デジタルシフトや脱炭素で次世代化合物半導体への期待高まる

産業や生活のデジタル化や脱炭素による再生エネルギーへの移行が進むのに伴い、省エネや電力の制御のカギを握るパワー半導体の需要が急速に伸びています。需要の急拡大に伴い、半導体メーカーによる技術開発や量産投資も広がっています。

パワー半導体の主な材料はメモリーなどのデジタル半導体と同じシリコン(ケイ素)です。しかし最近では電気自動車(EV)や再生エネルギーの普及に伴い、省エネ性能の高い「SiC(炭化シリコン)」と「GaN(窒化ガリウム)」など次世代を担う化合物パワー半導体への注目度が高まっています。

日本政府は2050年に実質的に温暖化ガス排出ゼロを目標とする「カーボンニュートラル」を目指しています。カーボンニュートラルの達成に向けて策定した「グリーン成長戦略」では企業の脱炭素投資を後押しする目的の投資促進税制で大きな脱炭素効果のある製品として、化合物パワー半導体が明記されています。

省エネ性能が高く、高電圧・高温下にも強いSiC(炭化シリコン)

SiCはシリコン (Si) と炭素 (C) からなる化合物半導体材料です。シリコンよりも素材の電圧による壊れにくさを示す「絶縁破壊電界強度」がシリコンと比べて約10倍高いことから600~数千V(ボルト)の高電圧にも耐えられます。また耐熱性も高く、高温環境でも電力変換効率が落ちにくい特性を持っています。EVでは走行中にモーターが発する熱によって高温となるため冷却ファンが必要となりますが、SiC製パワー半導体を採用すればファンなども小型化できるため、スペースの限られるEVに適した材料と言えます。

またSiCは電力変換効率が高く、電力損失はシリコンの70~90%以下と省エネ性能が高い特性を持っています。電力は変換時に一定の割合で必ず熱となってしまうため、放熱や電力ロスをいかに減らすかが課題となっています。SiC製パワー半導体はその特性を活かしてEV向けインバーターや太陽光発電システムなどに組み込まれるパワーコンディショナー(電力変換装置)での需要増が期待されています。

SiCの課題は加工の難しさとコストです。シリコンに比べて硬いため加工しづらく、原料の結晶を作るのに時間がかかります。量産やコスト面で見劣りしていましたが、昨今の需要増を受けた技術開発で量産への道筋が開けつつあります。

【図表1】
出所:株式会社QUICK作成

富士経済が2021年6月に開示したSiCパワー半導体市場の予測によると、2020年には493億円だった市場規模は、2030年に3.8倍の1859億円に拡大するとの見通しです。自動車の電装化やスマートフォンなど情報機器の高機能化などが需要をけん引するほか、鉄道車両やエネルギー、産業分野でも高耐圧パワーデバイスとして採用の増加が期待されています。

昭和電工、ローム、富士電機などがSiCに注力

【図表2】
出所:株式会社QUICK作成

日本には地道なものづくりの力が必要となるパワー半導体を得意分野とする企業が多く、化合物半導体についても技術開発や増産投資を進めています。総合化学メーカー大手の昭和電工(4004)は、5月にパワー半導体で世界シェアトップのドイツのインフィニオンテクノロジーズにSiCの材料のウエハーの提供契約を締結しました。

昭和電工は鉛蓄電池事業などの不採算事業の売却を進める一方で、成長分野である半導体などに経営の軸足を移しています。株価は年初来で約5割上昇していますが、2018年10月に付けた直近高値の6,470円からみれば依然として出遅れ感があります。今後も構造改革が一段と進展するかどうかが、本格上昇のカギを握っています。

電子部品大手のローム(6963)は2012年にパワー半導体素子をすべてSiCで構成した「フルSiC」パワーモジュールを世界で初めて量産するなど、早くからSiCに注力しています。材料のウエハーから製品のパッケージ化までを一気通貫で手掛けているのが強みです。生産設備への投資も強化しています。今後5年間で600億円を投じ、SiCパワー半導体の世界シェアを現状の約2割から2025年に約3割へと引き上げるのが目標です。株価は一部の半導体や電子部品株に比べると年初来とほぼ同水準で出遅れ感があるため、上昇余地がありそうです。

重電大手の富士電機(6504)は、パワー半導体とパワーエレクトロニクスを中核技術としています。シリコンやSiCパワー半導体をデバイスとして外販するほか、自社のパワーエレクトロニクスやエネルギーシステムに組み込んで顧客に提供しています。自動車を中心としたパワー半導体の需要増を受け、2021年4月には向こう4年間で山梨県の工場などに総額1200億円の増産投資を前倒しすると報じられており、業績拡大への期待が高まっています。株価は年初来で4割上昇と高値圏で推移していますが、投資指標面などからみても割高感は乏しく今後の上昇が期待されます。