みなさん、こんにちは。日経平均は一進一退の状態が続いており、前回のコラムで書いた通り、ほぼ夏枯れ相場となってしまっています。

2020年東京オリンピックの盛り上がりはあったものの、より深刻さを増してきたコロナ禍への懸念を払拭するには至らず、閉塞感はそのままという印象です。

企業各社の第1四半期決算は堅調ですが、これもほぼ織り込み済みで想定の範囲を超えるものではなかったように感じています。9月に入ると、いよいよ衆議院議員総選挙が視野に入ってきます。過去のパターンでは解散総選挙は「買い」局面になるのですが、今回はどうでしょうか。期待したいところです。

「成長株」と「景気敏感株」、2つの側面を持つ半導体

さて、今回は「半導体」をテーマに採り上げてみましょう。このコラムを担当してもう8年にもなろうかというところですが、実はこれまで一度も半導体をテーマに採り上げたことはありませんでした。

その理由は簡単で、半導体関連株はシクリカルグロースと位置付けられる代表例で、長期的にはテクノロジーの発展に伴う「成長株」という性格を保ちつつ、短期的(ここでは1~2年のイメージ)には景気の影響を強く受ける「景気敏感株」という2つの側面を持っており、1つのテーマで論じてしまうにはかなり無理があると考えていたためです。

また、そもそも半導体に関連するメジャープレイヤーの数もかなり絞られてきています。製造装置や原材料などの領域において日本メーカーの存在感は揺るぎないものがありますが、銘柄面での広がりが難しいという点もテーマ的アプローチにそぐわない状況にあったのです。

極めて乱暴な言い方をすれば、半導体関連株は成長株としてその中核企業の株式を長期保有することを前提としつつ、短期的には(景気動向に応じて)エントリーとイグジットを繰り返すという投資戦略が効果的と考えられます。そのため半導体というテーマを軸に相場を考えるにはあまり適していないとも言えるのです。

半導体は需給タイトの状態

そのような半導体産業ですが、2021年初春より鮮明となってきた供給不足に対しては、これまでのパターンとは違ってきたのではないか、との見方も散見されるようになってきました。

供給不足の背景には、コロナ禍による世界経済の停滞懸念からメジャープレイヤーで減産シフトを進めていたところに、自動車や情報エレクトロニクス設備などの需要急回復があります。

自動車ではSDGs対応から電動化が急速に進んだことも需要拡大に拍車をかけました。しかも、半導体チップの生産は世界的に垂直分業が進んだことで、供給能力拡充の裾野も広くはありません。その結果、様々な製品群で生産が「半導体待ち」という状況となり、結果的に増産できない(あるいは減産)といった機会損失が発生し始めているのです。

この需給逼迫がどれだけ継続するのか、これが過去のパターンと違うものになるのか、議論の分かれるところですが、少なくとも需給タイトはまだしばらく継続するというのが一般的な見方でしょう。

当然これは、半導体関連企業にとって業績面での強力な追い風となります。高水準の設備稼働率を維持できる上、生産したモノは直ちに売れ、さらに需給逼迫によって価格も上昇するためです。

シクリカルグロース株という枠組みで見ても、最も良好な事業環境局面にあると言えるでしょう。ただし、株式市場は既にそういった状況はとっくに認識している(あるいは、織り込んでいる)と私は考えています。

今後想定される2つのシナリオ

そこで、今後に関してここでは2つのシナリオを考えてみましょう。1つは、これまでのパターンと同様、そろそろ需給が緩和に転じるというシナリオです。実際、直近のDRAM価格はその上昇ピッチが鈍化し始めており、これを需給緩和のサインと受け止める向きは少なくありません。

直近の品薄状態からユーザーが多重発注をしている可能性も否めず、増産シフトが敷かれている中で市況下落からそれらが剥落すれば、一転して需給緩和へ転じるリスクも小さくないと考えられます。

既に内外半導体関連企業の株式はそのリスクを織り込み始めたようにも見ることができます。この場合、景気循環的な逆風によって株価は調整局面入りとなる公算が高くなることでしょう。とはいえ、成長株との位置付けには変わりがありません。むしろ、長期投資と割り切って、安値圏での仕込みを探る好機と捉えるべきと位置付けます。

もう1つは、景気回復やSDGs・リモートワークの浸透などから需要拡大傾向に変化はなく、需給タイトが長期的に継続するというこれまでのパターンを脱するシナリオです。ピッチが鈍ったとはいえ価格は上昇トレンドにあり、半導体生産が東アジアに集中しているという地政学リスクも併せ、より成長株としての位置付けが高まるという見方になります。

この場合、株式市場は需給逼迫の継続、ひいては従来パターンからの構造変化を改めて好感することになるでしょう。しかし、需給逼迫が長期化すればするほど、「必要は発明の母」である以上、新しい技術やプロセス、新興企業がゲームチェンジャ―として出現してくる可能性もまた高まります。

このことは、現在限定的なプレイヤーのみで構成されている半導体の業界地図を変えるきっかけになることでしょう。それはおそらく発想の転換を背景とした新たなテクノロジーが核になるのではと予想します。そう考えるとワクワクしますね。