SF小説『スノウ・クラッシュ』で描かれた「メタバース」が現実に?
「今後はメタバース企業になる!」、2021年10月にフェイスブックが社名をメタ(FB)に変更すると発表した。この発表をきっかけにオンライン上に構築される巨大な仮想空間である「メタバース」が市場でホットな話題となっている。
この「メタバース」は英語の「超(Meta)」と「宇宙(Universe)」を組み合わせた造語で、作家のニール・スティーヴンスン氏が1992年に発刊した近未来の米国を描いたSF小説『スノウ・クラッシュ』が原典となっている。
近未来において政府は既に機能しておらず、各地で都市国家がフランチャイズで経営されている。米国が世界に誇れるのは音楽、映画、ソフトウェアの開発、高速ピザ配達の4つだけ。そのためピザ配達人は特権階級で、ピザ配達人養成の専門大学まで存在している。
そんな世界を生きる主人公のヒロは、凄腕のフリーランス・ハッカーで世界最高の剣士、そしてピザの配達人という設定だ。現在で言うところのUber Eatsの配達のようなことをやっている。
米国のIT企業トップの多くがこの『スノウ・クラッシュ』を愛読書として挙げており、彼らの起業やビジネスモデルそのものが『スノウ・クラッシュ』の世界観に影響を受けたと表明しているCEOも少なくない。
ダイヤモンドオンラインの記事「ビッグテックの真の創造主!?―ニール・スティーヴンスン」によると、グーグルの創業者であるラリー・ペイジ氏は愛読書としてこの『スノウ・クラッシュ』を挙げているほか、同じくグーグルの共同創業であるセルゲイ・ブリン氏はGoogle Earthの開発にこの本が影響していると述べている。
他にもマイクロソフト傘下のLinkedInの創業者リード・ホフマン氏やペイパル創業者ピーター・ティール氏など、そうそうたるCEOが『スノウ・クラッシュ』のファンであることを公言している。
この小説の中で描かれているのは国家が分裂して弱体化する一方で、企業が巨大化して国家を凌駕する「フランチャイズ国家」になった米国である。30年ほど前に描かれた世界観ではあるが、様々な示唆に富んでおり、見事に現在を言い当てているように思える。
原作者であるスティーヴンスン氏は思想家の一面も持つ一方、アマゾン創業者であるジェフ・ベゾス氏の盟友でもあり、ベゾス氏が設立した民間宇宙旅行会社のブルーオリジン社のアドバイザーも務めている。
唐突に思われたメタ(FB)のザッカーバーグCEOの冒頭の発言であるが、実は同氏は以前からこのメタバースに注目していたと言う。スマートフォンというコンピューティングプラットフォームで遅れをとったことで同氏はとても悔しい思いをしたと公言しており、次のコンピューティングプラットフォームとなるVR(仮想現実)やAR(拡張現実)にはいち早く興味を持っていた。
2014年には20億ドルを投じてVRのハードウェア開発をするオキュラス社を買収した。当時から次世代のコンピューティングプラットフォームは何なのかというところを意識していたと思われる。つまりザッカーバーグ氏にとってはメタへの社名変更も含めて既定路線だったと言えるだろう。
市場規模は8兆ドル、関連銘柄にはどんな企業があるのか
米国において住宅価格の上昇が伝えられているが、現実を上回る勢いでバブルが繰り広げられているのがメタバースとして知られる「ディセントラランド」の不動産だ。その一区画が、過去最高となる240万ドル相当の暗号資産で売却された。
このディセントラランドなどの仮想世界において、デジタルな土地を取得する投資会社が増えていると言う。バーチャルな家や小売りスペースを利用するために資金を投じる個人や法人が増え、いずれディセントラランドにおける不動産の価値が上がるとの期待が背景にある。
フォーブスの記事「Here Are Morgan Stanley’s Top Stock Picks For Investing In The Metaverse(メタバースに投資するためのモルガンスタンレーのトップ注目銘柄)」によると、モルガンスタンレーはこのメタバースについて「次世代のソーシャルメディア、ストリーミング、ゲームプラットフォーム」になる可能性が高く、8兆ドルにも及ぶ巨大な市場規模であると試算している。
メタバースは、今日のインターネットに取って代わる可能性のある仮想世界の概念であり、これは投資家にとって大きな新しい機会でもあるとしている。物理的な世界とデジタル世界が加速度的に統合されていく中で、このデジタルトランスフォーメーションから利益を得る企業として、どんな企業が挙げられるだろうか。
前述のメタ以外にも、マイクロソフト(MSFT)やディズニー(DIS)、またグーグルの親会社であるアルファベット(GOOGL)、スナップチャットを運営するスナップ(SNAP)などもこの分野への投資を始めている。
米国では既にメタバースをテーマにしたETF(上場投資信託)が登場している。その中からRoundhill社が展開するメタバース関連の企業に投資をするETFの組入れ銘柄を見てみよう。メタバースの構築に必要なインフラ企業、ゲームエンジン、コンテンツ、ペイメンツなど50社から構成されている。
組入れ比率で5番目に入っているユニティ・ソフトウェア(U)は、ビデオゲーム業界で最も広く使用されているゲーム制作エンジンを提供している企業だ。2020年末の時点で、上位1000のモバイルゲームの71%がユニティのプラットフォームを使って作成されている。
また、ユニティのプラットフォームはインタラクティブなリアルタイム3Dコンテンツの作成と操作にも長けており、建築家、自動車デザイナー、映画製作者などもユニティのツールを使用することで作品のクオリティを上げることができると言う。
ユニティは11月、「ロード・オブ・ザ・リング」や「アバター」、「ブラック・ウィドウ」などの大ヒット映画で使用されたVFX(視覚効果)を手がけるソフトウェアスタジオのウェタ・デジタルのツール群、技術、エンジニアリングの人材を買収することで合意に達したと発表した。買収総額は16億2500万ドルで、年内に取引が完了する見込みだ。
2020年のIPO以来、トップラインは四半期ごとに平均45%程度伸びている。まだ利益は出ていないものの、直近(2021年第3四半期)決算では、1株あたり損失は0.41ドルと、前年同期からは半減している。用途の拡大も含め、メタバース市場が拡大すれば中長期的な観点からユニティにとっては追い風となろう。
メタバースによってエヌビディア(NVDA)の利益率が更に急上昇する可能性も
エヌビディアは11月9日、仮想空間内で共同作業を行うためのプラットフォーム「Omniverse(オムニバース)」の一般提供を開始した。以前より、一部ユーザーを対象にした早期提供プログラムを始めていたが、それをエンタープライズ向けにサブスクリプションサービスとして提供する。
同社がホームページで公開している情報によると「Omniverseは、仮想コラボレーションと物理的に正確なリアルタイム シミュレーションのために開発され、拡張機能に優れたオープンプラットフォームです。クリエーター、デザイナー、エンジニアは、主要なデザインツール、アセット、プロジェクトを接続して、共有仮想空間での共同作業と反復処理を行うことができます。」とのこと。
現実の出来事を仮想空間で忠実に再現するデジタルツインを実施するためのツール基盤であり、2020年12月にベータ版を提供して以来、7万人以上のクリエーターがOmniverseをダウンロードし、700社以上で利用されてきたという。
このOmniverseによって、エヌビディアの利益率が更に伸びていく可能性がありそうだ。ご承知の通り同社はGPU(グラフィックスプロセッシングユニット)の大手サプライヤーであり、ゲーム、データセンター、自動運転車、グラフィックスアーティスト等、様々な顧客にGPUチップを販売している。
メタバースのカギとなるのがインフラだ。インフラを提供する企業にメリットがあると考える。ゲーム向けの半導体市場をけん引している同社にとっては、メタバースのインフラをサブスクリプションで提供することによって収益機会が格段に高まると見ている。
直近では、アームの買収計画について米連邦取引委員会(FTC)から差し止めを求める提訴を受けたが、2022年第4四半期(2021年11月から2022年1月)の業績も堅調見通しで、足元は全く揺らいでいない。メタバース関連でメリットを受ける本命銘柄として筆者はエヌビディアを取り上げておきたい。