「待ったなし」の国土強靭化
近年、自然災害が毎年のように全国各地で発生しています。日本は地震や津波による被害を防ぐために様々な対策を講じてきましたが、十分とは言えない状態にあります。気候変動の影響によって災害が激甚化、頻発化しているうえ将来的に発生が予想されている南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模災害への備えも重要となっているからです。
道路や橋などのインフラ機能は1950~70年代の高度経済成長期に整備されたものが多く、老朽化が顕著になっています。適切なインフラ対策を講じなければ中長期的に社会的なコストの増大を招くほか、緊急時に行政や社会経済が機能不全に陥る可能性があります。
国土交通省はインフラの老朽化が今後数十年で加速度的に進むと試算しています。建設後50年以上経過する社会資本の割合は、2033年に道路橋が63%、トンネルが42%、河川管理施設(水門等)が62%、下水道管きょが21%、港湾岸壁が58%に達する見通しを示しています。インフラの老朽化対策は喫緊の課題となっています。
2022年度の公共事業予算は19%増
これらの危機に対し、政府が進めているのが防災・減災、国土強靭化の推進です。取り組みを効率的に進めるためにはデジタル技術の活用も不可欠となっています。政府は2018年度から2020年度までの期間で実施された「国土強靭化3か年緊急対策」に続き、2020年12月には「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」を閣議決定しました。
今後は2021年度から2025年度までの5年間で約15兆円を投じる方針で「激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策」「予防保全型インフラメンテナンスに向けた老朽化対策」「国土強靭化に関する施策を効率的に進めるためのデジタル化等の推進」を取り組みの柱として掲げています。
国土交通省は防災・減災、インフラの老朽化対策を含めた国土強靭化計画は喫緊の課題と認識しています。毎年のように多くの自然災害が発生しており、世論の賛同も得やすいとみられ、今後も一定の予算規模は確保されるでしょう。
2022年度の国交省の公共事業関係費の予算要求額は前年度比19%増の6兆2492億円となり、2020年度とほぼ同規模になっています。要求額の中身はインフラ老朽化や災害対策の推進などが前年度を上回る規模で盛り込まれており、国交省の国土強靭化に対する積極的な姿勢がうかがえます。
スーパーゼネコンに注目、大型プロジェクトで受注の可能性も
国土強靭化関連で代表的な銘柄はゼネコンです。ゼネコンはゼネラルコントラクターの略で、工事一式を請け負って全体の取りまとめを担いつつ、設計・施工・研究なども自社で手掛ける総合建設業者を指します。その中でも大成建設(1801)、大林組(1802)、清水建設(1803)、鹿島建設(1812)、竹中工務店(非上場)は売上高が1兆円を超えるスーパーゼネコンと称され、国土強靭化が絡む大型プロジェクトでの受注が期待されます。
もっとも、株価に関しては上値の重い展開が続いています。建設業は東京五輪の時期まで活況が続くといわれてきました。五輪関係施設や都市部の再開発案件の受注がゼネコン各社の収益を押し上げてきましたが、2018年以降は建築需要の頭打ちが意識され上場4社のスーパーゼネコンの株価は軟調に推移しています。公共事業に影響されやすい土木関連はインフラ更新需要などの後押しにより今後も着工予定の案件が多数ありますが、直近ピーク時の収益を回復できるほどの勢いはないのが現状です。
建設業は協力会社を含めると裾野が広く、国土強靱化関連の銘柄は広範にわたります。道路、橋、河川、港湾といった専門工事分野に特化した業者、建機メーカー、建設コンサルタントなど幅広い企業が協力会社として関わっています。
国交省は既に老朽化しているインフラを維持・更新するために今後30年間で190兆円近くの費用が必要との見方も示しています。今後は衆議院議員選挙や新政権が示す政策に注目が集まりそうで、景気対策として幅広い産業に影響を及ぼす公共事業であるインフラ整備の対策に焦点が当たる可能性もあります。スーパーゼネコン各社の今期の予想株価収益率(PER)は10倍前後と、東証1部全体の16倍前後に比べ割安感が生じています。新政権が今後示す経済対策の内容次第では物色が活発になるかもしれません。