次世代を担う化合物パワー半導体、省エネの切り札にも
株式市場で次世代の化合物半導体への期待が高まっています。なかでも脱炭素による省エネ推進やデジタル化の広がりで電力制御や変換に用いられるパワー半導体への関心が高まっています。従来のシリコン製に比べて高性能の「SiC(炭化シリコン)」や「GaN(窒化ガリウム)」など次世代の化合物半導体の技術開発や量産投資が加速しています。
経済産業省の最新の「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」には、「次世代パワー半導体の実用化等を通じて、家庭の電気料金負担を軽減する」とあります。一例として次世代パワー半導体をエアコンに搭載すると、従来製品と比べて6%程度の省エネ効果があるとの試算を挙げています。これをもとにすべての家電に次世代パワー半導体を搭載し、6%の省エネ効果があるとすれば、一家庭当たり1年間で約7,700円程度が削減されるとみられています。
5G基地局、青色LEDなどで活用進むGaN
GaNは窒素(N)とガリウム(Ga)からなる化合物半導体の材料です。GaNや前回コラムで紹介したSiC(炭化シリコン)などは「ワイドバンドギャップ半導体」に分類されます。バンドギャップとは電子が存在することのできない領域です。シリコンに比べてこの領域が広いため、電子が熱によって高エネルギー状態になりにくく、高温化でも高速で動作できるという特性があります。熱に変わって失われる電力の割合が小さく、電力変換効率が高いのも特徴です。電力の損失が少なく省エネ性能も高いという特性を活かし、パワー半導体としてパソコンやサーバーなどの高性能電源アダプターとしての利用も広がっています。
GaNはシリコンよりも電子が動く速度が速いため、高周波の信号を扱う半導体にも適しています。GaN半導体を搭載すれば、電波を増幅するパワーアンプの動作を高速化するとともに電波の損失を減らすことが可能になります。現在、インフラ整備が進む5G(次世代通信規格)の基地局では、GaNを使用した高出力のパワーアンプユニットが設置されています。
GaNは光を発する特性もあり、青色や白色のLED(発光ダイオード)の素材として使われるなど古くから光デバイスとしても活用・研究されてきました。2014年にはGaNを用いた高効率青色発光LEDの発明で故赤﨑勇氏、天野浩氏,中村修二氏ら3名がノーベル物理学賞を受賞しています。
GaNの課題はコストの高さです。国立研究開発法人科学技術振興機構・低炭素社会戦略センターの資料によりますと、シリコンの12インチ(300ミリ)の汎用品が約1万1000円程度であるのに対し、GaNは小口径の4インチウエハーは40万円程度と高止まりしています。またシリコンよりも硬度があり、加工にも技術を要するため量産に向けた技術開発が焦点になっています。
先行きの需要増の期待は高く、富士経済が2021年6月に発表したGaNパワー半導体市場の予測によると2020年の市場規模は22億円程度だったと見込まれています。今後はデータセンターや携帯電話基地局での5G通信の導入などがけん引し、2030年には166億円程度と2020年比で7.5倍に急拡大する見通しです。
GaN関連ではオキサイド、サムコ、住友電工、信越化学に注目
酸化物単結晶や光部品、レーザー光源などの開発、販売を手がけるオキサイド(6521)は、2021年4月、東証マザーズに新規上場しました。半導体の装置メーカー向けにレーザー光源などを供給しており、新興の半導体関連企業として注目されています。6月18日にはGaNの薄膜単結晶の成長に適した新材料の単結晶基板のサンプル出荷を開始したと発表しました。従来の結晶製法に比べて不良品率が低く、高性能なのが特徴です。小型成長株ということもあり、今期予想PER(株価収益率)は100倍を超えていますが、折に触れGaN半導体を材料とした買いが入る場面がありそうです。
サムコ(6387)は「薄膜」技術に強みをもつ半導体の製造装置メーカーです。同業他社との大きな違いはSiCやGaNなどの化合物半導体に特化している点です。その他にも無線通信用フィルター、LED向けなどの非デジタルの半導体製造装置を幅広く手がけており、今後の業績拡大が期待されそうです。株価はコロナ禍で前期の受注が低迷したのが嫌気され年初来で約1割下落していますが、見直し余地がありそうです。
住友電気工業(5802)は、光ファイバーケーブルやワイヤーハーネスの大手です。半導体事業では、早くから化合物半導体の研究開発に注力しており、5Gの基地局端末向けGaN基板などを手がけています。
信越化学工業(4063)は、インフラを支える素材の塩化ビニール樹脂や半導体のシリコンウエハーで世界シェアトップの総合化学企業です。GaNについても基板や関連製品などの開発やサンプル出荷などを進めており、シリコンウエハーなどの既存事業とのシナジーも期待されます。