岸田文雄内閣が2021年11月19日に閣議決定した55.7兆円と過去最大の財政支出を盛り込んだ経済対策では、2020年12月に停止した「GoToトラベル事業」の再開や飲食店の支援策である「GoToイート」事業の延長が決まりました。政府は新型コロナワクチンの2回接種か検査での陰性を証明した人への制限を緩める「ワクチン・検査パッケージ」の仕組みを活用し、感染拡大を抑制しつつ経済活動の再開を進める方針です。新型コロナの感染拡大に伴う検査需要の拡大期待から検査キットや試薬を手掛ける銘柄は2020年中、折に触れて物色されてきました。「ワクチン・検査パッケージ」の活用が検査キットの需要拡大につながるか、注目されます。

PCR検査件数、「第5波」ピークの27万件から急減

新型コロナワクチンの接種で出遅れが目立った日本ですが、2021年12月3日時点で2回目の接種を終えた人の全人口に占める比率は77%程度と8割に迫っています。接種に抵抗を示す層が少なくない米国や欧州の6~7割を大幅に上回る水準です。松野博一官房長官は2021年11月16日の記者会見で2回接種した割合について主要7ヶ国(G7)で日本が最も高くなったと明らかにし「11月中に希望する方への接種をおおむね完了する見込みだ」と述べました。全国のPCR検査件数は新規感染者数の判明が最多だった2021年8月20日の一週間後の27日に27万5680件まで増えましたが、その後は感染の落ち着きもあって急減。2021年12月1日までの1週間の平均件数は約6万3737件とピークから77%減少しています。

【図表1】PCR検査件数
出所:厚生労働省のオープンデータより株式会社QUICK作成

2021年11月下旬に南アフリカで最初に患者が確認された新型コロナウイルスの新たな変異型「オミクロン型」の感染が世界に広がり、12月6日時点で感染者が確認されたのは40ヶ国・地域を超えました。北半球が冬を迎え従来の変異型への警戒感も引き続き高く、新型コロナ感染者急増の波は多くの国に到来しています。お隣の韓国では1日あたりの新規感染者や死者数が12月に入って過去最多を更新しました。一方、日本全国の新規感染者数は1週間平均で120人弱の低水準で落ち着いた推移が続いています。

感染者急減で「検査キット」銘柄は苦戦、半数以上が感染ピークを下回る

全国で確認された「第5波」の新規感染者数のピークは2021年8月20日の2万5992人でした。新規感染者数は8月下旬から急速に減少が始まり、2021年11月22日には50人まで急減しました。岸田政権が11月26日に南アフリカとその周辺国に水際対策を実施し、29日には全世界からの外国人の新規入国を原則停止すると発表したこともあり、日本では「オミクロン型」の市中感染は確認されていません。QUICKが選定した「検査キット」関連の20銘柄の感染ピークから12月6日までの平均騰落率は6.8%安と東証株価指数(TOPIX)の3.6%高に反して大きく下落しています。

下落率上位2銘柄は臨床検査薬を手掛ける、コロナで業績が急拡大

【図表2】検査キット関連20銘柄の感染ピークからの株価下落率上位5社
出所:株式会社QUICK作成

下落率の上位を占めるのはいずれも新型コロナの感染拡大が業績の追い風となった銘柄です。下落率トップのカイノス(4556)は血液や尿などを分析するための臨床検査薬を手掛けており、2021年6月に新型コロナ感染症に関する検査試薬を発売すると発表し、株価が上昇した経緯があります。新型コロナ関連検査の増加などを受けて2021年4~9月期決算は売上高が23億円と前年同期から12%伸びました。一方で、感染拡大を受けて営業や学術稼働などが制限されたため販売費などのコストは減少したため最終的なもうけを示す税引き後利益が3億円と50%増えました。

2位のミズホメディー(4595)も臨床検査薬を手掛けており、新型コロナの感染拡大で感染症迅速診断システムやウイルス抗原キットなどの需要が急増しました。2021年1~9月期は新型コロナ検査薬の売上高が79億円と前年同期の32倍に膨らみ、主力だったインフルエンザ検査薬の激減にもかかわらず全体の売上高は105億円と4.2倍に急増しました。最終損益は1億円の赤字から40億円の大幅な黒字に転換しました。上位2社ともに臨床検査薬が主力のため、収益が新型コロナの感染状況に左右されやすく感染者数の急減で成長が鈍化するとの懸念が広がっています。

上昇率首位は画像処理のイメージワン、2位の保土谷は電子材料など化学中堅

【図表3】検査キット関連20銘柄の感染ピークからの株価上昇率上位5社
出所:株式会社QUICK作成

一方、上昇率の上位を占めるのは新型コロナ関連の事業を手掛けていても、収益全体に占める比率が限られている銘柄です。上昇率トップのイメージワン(2667)は衛星画像と医療画像の処理を手掛けており、主力は風力発電など再生可能エネルギーなどを手掛ける「地球環境ソリューション事業」です。PCR検査試薬などの販売を手掛ける「ヘルスケアソリューション事業」の売上高は全体の4割程度にとどまります。2021年9月期は売上高が24億円と前年同期から23%伸びたものの、最終損益は5億円の赤字と2期連続の赤字でした。再生可能エネルギー分野での収益拡大などを見込み2022年9月期の最終損益は小幅な黒字を見込んでおり収益回復への期待が株価を支えています。

2位の保土谷化学工業(4112)は有機EL材料などに強みを持つ中堅化学メーカーです。韓国の子会社が有機EL向け発光材の技術を活用してPCR診断キットを国内で展開していますが、収益をけん引しているのはスマートフォンのディスプレーへの有機ELパネルの採用拡大です。2021年4~9月期の売上高は203億円と前年同期比5%増え、本業のもうけを示す営業利益は20%増の33億円でした。好調な業績の推移を踏まえ2022年3月期の業績予想を上方修正し、営業利益は従来予想の25億円の倍となる50億円になりそうだと発表したのが好感されています。新型コロナ検査キットへの依存度が低い銘柄が上昇率上位に入っています。

検査キット関連銘柄は「ワクチン・検査パッケージ」のGoToトラベル事業への採用による需要拡大への期待よりも、新規感染者数の急速な減少による検査キット特需の一巡による「材料出尽くし」とみられている公算が大きいことが鮮明になりました。経済対策に当初盛り込まれていた検査キットのインターネット販売の解禁が見送られたのも逆風となっています。特に検査キットが収益全体に占める比率の高い銘柄ほど、感染状況との相関性が高い傾向がうかがえます。オミクロン株の性質には依然として不透明な部分が多いですが、今後日本国内に広がるような状況になれば検査需要の回復期待から検査キット関連株に投資家が目を向ける場面がありそうです。

次回は新型コロナの感染拡大に伴う「巣ごもり消費」で盛り上がったゲーム関連株を取り上げます。新規感染者の急減による巣ごもり消費の減速観測や世界的な半導体不足といった逆風のなかで投資家はゲーム関連株をどのようにみているのか探っていきます。