>> >>特別インタビュー【2】SPAC上場の成功事例と良いSPACを見極める4つのポイント

個人投資家がSPAC銘柄を検討する際に注意すべきポイント

岡元:私の感覚では、SPACで上場した企業の創業者や経営者、株主は、株式公開後、割と早い段階で株式を売却しているような印象を受けます。

通常のIPOであれば、上場前の株主や経営陣はIPOをする際に株式を売却することができますね。SPACの場合も同様なのでしょうか。

バックス:通常、SPACで上場した場合、経営陣や初期の投資家の一部(以下、インサイダー)は、一般的に「ロックアップ」と呼ばれる売却ができない期間があります。

企業がSPACに買収された後、通常、その企業の創業者や初期の投資家は、株式を売却できるようになるまで6ヶ月から1年ほど待つことになります。SPACによる買収は、多くの投資家にとって、投資の一部を収益化するための手段であり、最終的には事業に対する所有権の一部を売却することになります。

特に彼らが、例えばベンチャーキャピタルのようなプロの投資家で、ある企業に早くから投資していたのであればなおさらです。彼らは企業の将来性とは無関係な視点で投資をしているのです。彼らにはインセンティブがあり、また、その企業に投資したファンドの年数を考慮したとしても、売却する場合があるかもしれません。 

岡元:インサイダーはロックアップ期間が終了する前に売却することはできないということですね。

バックス:SPACごとに違いがありますが、一般的にはそうです。目論見書を確認すると良いでしょう。

99%のSPACは、De-SPAC(※1)後の取引において、インサイダーに対してロックアップ期間を設けていると思います。しかし、個人投資家は、いつでも自分の株式を売却できるのです。個人投資家は、普通の株と同じようにSPACをいつでも売却することができます。 
(※1)IPO後に、SPACが買収対象会社と合併し、買収取引を完了させた状態のこと。

岡元:インサイダーが株式を売却し始めたら、個人投資家は気にする必要があるのでしょうか。 

バックス:確かに、それは懸念材料ではありますが、無害なケースや論理的なケースもあるでしょう。インサイダーが売却している理由によります。つまり、その企業のことを知っている人たちが、その企業がうまくいっていないと考えたり、見込みがないと思って売却している場合は明らかに問題ですし、個人投資家は注意しておいたほうがよいでしょう。

しかし、他の理由とは分けて考えたいものです。例えば、初期からの投資家が10年間投資してきたのであれば、売却したいと考える場合もあるでしょう。あるいは、10年かけて事業を立ち上げた創業者がいるかもしれません。彼らがすべての財産をビジネスに投資してきたとすると、その過程で作り上げた価値の一部を収益化したくて現金化する創業者もいるかもしれません。こういったことは、企業がうまくいっていないことの表れでしょうか。必ずしもそうではありません。

むしろ売却する必要がない人が、大量保有している株式を売却してしまう方が心配です。例えばアップルのティム・クックCEOが同社株を大量に売るような場合です。もしそんなことが起こったら、それは明らかに彼が会社を信じていないのか、それともアップルに何か問題があるのか、なぜ彼が多くの株式を売却するのか、という疑念がうまれるでしょう。こうした考え方はSPAC銘柄にも当てはまると思います。

バックス教授の注目企業

岡元:バックス教授は米国内で13社以上の企業の取締役や顧問を務めていらっしゃいますが、具体的にどのような企業か教えていただけますか?

バックス:私は様々な分野の企業に投資をしています。Peachtree Hotel Group、Vistas MediaとAnghami社を除いて、すべて米国に関連する上場企業です。

例えばNavigation Capital Partners(※2)はSPACのオペレーショングループを持っており、私たちは彼らとSPAC取引を行いました。私はこの企業にとても期待していますし、彼らには明るい未来が待っていると感じています。プライベート・エクイティ・ストラクチャード型のファンドですが、資金を調達し、その資金をSPACの世界で、スポンサーやバックスポンサーに展開しています。例えば、人々をビジネスに参加させ、そのプロセスにおいて彼らのパートナーとなるのです。スポンサーの周りには、非常に信頼できるグループがいるというのも、先ほどお話をした通り重要なポイントです。

もう1つの例は、米国南東部にあるPeachtree Hotelという企業です。Peachtree Hotel Groupは、ホテルのプラットフォームです。ホテル業界は昨年(2020年)、コロナ禍の影響で厳しい状況にありましたが、そこから脱却しつつあります。

私たちは、デットサイド(借入・負債による資金調達)とエクイティサイド(株式発行による資金調達)の両方で大規模なポートフォリオを管理しています。エクイティのポートフォリオは約10億ドル。デットサイドは20億ドルで、様々な商品を扱っています。これまでに資金を調達してきましたが、この企業は素晴らしいと思っています。ただ、この企業は上場していません。

最後にご紹介するのは、Angel Oak(※2)という企業です。この企業は、アトランタに拠点を置く140億ドル規模のヘッジファンドで、不動産に関連したクレジット戦略を行っています。

これまでご紹介したのは、私が一緒に仕事をしている様々な企業の一部です。私は、米国市場の機会とその方向性を信じています。

(※2)マネックス証券では、Navigation Capital Partners、Angel Oakの取扱いはしておりません。

米国市場の長期見通し、S&P500のリターンは?

岡元:最後に、米国と株式市場の長期的な見通しについて、教授のお考えをお聞かせください。

バックス:私は米国市場に対して非常に強気の見方をしていますので、その理由を2つ挙げたいと思います。1つ目は、米国は人々の物語を体現していることです。長い目で見れば、すべては賢明な人々が新しいアイデアを出し、革新し、懸命に働くことで成り立っています。そして米国はそういう人たちを惹きつけます。

今日、米国では移民問題が話題になっていますが、大企業を築いた多くの起業家を見てください。テスラがその最も顕著な例ですが、多くの大企業の起業家は外国で生まれ、米国に住むことを選択し、米国で会社を設立しています。確かに人口の高齢化は課題ですが、移民や若者の流入はその助けになると思いますし、米国はそのために非常に有利な立場にあると思います。

時々、米国はギリシャ帝国やローマ帝国のような過去の帝国に似ているのではないか、と言われることがあります。しかし、米国は、過去の多くの帝国とは異なると私は思っています。と言うのも、米国には多くの移民や米国に来たい人が集まってきます。そして率直に言って、最終的にはそれが米国の経済や国全体の成功の原動力になっていると思います。

2つ目の理由は、物流面での立地条件や、エネルギーの観点から見ると、米国は風力エネルギーのサウジアラビアになり得るということです。この物語を完成させるには、まだ長い道のりがあります。現在は確かに化石燃料経済ですが、エネルギーの転換に伴い、米国は非常にうまくやっていけると思います。

この点で株式市場を見ると、クレジットサイクルが非常に重要だと思いますし、インフレ率も上昇しています。米国はコロナ禍から立ち直りつつあるので、これはもっと短期的なものになるかもしれません。

米国の実体経済の見通しは良いと思います。インフレ率と金利上昇という逆風が吹いていると思いますが、それらにも対処できると期待しています。収益率に関しては、先ほど申し上げたように、クレジットサイクルが非常に重要です。1980年代以降、私たちは長い間、信用を頼りにしてきました。しかし、2桁だった金利が今ではほぼゼロという状況です。

金利がこれ以上下がらない新しい環境に適応していく中で、少なくとも長期的には市場の収益率もある程度下がると予想するのが妥当だと思いますし、期待収益率も下がるでしょう。つまり、過去30年間、私たちは本当にうまくやってきたのです。S&P500のリターンは9%です。長期的にそれを今後期待するのは合理的ではないと思います。

岡元:そうですね、では6%ならば現実的だと思いますか。

バックス:インフレは短期的に株式市場を押し上げる傾向があります。ただし、2-3年、4-5年、あるいは10年後には、高インフレや金利が高くても株式市場は下落する傾向にあります。S&P500のリターンは6%、あるいはその前後になるだろうという従来のエコノミストたちの意見には賛成ですが、それは未来にしかわからないことだと思っています。

私は、この物語はまだ描かれていないと思います。過去を振り返ってみると、2008年から2009年にかけての大不況の後、米国経済には本当に構造的な問題があると言われていましたが、米国はどれだけうまくやってきたかを思い返してみましょう。米国は、逆境や潜在的に足を引っ張る可能性のあるものから立ち直ってきた素晴らしい実績を持っていると思います。

私たちの革新能力と経済を変革する能力は、他に類を見ないものだと思います。投資するには最適な場所だと思います。難点は、多くの人がそのことに気づいていることだと思います。つまり、多くの資本が入ってくることで、リターンが再び下がることになるのです。しかし、多くの人がそれでもこの市場に投資したいと思っています。

岡元:10年後、20年後、米国のマーケットはどこに向かっているでしょうか? 今よりも上昇していると思いますか?

バックス:はい。特に20年先のことを述べるのは難しいですね。しかし長期的に見れば、生産性の向上に伴い、市場は上昇する傾向にあります。

私たちの労働技術と資本の両面から見た場合です。私たちの生産要素は、より多くの商品を、より効率的な方法で生産することができます。ですから、確かに長期的には市場価格は高くなると思います。実際、過去のどの30年間を見ても、市場がマイナスになったことは一度もないという研究結果もあります。

つまり、少なくとも統計的に、あるいはそれに近い確率で、30年後には当初よりも良い結果が得られる市場で、30年間お金を持ち続けることができれば、儲かる可能性が高くなるということです。

岡元:バックス教授、今日は貴重なお時間をありがとうございました。

バックス:こちらこそありがとうございました。日本と再び繋がることができ、心から嬉しく思います。

本インタビューは2021年5月27日に実施しました。