2022年を迎え、戦後の第1次ベビーブーム(1947~49年)に生まれた「団塊の世代」がすべて後期高齢者(75歳以上)となり、全人口に占める高齢者(65歳以上)が30%に達するなど超高齢化社会に突入する「2025年問題」まであと3年になりました。高齢化の進行により、認知症の患者数および発症者の割合が増加しています。高齢者白書によると、認知症患者数は2012年に462万人(高齢者人口の15%)だったのが、2025年には約700万人(同20%)になるという推計もあります。
認知症とは、記憶障害のほかに失語、失行、失認、実行機能の障害が1つ以上加わり、その結果として社会生活あるいは職業上に明らかに支障をきたし、かつての能力レベルの明らかな低下がみられる状態と定義されます。認知症の最大の要因は加齢のため、誰にでも起こりうるものとなっています。認知症患者の大半は「アルツハイマー型認知症(AD)」で、脳細胞が様々な変化により減少して脳が萎縮することで引き起こされます。物忘れなどから始まり、進行はゆっくりと徐々に悪化する場合が多いとされます。
現在主流のアルツハイマー病治療薬は症状を改善する効果はあるものの、根本的に治す効果はないため薬によって記憶力などの認知機能が改善しても病気は徐々に進行します。つまり、アルツハイマー病の根本治療には初期段階での早期発見が重要となります。超高齢化社会を迎えるにあたり、関連銘柄への注目度が高まりそうです。
認知症関連銘柄
エーザイ(4523)
認知症領域に経営資源を集中し、1997年にアルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」を開発しました。認知機能を一時的に改善する対症療法にとどまるうえ投与可能な期間も短かったため、症状の悪化を長期的に抑制する治療薬開発を加速しました。米バイオジェンと共同開発したアルツハイマー病治療薬「アデュカヌマブ」は、病気の進行そのものに直接介入する働きを狙って作られた根本治療薬(疾患修飾薬)で、脳にたまった「アミロイドβ」と呼ばれる異常なたんぱく質を取り除き、神経細胞が壊れるのを防ぐとしています。2021年6月に米食品医薬品局(FDA)から「アデュカヌマブ」が条件付きで承認され話題を呼びました。
しかし、承認は深刻な病気の患者に早期に治療を提供するための「迅速承認」であり追加の臨床試験で効果が認められない場合には承認を取り消すことがあるほか、FDAの複数の諮問委員が抗議の姿勢を示し米大手保険会社が保険適用には有効性などに関するさらなる多くの証拠が必要とするなど否定的な見方もあります。欧州連合(EU)では新薬認可を判断する欧州医薬品庁(EMA)が販売承認を拒否したほか、日本では厚生労働省が「有効性を明確に判断することは困難」として承認判断を見送りました。日本では今後の治験結果などを踏まえて再審査する継続審議扱いとなるなど、超えるべきハードルは多く今後の動向が注目されます。
富士フイルムHD(4901)
軽度から中等度のアルツハイマー型認知症治療薬である「T-817MA」は、神経細胞保護効果や神経突起伸展促進効果を有しています。米国で実施した臨床第2相試験では、脳脊髄液を採取できた患者群においてプラセボ群と比較してリン酸化タウの減少が確認されるなど良好な結果が出ています。また、同社は軽度認知障害(MCI)からアルツハイマー病へと症状が進行する患者を最大85%の精度で予測する技術を開発し、MCI患者の脳の画像や遺伝子情報などを人工知能(AI)で解析し2年後の症状が予測できるとされ、注目されそうです。
シスメックス(6869)
アルツハイマー型認知症の兆候について、病院内で簡便に調べられる試薬を2023年春にも実用化する見通しです。アルツハイマー病は発症初期の治療が重要ですが、現在の診断方法は問診やテスト、磁気共鳴画像装置(MRI)による脳の撮影が一般的で、症状がある程度進行しないと診断できない例が目立ちます。ただ、患者の脳内には原因物質とされるたんぱく質「アミロイドβ」が早くから蓄積しており、シスメックスが開発中の試薬では「アミロイドベータ」の蓄積量を20分以内に簡便に測定できるといいアルツハイマー病の診断が早くなる可能性があります。
FRONTEO(2158)
独自開発の自然言語解析AI「Concept Encoder」を利用し、医師と患者との5~10分程度の日常会話から認知機能障害をスクリーニングできるシステムとして「会話型 認知症診断支援AIプログラム」の開発を進めています。同AIプログラムが認知症対策に加え、遠隔医療をはじめとするデジタル医療の進展や医療の効率化・標準化などに貢献できるとみています。2021年4月に臨床試験を開始し、早期製造販売承認取得・早期上市に向けて取り組んでいます。