南アフリカランド以上にメキシコペソが下落した理由
南アフリカにおける新型コロナウイルス変異種発生の報道を受けて、米感謝祭の翌26日は、「黒字の金曜日」といった意味のブラック・フライデーが、世界同時株暴落の「暗黒の金曜日」となった。ところで、ブラック・フライデーの発端となった南アフリカの通貨ランドは当然のように急落したが、この日の下落率でそれを上回ったのはメキシコペソだった。
11月26日の最大下落率は、南アフリカランド/円が4%未満にとどまったのに対し、メキシコペソ/円は4%を大きく上回った(図表1参照)。1日の下落率が4%を大きく上回るというのは、米ドル/円で言えば、115円から一気に110円を割れる計算になるので、目の当りにしたら「暴落」と受け止めるものだろう。では、なぜブラック・フライデーにおいて、メキシコペソはそんな「暴落」となったのか。
11月26日は原油相場も暴落した。WTIは、2020年3月「コロナ・ショック」後の原油暴落局面以来となる10%を大きく上回る大幅な下落となった(図表2参照)。産油国のメキシコは、原油相場の影響も大きく受けるので、ブラック・フライデーの当事者のような南アフリカランド以上にメキシコペソが大きく下落したのは、原油相場暴落が一因ではあるだろう。
ところで、メキシコペソ、南アフリカランドといった新興国通貨の対円相場に共通してきた1つに、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)が、基本的に中長期の上限となってきていたということがあった。足元の5年MAはメキシコペソ/円が5.5円、南アフリカランド/円は7.6円。その意味では、2つの通貨ペアとも、最近までかなり中長期的な高値限界圏に近い水準での推移となっていた可能性があった。
細かい点ではあるが、ブラック・フライデーの前日終値は、メキシコペソ/円が5.3円、南アフリカランド/円が7.2円で、5年MAからのかい離率は、前者がマイナス3%、後者はマイナス5%だった。数字でみると、中長期的な上がり過ぎ懸念は、メキシコペソ/円が南アフリカランド/円より高かったと言えるだろう。ブラック・フライデーにおける下落率の差は、そんな微妙な中長期的「上がり過ぎ」の差の影響もあったのではないか。
ブラック・フライデーの暴落を経て、26日終値時点の5年MAからのかい離率は、メキシコペソ/円がマイナス6%、そして南アフリカランド/円はマイナス9%(図表3、4参照)。経験的には、2つの通貨ペアとも、まだ中長期的な「上がり過ぎ」是正の途上にあるということではないか。今回のブラック・フライデーのようなリスクオフ、または米国への資金還流など、新興国通貨が売られやすい材料に、過敏に反応する可能性は引き続き注意が必要だろう。