株価は金利上昇局面でも堅調に推移している?
アーク・インベストメント・マネジメント創業者のキャシー・ウッドCEOが、調整が続くイノベーション株について「極度に割安な領域にある」との認識を示した。そして、「この調整局面でのボラティリティーを活用し、ポートフォリオ構成を当社が最も買いを確信する銘柄に集中させている」と述べた。
アークが運用するファンドからは年初来で資金流出が続いていることを認めた上で、「当社の現在の試算によれば、より集中させた主力戦略は向こう5年間に複利年率40%のリターンをもたらすことが可能だ。アークの歴史の中で、5年単位のリターンがここまで高かったのは一度きりで、2018年末のことだった」と付け加えた。
グロース企業と言われるハイテク株やイノベーション株から資金が流出している。12月15日にFRB(米連邦準備制度理事会)がテーパリング(量的緩和の縮小)を加速すると発表したことを受けての動きだ。ハイテク株の急な変動に備える動きも広がってきている。
日本経済新聞の記事「『黒い白鳥』ETF、テック株急変動に備え」によると、米運用会社アンプリファイETFsがテック株の上昇を期待しながらも高所恐怖症の投資家にヘッジ手段を提供するETF「ブラックスワン・テック&国債上場投資信託(ETF)」を新たに設定したという。
同記事によると、「米アップルなど財務基盤が強固な銘柄の買い需要は衰えていないが、割高な小型テック株は上値が重く、株安への警戒感が強まっている」とのことで、テック株の上昇相場に取り残されたくない、でも急落は怖い、このETFの登場はそんな投資家の姿勢を映したものだ。
金利の上昇と株価の関係を確認してみよう。以下は、金利上昇期間とその間における株式のリターンを示したものである。1950年以降、金利が1%以上上昇した局面において株価が調整したのはわずか2回のみである。実際、これらの各期間の平均年率換算リターンは10.5%で、米国株式市場の長期平均リターンとほぼ一致している。これを見ると金利の上昇、すなわち株価の調整とは言えない。
以下を見ると、株価は金利上昇局面でも堅調に推移していることが分かる。
ただし、金利の上昇には一般的に「良い」金利上昇と「悪い」金利上昇がある。経済が成長し、その成長が好景気をもたらす循環の中における金利上昇であれば、株価も経済の拡大とともに上昇することになる。果たして今回の場合、「良い」金利上昇なのか。控え目に言っても良い金利上昇とは言えないだろう。
しかも、金利の上昇は現在のようにレバレッジの高い経済には大打撃となる。金利が上がると、債務返済額が増加し将来の生産的投資が減少したり、借り入れコストの上昇が利益率の低下につながる。また、企業の自社株買いや配当金の支払いに安価な負債が利用されている場合や、企業の設備投資が低い借り入れコストに依存している場合などにも影響がある。
インフレの環境下で資産を守るための投資ルールとは
英国のインフレ率が11月までの12ヶ月で10年ぶりの高値を記録した。BOE(イングランド銀行)は政策金利を0.25%に引き上げ、投資家を驚かせた。新型コロナウイルスの感染拡大以降、主要中央銀行が実際に利上げに踏み切るのは初めてとなる。
BOEは根底にあるインフレ圧力に警告の兆候が見られたため、今すぐ行動しなければならないと述べた。BOEだけではない。米国はもちろん、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど主要中央銀行が引き締めに向けて動き出している。背景にあるのはいずれもインフレだ。
世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエイツの創設者レイ・ダリオ氏がインフレの急騰に対して警鐘を鳴らしている。同氏はヤフーファイナンスのインタビューで、インフレについてどれほど心配しているかを尋ねられたところ、「非常に心配している。予算化され、生み出さなければならない金額とクレジットが大幅に増加しているからだ」と述べた。
また、次のようにも述べた。「投資家の視点や個人の視点から見ると、特にそれ以上の生産性を上げなければ、お金と信用を生み出すだけでは生活水準を上げることはできないということを忘れてはならない」と。
ダリオ氏は11月、LinkedInで「On Inflation and Wealth(インフレと富について)」というタイトルのブログを投稿し、インフレが米国人の富を侵食していると指摘した。
インフレが猛威を振るっており、現在、インフレがあなたの財産を蝕んでいるということを示した。それは当然のことだ。現時点では、(1)政府が大量のお金を印刷し、(2)人々が大量のお金を手に入れ、(3)それが大量の買いを生み、さらに大量のインフレを引き起こしている。一部の人々は、自分の購買力がどのように損なわれているかを見ずに、自分の資産が値上がりしているので、自分がより豊かになっていると勘違いしている。最も被害を受けているのは、現金でお金を持っている人たちだ。
では、インフレ局面で資産を守るにはどうしたら良いのか。インフレを予測し、コントロールすることはできないため、投資家は自分でコントロールできるいくつかのルールに沿った投資をすることが必要になる。
(1)「コスト上昇を転嫁できる企業」「物価上昇時に利益を得る企業」を見極める
1つは、インフレ環境下においてコスト上昇を転嫁できる企業と、物価上昇時に利益を得る企業を見極めることが必要となる。そうした企業は多くの場合、強力なブランド、独占的な価格決定力、強いマージンを備えている。
市場がインフレへ動き出した時に、恩恵を受けると期待されるセクターは、銀行を含む金融セクター、エネルギーセクター、資本財などが挙げられる。銀行を含む金融セクターは価格決定力が強く、インフレになると連動して価格を上げることができる。エネルギーや資本財(工業製品)などの循環産業も、価格が消費者物価指数に連動するため、アウトパフォームする傾向がある。
(2)ファンダメンタルズの強い企業を探す
2つ目は、ファンダメンタルズのしっかりした企業に投資することである。インフレ環境は実質リターンに影響を与える。これに対抗するためには、パフォーマンスの原動力となる強いファンダメンタルズを持った企業を探すことである。
(3)長期的に投資する
3つ目は長期投資だ。過去148年間のS&P500指数のデータによると、米国の大型株で損をする確率は時間の経過とともに大幅に減少している。投資1ヶ月では39%の確率で損をするが、3年後には22%程度にまで低下し、20年を経過すると0.1%にまで落ち込む。
金利の変動は株式の現在価値にどのような影響を与えるのか
最後に、金利の変動が企業のバリュエーションにどのような影響を及ぼすのかを確認しておこう。
株式のPV(現在価値)はおおよそ次の公式で求められる。
「PV=C/(R-G)」
C:企業が年間にどのくらいのキャッシュを生み出すのか:期待キャッシュフロー
R:企業が将来その金額のキャッシュを生み出し損なうリスクはどれだけあるか:ディスカウントレート
G:キャッシュが年々どの程度のペースで成長するのか:キュッシュフロー成長率
年間100ドルの収益を生み出す企業があるとする。利益は毎年3%ずつ増えていく。この時、長期金利の利回りが3%、株式のリスクプレミアムが5%とすると、ディスカウントレートは8%となる。これを公式に当てはめてみると、この企業の現在価値は2,000ドルとなる。
100ドル/(0.08-0.03)=2,000ドル
では、長期金利が1%に低下した場合はどうなるのか。株式のリクスプレミアム5%と合わせた6%がディスカウントレートとなる。(利益が毎年3%ずつ増えていくのは同じとする)
100ドル/(0.06-0.03)=3,333ドル
利回りが3%の時の現在価値(2,000ドル)に対して、利回りが1%の時は、現在価値(3,333ドル)が67%も高くなる。
収益が伸びていない企業の場合も同様だ。
長期金利が3%の場合、1株あたり100ドルの利益を生み出す企業の現在価値は以下の計算式より1,250ドルとなる。
100ドル/(0.08-0.0)=1,250ドル
これに対し、長期金利が1%の場合、現在価値は1,667ドルとなり、利回りが3%のときよりも33%も高くなる。
100ドル/(0.06-0.0)=1,667ドル
つまり、株式のリスクプレミアムとキャッシュフロー成長率が一定だとすれば、長期金利が低下することによって現在価値は高まる。割高と思われているハイテクセクターの株価が正当化されていたのは低金利であったからこそである。しかし、世界的にインフレ懸念が高まる中、日本を除く世界の中央銀行のほとんどがこれまでの緩和的な政策からの転換を模索している。
これからのインフレの期間にあっては個別、あるいはセクターの選別がより重要になるだろう。今回の調整局面においてもし新たにポジションを持つのであれば、インフレ環境下で価格決定力を持つなどの恩恵を受け、さらにバランスシートが健全で、フリーキャッシュフローの成長能力があるファンダメンタルズがしっかりとした企業を選ぶことが重要になろう。