敵対的買収が珍しくない時代に

敵対的買収とは、買収対象企業の取締役会の同意を得ないまま仕掛けられる買収のことです。最近は、国内企業同士でも敵対的買収を行うことが珍しくない時代になっています。例えば、2019年に伊藤忠商事(8001)がデサント(8114)に対する国内初の敵対的TOBを行いました。そして、2020年には前田建設工業が敵対的TOBで前田道路を子会社化したほか、コロワイド(7616)が大戸屋ホールディングス(2705)に対して敵対的TOBを成立させています。

そして、アクティビストもTOBを積極的に行っています。旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスは、日本アジアグループに対して敵対的買収を仕掛けました。また独立系のストラテジックキャピタルも京阪神ビルディング(8818)に敵対的TOBを実施しています。

このように、敵対的買収が増え、その対策として買収防衛策を導入する企業もあります。ただ買収防衛策は、経営陣の立場を守るために導入しているのではないかという批判もあり、導入した買収防衛策を廃止したり見直したりするケースも増えています。

「平時型」の買収防衛策と「有事型」の買収防衛策の違い

一般的な「平時型」の買収防衛策は、いつ現れるかわからない買収者への備えとして導入されます。例えば、大量の株式を取得しようとする買収者が守るべき手続きを事前に定めておき、手続き違反をした買収者を差別的に取り扱う条件のついた新株予約権を、他の株主に割り当てるという買収防衛策があります。

一方、「有事型」の買収防衛策は、買収が発生してから対象相手を特定し、後出しで導入する買収防衛策になります。ただし、有事型の買収防衛策も、無制限に認められるわけではありません。

有事型の買収防衛策のほとんどは、株主総会で承認を得ることが前提とされていて、情報や時間を確保するために設定されます。しかし、買収者が公開買付期間を延長して時間を確保し、情報を提供した場合には有事型の買収防衛策を発動するのは難しくなります。

「有事型」の買収防衛策は急増

これまで買収防衛策は、平時に株主総会の承認を経て導入されるケースがほとんどでした。しかし、最近は外国人投資家や機関投資家からの理解が得られず、株主総会で承認される目処が立たないことも多くなってきました。そのため、新規に買収防衛策を導入する企業は減り、逆に廃止する企業が増えています。

しかし、敵対的買収が始まると、株主に代替案の提示などをしたくても時間がありません。そこで、有事型の買収防衛策を導入するのです。有事型の買収防衛策は、2021年になって急増しています。

本来、買収防衛策は平時に導入しておき、事前に警告しておくのが通常でした。しかし、アクティビストなどによる企業経営陣の意思に反する買い増しを含め、敵対的買収が増えてきたため、特定の敵対的買収者に対して買収防衛策を導入する必要性が高まっています。

例えば、富士興産(5009)はアスリード・キャピタルのTOBに対抗し、2021年6月の株主総会で買収防衛策を導入。その後、アスリード・キャピタルはTOBを撤回しました。

また東京機械製作所(6335)は、2021年10月の臨時株主総会で投資会社のアジア開発キャピタル(以下、アジア開発)に対する買収防衛策の賛否を問いました。

さらに、最近では新生銀行(8303)がSBIホールディングス(8473)に対しての買収防衛策の賛否を、今後の株主総会で問うとしています。

東京地裁で東京機械製作所の「有事型買収防衛策」を認める判決

東京地裁は、2021年10月29日に東京機械製作所による買収防衛策の発動差し止めを求めた仮処分申請で、アジア開発側の申し立てを却下する決定を出しました。東京機械製作所は、アジア開発による株式の買い増しの対抗策として、アジア開発を除く株主に新株を与える防衛策の発動を、臨時株主総会で決定していました。

防衛側に有利な司法判断が出たことで、今後の企業買収に影響を与えそうです。今回東京機械製作所が買収防衛のために使ったのは、「マジョリティー・オブ・マイノリティー(MOM)」と呼ばれる手法です。それは株主総会で大株主を除いた少数株主(マイノリティー)だけで採決することを指します。つまり、今回の判断によって約4割の株式を持つアジア開発の議決権行使が認められなかったことになります。

アジア開発側は、議決権を認めないことは、1株当たりの権利は等しいとする「株主平等の原則」に反しているので、株主総会の手続きは不適切だと主張しました。ただ、東京地裁は東京機械が株式を買い増さないよう求め、対抗策の発動を警告するなどしたにもかかわらず、アジア開発が従わなかったことを「(他の株主に対して)相応の強圧性があった」と判断し、「(アジア開発の議決権行使が制限されたことを)不合理であるとはいえない」としました。

企業側に有利な司法判断が出たことで、今後のアクティビストなどによる敵対的TOBにも影響を与えそうです。敵対的TOBが仕掛けづらくなれば、アクティビストは今まで以上に買収先企業との対話(エンゲージメント)を重視するようになると思います。