バークシャー・ハサウェイ第2四半期は21%の営業増益
8月7日、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイが第2四半期(2021年4~6月)の決算を発表した。バフェット氏はバークシャーの業績を評価する際に、株式評価損益の影響を除いた営業利益に注目するよう株主に呼びかけている。
その営業利益は66億9000万ドルと、前年同期の55億1000万ドルから21%増加した。また、アップル(AAPL)やアメリカン・エキスプレス(AXP)などへの投資に関わる評価益が寄与し、純利益は前年比7%増の280億9400万ドルとなった。バークシャーの純利益は、保有する上場株の評価損益で大きく振れる傾向にある。株高傾向が続いた今四半期には投資利益として214億ドルが計上された。
バークシャーは、保険事業や鉄道事業、またエネルギー企業など、様々な分野の企業を所有する投資コングロマリットである。これらの事業は米国内をベースとしており、米国経済がどのように変化しているのかを測るには、ちょうど良い指標ともなる。今四半期の決算で特徴的だったのは、2020年の新型コロナウイルス感染拡大の初期段階から米国経済が着実に再開していることを表すものとなったことだ。
バークシャー傘下の鉄道会社BNSFの営業利益は前年同期比28%増の22億ドルと、バークシャーがこの事業を買収して以来、過去最高の四半期利益をもたらした。小売商品の貨物輸送が増えたほか、建材や農産物の輸送も好調だったとしている。また、住宅建設や新築用部品の製造を行う部門の利益も40%増加、電子部品を販売するTTIの収益は、チップやその他の製造品の需要が急増したことにより50%以上も急増するなど、一部事業の業績はコロナ以前の水準を上回っている。
一方、保険会社のGEICO(ガイコ)は大幅な減益となった。経済の再開に伴い、多くの米国人が職場に戻ったり、外出したりする機会が増え、事故が多発し、保険請求が増加したという。第2四半期のガイコ社の保険料収入は70%近く落ち込んだ。
投資に関しては、3四半期連続で保有する株式の一部を売却した。この四半期中に売却した株式は、純額で11億ドル程度と、過去3四半期に比べて最も少ない売却額となった。一方で、米国株式市場の上昇に伴い、バークシャーが保有する株式ポートフォリオの価値は6月末時点で3,080億ドルに高まっている。同社は8月末、SEC(米証券取引委員会)に保有銘柄報告書(フォーム13F)を提出する予定だ。具体的にどのような銘柄の入れ替えがあったのか、また追ってフォローしたい。
バークシャーが保有する株式評価額は株式市場の上昇とともに膨らんでいる。
2020年の1年間で、バフェット氏はバークシャー・ハサウェイの発行済み株式の約5.2%に当たる250億ドル相当の自社株買いを行なった。2021年度に入ってからは第1四半期に66億ドル、この第2四半期は60億ドルとなった。自社株買いのペースは低下しているものの、四半期毎に60億ドルペースを継続すれば、2021年度も2020年度とほぼ同水準の自社株買いを行うことになるのかもしれない。ただし、2020年に比べて株価水準が高いため、積極的な自社株買いは限定的になりそうだ。
新興国市場への投資を加速させる新生バークシャー
7月、インドの電子決済サービスを手がけるペイティーエムがインド当局に対し、最大1660億ルピー(約2400億円)規模となるIPO(新規株式公開)を申請した。ペイティーエムにはソフトバンクグループ(9984)や中国のアント・グループが出資している他、バークシャー・ハサウェイも資金を出している。
ブルームバーグの報道によると、ペイティーエムは直近で160億ドル(約1兆7600億円)と評価されており、2010年に1500億ルピー余りを調達した国営石炭会社コール・インディアを上回り、インドで過去最大のIPOとなる可能性がある。2021年後半のIPOを目指している。
バークシャーはGDP(国内総生産)が3兆円近い世界7位のインドについて、「無視するには(経済規模が)大きすぎる」として関心を示していた。バークシャーがペイティムに出資したのは2018年のこと。当時の報道によると出資額は250億ルピー(約400億円)で出資比率は3%程度、バークシャーがインド企業に直接投資するのはこれが初めてのことだった。
バークシャーが新興国のスタートアップ企業に投資するのはこれだけではない。2021年6月にはブラジルのデジタル銀行「Nubank(ヌーバンク)」に5億ドル(約547億円)を出資した。既に、ブラジルの別のフィンテック企業「StoneCo(ストーン)」にも出資している。
2013年にサンパウロを本拠として設立された「Nubank」は、世界最大のチャレンジャーバンクの1つであり、ブラジルやメキシコ、コロンビアで4,000万人の顧客を獲得している。チャレンジャーバンクは銀行業務ライセンスを取得し、当座預金、普通預金、住宅ローンなど既存銀行と同じサービスをすべてモバイルのアプリ上で提供する銀行のことで、フィンテック業界の新たな旋風となっている。これまで銀行業務のライセンスを新たに取得することが大きなハードルとなっていたが、金融市場改革の流れに伴い、欧州を中心にチャレンジャーバンクの設立に向けた動きが顕著になっている。
中国政府による企業への締め付けが強まる中、行き場を失った投資資金が新たな投資先へと向かっている。とりわけ中国のハイテク企業でやけどを負ったグローバル投資家を惹きつけることができるとして、インドに注目が集まっている。調査会社CBインサイツのデータによると、2021年4月から6月までの3ヶ月間で中国のスタートアップ向け資金調達や取引は2020年10月から12月に記録したピークの277億ドルから18%減少したのに対し、インドは過去最大の63億ドルに達したとのこと。インドのSENSEX指数は高値を更新している。
バフェット氏はこれまでハイテク業界のように変化のスピードが速く、事業内容に対する理解が難しいものには投資しないと公に発言しており、不採算のテクノロジー企業やIPOへの投資を避けてきた。しかし、2020年、クラウドデータプラットフォームのスノーフレーク(SNOW)の株式をIPO直後に購入するなど、バークシャーの投資スタイルは明らかに変わってきている。
その中で、バークシャーの保有額トップ10に入りながらも、あまり話題に上らない成長株が1つ入ある。それは中国の電気自動車(EV)大手BYD(比亜迪)への投資だ。バフェット氏がテスラ株に対して距離を置いていることはよく知られている。しかし、バフェット氏がテスラに強気でないからといって、EV市場を完全に見限ったわけではない。
バークシャーは2008年にBYDに投資して以来、10年以上にわたってBYD株を約22%保有し続けている。投資のきっかけはバフェット氏のビジネスパートナーであるチャーリー・マンガー副会長だったとそうだ。マンガー氏は、BYDの創業者で会長兼CEOである王伝福(ワン・チャンフー)氏について「トーマス・エジソンとジャック・ウェルチを掛け合わせたような人物だ」と評したという。
BYDの株価は8月に入り、過去最高値を更新、一時時価総額は8000億元を超えるとことがあった。バークシャーの保有比率22%に変更がないとすると、保有時価は約1760億元となる。EV化は中国の国策である。バークシャーの保有はしばらく続くだろう。
大企業による大型買収などが規制される中、資金はどこへ向かうのか?
四半期決算に話を戻そう。第2四半期末時点のバークシャーの現金ポジションは1,440億ドルと3月末(1454億ドル)に比べてやや減ったものの、依然として高水準を維持している。会社側は膨らみ続ける現金をどのように活用するかについて、何も示していない。
バフェット氏はジレンマに直面しているだろう。現金は潤沢にあるのに投資のチャンスが少ないのだ。バークシャーがさらに企業として成長を続けていくためには、大規模な投資を行う必要がある。また、株主からは手元資金の活用を求められている。バフェット氏はかねて大型M&A(合併・買収)を狙うと公言しているが、目立った案件は出てきていない。
これまで買収価格の高騰がバークシャーの大型M&Aを阻んできた。しかし、ここにきてさらにハードルが1つ増えた。それは、バイデン米政権が大企業による寡占を厳しく審査する方針を打ち出してきたことである。既に、バークシャーは2つの取引が規制上の問題で頓挫する事態に直面している。
同社は、米エネルギー大手ドミニオン・エナジーから17億ドルでパイプラインを買収する計画であった。しかし、この取引に関して反トラスト法上の許可を得られるかどうか明らかでなかったことから、7月中旬にこの取引を撤回した。
さらに、米保険仲介大手エーオンと同業のウィリス・タワーズ・ワトソンによる総額300億ドル規模の合併計画が中止された。実現していれば、世界最大の保険仲介会社が誕生するはずであったが、規制当局の反対により、計画に遅れと不透明感が生じたため破談となった。バークシャーは2021年初めにエーオンを株式ポートフォリオに加えており、3月末時点で410万株を保有していた。
米連邦取引委員会(FTC)のトップにビッグテックに対して厳しい姿勢を示している法学者のリサ・カーン氏が就任したことに加え、バイデン米大統領は司法省の反トラスト法(独占禁止法)を担当するトップに、グーグルへの批判で知られる弁護士のジョナサン・カンター氏を指名した。今後、大企業による買収や業界再編への逆風がさらに強まる可能性が高くなってきた。
潤沢なキャッシュをどう使うのか。バークシャーは投資戦略を多角化していくことになるのか。バークシャーの経営が次世代に移行していくのに伴い、さらに新興国やIPOへの投資が増えていくのかもしれない。
石原順の注目5銘柄
バークシャーの主要な投資先5社のチャートを確認する。
※マネックス証券では、バークシャー・ハサウェイ クラスB(NYSE: BRK.B)の取扱いはありますが、バークシャー・ハサウェイ クラスA(NYSE: BRK.A)の取扱いはしておりません。