アメックスも市場の注目を集めている。バフェット氏は2010年後半、世界金融危機によって金融株が打撃を受け、多くの銘柄が割安な価格で取引されていたタイミングで同社に投資した。数年間保有した後、一旦すべての株式を売却したが、2013年後半に再び購入。同社の価値は250億ドルを超え、バークシャーのポートフォリオの中で第3位の価値を持つ銘柄となっている。

6位 シェブロン(CVX)2021年のリターン:38%
エネルギー価格の上昇に伴い、ここ数ヶ月、多くのヘッジファンドがエネルギー株への投資を進めている。バフェット氏は、2020年第3四半期にシェブロンに投資、4400万株を1株当たり約84.1ドルで購入した。その後、2021年初めにポジションを半分に減らしたが、2021年第3四半期に追加取得し、現在の保有株は59億ドルに相当する。

5位 バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BK)2021年のリターン:39%
バンク・オブ・ニューヨーク・メロンは、バークシャーのポートフォリオに含まれる金融銘柄の1つである。バフェット氏は2010年後半に投資し、その後2012年にその株式を売却した。2013年第3四半期に再投資し、2017年には大幅に追加、持ち株は37億ドルの価値に膨らんでいる。

4位 クローガー (KR) 2021年の利益:40%
クローガーはバークシャーのポートフォリオに比較的新しく追加された銘柄だ。最初の購入は2019年末、約1900万株を1株当たり約26.5ドルで取得した。以降もポジションを追加しており、2021年9月末時点で、保有株はバークシャーのポートフォリオの0.85%を占め、25億ドル近い価値となっている。

3位 バンク・オブ・アメリカ(BAC)2021年のリターン:48%
バンク・オブ・アメリカは、バフェット氏の最高の投資先の1つである。2017年第3四半期に初めて購入し、その後大幅に追加している。持ち株は約430億ドルにまで成長し、バークシャーのポートフォリオの約14%を占めている。アップルに次いでポートフォリオ第2位の保有銘柄だ。

2位 マーシュ・アンド・マクレナン(MMC)2021年のリターン:53%
マーシュ・アンド・マクレナンはニューヨークに本社を置くアメリカ大手保険グループで、時価総額は約800億ドルの業界トップ企業だ。マーシュ・アンド・マクレナンの2022年の好調なパフォーマンスは、おそらくバークシャーのポートフォリオの中で最も過小評価されているだろう。持ち株は4億1500万ドルの価値があるとされている。

1位 ウェルズ・ファーゴ(WFC)2021年のリターン:62%
ウェルズ・ファーゴは、かつてバークシャーのポートフォリオの中で最大保有銘柄の1つだった。しかし、バフェット氏は持ち株を減らし、2020年には保有している株式の9割を売却した。2021年9月末時点で、バークシャーが保有するウェルズ・ファーゴの株式は約67万5000株にまで減少した。

なお、それぞれの評価額については、バークシャー・ハサウェイが2021年11月15日にSECに提出したフォーム13F(2021年9月末時点、2021年第3四半期末時点)を元にしている。
https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/1067983/000095012321015518/xslForm13F_X01/0000950123-21-015518-6820.xml

石原順の注目5銘柄

アップル(AAPL)
出所:トレードステーション
アメリカン・エキスプレス(AXP)
出所:トレードステーション
ウェルズ・ファーゴ(WFC)
出所:トレードステーション
バンク・オブ・アメリカ(BAC)
出所:トレードステーション
マーシュ・アンド・マクレナン(MMC)
出所:トレードステーション