世界最大のテクノロジー見本市「CES」でも大注目のメタバース!
1月初め、米ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES」において、最新の電気自動車(EV)や人工知能(AI)を搭載した家電製品などと並び、注目を集めたテーマの1つがインターネット上の仮想空間「メタバース」に関連した技術だった。
メタバースは英語の「超(Meta)」と「宇宙(Universe)」を組み合わせた造語で、オンライン上に構築される巨大な仮想空間のことである。パンデミックにより新たな生活スタイルが浸透する中、遠隔でのコミュニケーションが広く定着し、次世代のコミュニケーション・プラットフォームとして期待されている。
フォーブスの記事「Here Are Morgan Stanley’s Top Stock Picks For Investing In The Metaverse(メタバースに投資するためのモルガンスタンレーのトップ注目銘柄)」によると、モルガンスタンレーはこのメタバースを「次世代のソーシャルメディア、ストリーミング、ゲームプラットフォーム」になる可能性が高く、8兆ドルにも及ぶ巨大な市場規模であると試算している。(詳しくは2021年12月7日付のコラム「市場規模8兆ドル!メタバース関連の注目銘柄トップ10」を参照されたい。)
メタバースは決して新しいコンセプトではない。2000年代にはリンデン・ラボ社が「セカンドライフ」をローンチした。インターネット上に構築された仮想世界において、ユーザーが現実世界と同じように生活するサービスで、ユーザーは自分自身を模したアバターを制作し、仮想通貨を使ってセカンドライフ上に出店された店舗で買い物をしたり、コンサートやイベントなど参加したりと、まさに第二の人生(セカンドライフ)を体験することができた。
しかし、2008年頃をピークに利用者は減少し、徐々にSNSにユーザーを奪われる形で下火となった。セカンドライフは現在でもサービスを継続しているものの、ブームとはほど遠い状態にある。しかし、2021年のメタ・プラットフォームズ(FB)の発表をきっかけに、再びメタバースに注目が集まっている。
セカンドライフが衰退した要因の1つとして、当時のネットワークやサーバーの容量が不足していたことが指摘されている。セカンドライフが流行した当時に比べ、現在では高度なGPUを含め、メタバースのアプリケーションに必要なハードウェアの技術が大きく進化している。普及に十分な環境が整ってきたのである。
顧客に新しい商品やサービスを浸透させる際に発生する大きな障害、乗り超えるべき溝、谷、裂け目のことをマーケティング用語で「キャズム」と呼ぶ。ある製品やサービスが初期市場からメインストリームに移行する際、このキャズムを超えることができるかどうかが重要なカギとなってくる。ハードウェアの進化によって、どうやらメタバースはこの一線を超えることに成功したと思われる。
メタバースと聞くとゲームを想像される方が多いと思うが、メタバースの応用範囲はゲームだけにとどまらない。デジタル世界が人々の日常生活に浸透し続ける中、ソーシャルコマース、広告、デジタルイベントなど、インターネットを通じてユーザーがアクセスすることができる世界全てに広がっている。さらには、ビジネスや産業での活用も進んでいる。次にその分野をのぞいてみよう。
デジタルツインの実現で産業用メタバース市場が拡大
1月5日付の日本経済新聞の記事「仮想空間メタバース、産業向け勃興 工場や店を精密再現」によると、製造業やBtoB(法人向け)ビジネスで使える「産業用メタバース」ともいうべき分野も立ち上がりつつあると言う。
同記事によると、米半導体のエヌビディア(NVDA)が手がける3次元(3D)の共同作業空間「オムニバース」などが登場した他、PwCコンサルティングは企業のメタバース利用の支援に乗り出すなど事業ニーズの掘り起こしも始まったとのこと。
ビジネス向けメタバースが実現しようとしているのは「デジタルツイン」と言われるものである。デジタルツインとは、「デジタル空間上における双子」を意味しており、現実の世界にある物理的な「モノ」から収集した様々なデータをデジタル空間上に再現する技術のことである。
米デロイト社の調査によると、デジタルツインの世界市場は年率38%で成長しており、2023年には160億ドルに達すると予想されている。中でも石油ガス、航空宇宙、自動車など有形資産が大きなウェイトを占める産業においては生産活動を効率化させる効果が期待できる。
例えば、製造業の現場において、人員の稼働状況や業務負荷のデータなどをリアルタイムで収集し分析することによって、最適な人員を配置し、製造プロセスを最適化する取組みがなされていたり、試作品を製作する場合にデジタルツインを利用すれば、材料費や人件費といった試作品の製作にかかるコストを削減したりすることも可能だ。
NECのオウンドメディア(ビジネス・リーダーズ・スクウェア・ウィズダム)に掲載された記事「製造業、サプライチェーンを変えるデジタルツイン」によると、200のビール醸造所、16万人の社員を持つ世界最大のビール会社アンハイザー・ブッシュ・インベブ(BUD)は醸造所に多数のセンサーを設置し、製造、サプライチェーン、配送分野における膨大なデータを集めているという。
同記事によると、センサーを使って醸造の化学反応の状況や温度をトラッキングし、品質を常に確認すると同時に、電力利用の状況をモニターし、環境負荷の削減目標の達成にも利用しているそうだ。また、パッケージラインにおける缶製造工程のボトルネックを検知することにも利用。醸造所の稼働時間を100%にするためにデジタルツインを使って予測的なメインテナンスを行う他、サプライチェーンにおけるトラックの配送経路最適化などにも活用されているとのことだ。
なお、テスラ車にはこのデジタルツインが搭載されており、走行中の他の自動車や人の動きなど、車両の周辺環境や道路の通過場所などの認識に関わる情報が常に提供されているそうだ。これにより、車両周辺環境の分析やアルゴリズムのアップデート、道路のマッピング、新しい状況に対応する方法の設定などが可能になっている。また、充電ステーションの設置場所の最適化やバッテリー利用の最適化などのシミュレーションにも利用しているとのことだ。
2020年5月には軍需メーカーのノースロップ・グラマン(NOC)やデル(DELL)、マイクロソフト(MSFT)などが集まりデジタルツイン・コンソーシアムを設立。現在ではデジタルツインを利用する250社以上のグローバル企業、テクノロジーベンダー、政府、大学、研究施設などがメンバーに名を連ねる業界団体となっている。
半導体業界の巨人インテルはメタバースで起死回生を図るのか?
2021年12月14日、世界最大の半導体メーカーであるインテル(INTC)がメタバース分野を強化すると発表した。メタバース業界において先行するエヌビディア(NVDA)など、チップ業界の同業他社と同様、インテルもメタバースに深い関心を寄せているとみられる。
インテルは発表の中で、メタバース環境に必要な低レイテンシー(低遅延)でコンピューティングパワーを提供するためには、コンピューティング能力がさらに「数桁」上昇しなければならないと述べ、2022年には強力な描画性能を持つ「Intel Arc」という新しいGPUを市場に投入することを明らかにした。
ライバルであるエヌビディアやアドバンスト・マイクロ・デバイシズ(AMD)が投資家から注目を集めているのに対して、インテルのPERは10倍台と低い。最先端の半導体チップの製造で出遅れたことをきっかけに、ここ数年はインテルパッシング(インテルに対して関心が低い)とも言える状態だった。
他社に比べて業績の伸びのモメンタムは低いものの、直近では売上で780億ドル近く、営業利益で250億ドル近くを稼ぎ出している。
インテルはキャッシュフローも潤沢だ。
また、2015年以降、増配を続けている。
インテルは12月、子会社で自動運転を手がけるモービルアイのIPO計画を発表した。4年ほど前に150億ドル(約1兆7000億円)で買収したイスラエルの企業である。一部報道によると、評価額は500億ドル(約5兆6800億円)以上になると伝えられている。
また、アップルで8年間にわたりM1チップをはじめとするアップルシリコンの開発を主導してきた人物がインテルに出戻ることが明らかになるなど、2021年のパット・ゲルシンガーCEOの就任以降、様々な反転攻勢へ向けた動きが加速している。
メタバースがインテルの復活にどのような影響があるかを見極めるにはまだ時間が必要だ。ただし、インフレが加速し、金利上昇が想定される局面においてはインテルのような企業が強みを発揮するだろう。
前回のコラム「米国株、金利が上がるとどうなる?インフレ局面で資産を守る3つのルール」で記したように、インフレ下においてはコスト上昇を転嫁できる企業と、物価上昇時に利益を得る企業を見極めることが必要となる。そうした企業は多くの場合、強力なブランド、独占的な価格決定力、強いマージンを備えている。
また、ファンダメンタルズのしっかりした企業への投資が必要となるが、インフレ環境は実質リターンに影響を与える。これに対抗するためには、パフォーマンスの原動力となる強いファンダメンタルズを持った企業を探すことが重要だ。これらの条件を満たしている銘柄の1つがインテルであろう。