>> >>特別インタビュー【1】SPAC投資の魅力と企業がSPACを利用して上場する2つのメリット

SPAC上場の成功事例

岡元:SPAC上場の成功事例を教えてください。

バックス:ドラフト・キングス(DKNG)は、オンライン・カジノ業界で最も有名なSPACでしょう。ドラフト・キングスの例で重要なポイントは、SPACのスポンサー企業であるダイヤモンド・イーグルが、4億ドルのIPOを行ったことです。そして2019年12月23日に最終合意を発表しました。同時に、その取引を支援するための4億ドルのPIPE(上場企業の私募増資)を発表しました。

そして、コロナ禍の真っ只中の2020年4月に合併を終了しました。この取引により、バランスシートには5.3億ドルが追加され、資本は非常に充実しました。IPO時に10ドルでスタートしたドラフト・キングスの普通株が、合併時には19.35ドルで取引されていました。 そして、最高で74ドルまで上昇しました。現在(2021年5月13日時点)の株価は44ドルですが、これは最も成功したSPACの1つだと思います。

ある意味では、2020年初頭から半ばに始まったSPACブームの先取りだったと言えるかもしれません。SPACがいかに優れているか、どれほどの利益を上げられるか、ということに人々が注目した、重要な取引の1つだったと思います。

2020年にSPACブームが訪れたワケ

岡元:そのことにも関連しているかもしれませんが、なぜSPAC上場が2020年に急に注目を集めたのでしょうか。

バックス:2つの理由が挙げられます。1つは、メディアがSPACの成功事例を取り上げたことです。もう1つは、SPACに関わる3つの当事者の間でそれぞれがメリットを得られるという「Win-Win-Win(ウィンウィンウィン)」の認識が広まったことです。

SPACの第1の当事者は、売り手企業です。売り手企業は、SPACによって従来のIPOではできなかった資金調達をする絶好の機会を得ることができます。

第2の当事者はスポンサーです。つまり、取引をまとめる人たちと、それに対応する経済性です。スポンサーを通じた経済性は、プライベート・エクイティやベンチャーキャピタルの場合よりも優れています。

そして、3つ目は投資家です。 昔は、資本が逆流して、SPACが何度も繰り返されることもありました。なぜなら、スポンサーが投資家に資本をすべて還元しないことがあったからです。それが今では、1株あたり10ドルが保証されているわけです。

過去には、取引に費用をかけないなど、投資家のためにならないことをするスポンサーもいました。しかし今日では、投資家は資本を取り戻すことができるので、完全に保護されています。これら3つのことが重なった結果、これまでにない方法でパズルのピースが組み合わさったということです。

そして、3つの当事者がSPACに投資したり、関わることにメリットを感じるようになりました。その認識が2020年の半ばに完全に結実し、ブームが生まれたのだと思います。
SPACは2003年からありましたので、ずいぶんと長い時間をかけて実を結んだのでしょう。

岡元:多くのSPACの株価が上場後に急上昇し、その後、下落したものもありましたが、それは市場の他の成長株と同じですよね。これらの企業の今後の業績はどうなると思われますか。

バックス:2020年半ばはSPAC銘柄がとにかく高騰し、人々の耳目を集めました。米国の大手メディアや、日本のメディアでも多くの有力なビジネス誌がSPACについて取り上げ、どれほどの利益が得られるかを伝えていました。そして、多くの投資家が集まり、本質的な構造が理解されないまま価格が高騰しました。例えば、スポンサーが誰なのか、スポンサーの質はどうなのか、実績や取引内容はどうなのか、この取引を請け負っているのは信頼できる人たちなのか、などを疑うことなく、人々が購入していったのだと思います。

私がよく覚えているのは、SAPCが1株あたり10ドルで償還される権利があることさえ知らない人たちと話したことです。彼らはただ、「今、SPACが“HOT(熱い)”から買うべきだ」と言っていました。それで結局、これらの銘柄は上昇しました。そして、市場が現実を認識したのが今年(2021年)の年初ということです。

SPACの“バブル”や“ブーム”で個人投資家が被害を受けることに神経質になっていたSEC(米証券取引委員会)の働きかけもあり、今年(2021年)3月にはSECが介入し、市場に合理性が出てきたと考えています。もし私が視聴者の皆さんに何かアドバイスするとしたら、「10ドルの補償があるのだから、常に10ドル前後で買い戻してください」と言うでしょう。

チームを本当に信じているのであれば別ですが、投資家であれば「うまくいくと思うから」といった理由で、10ドルをはるかに超える例えば15ドルや20ドルの投資はしたくありません。

企業との最終合意が発表されるまで待って、その時点でSPACを購入することもできます。経営陣に託したいということであれば、そうすることもできます。しかし、投資戦略としては、10ドル前後で株式を買っておけば、そこから取引が行われていくでしょう。10ドル前後で取引されるのは、取り戻す権利があるからであり、10ドル以上で取引されるのは、SPACの見通しが非常に良いと市場が判断した場合です。

結論として、今日の状況を見てみると、2020年のブームからは落ち着いてきていると思います。市場は今、SPACに対してより合理的になっていると思います。10ドル以上で取引されているSPACはもうあまりありませんが、これは理にかなった結果です。

良いSPACを見極める4つのポイント

岡元:良いSPACとそうでないSPACをどのように見分ければよいか、アドバイスをいただけますか。

バックス:基本的に4つのことを考えます。

(1)スポンサーの過去の実績を調べる

バックス:1つは、スポンサーについて調べることです。そのスポンサーには実績があるのか。以前にSPACの実績があるのか。そのSPACはどうだったのかなど、スポンサーの過去の実績を確認することが重要だと思います。

岡元:そのような情報は一般に公開されていますか。誰でも簡単に入手できるのでしょうか。

バックス:一般的には広告が出されます。スポンサーは、過去のSPACの実績を広告するでしょう。その情報はすべて公開されています。また、SPACの情報を整理して販売する企業やウェブサイトもありますが、SECやEDGARや調査会社のウェブサイトで企業を調べれば、その情報は手に入ります。

ブルームバーグなどでは、情報がより整理されていますが、まずは見つけられるところから探すのが良いでしょう。

(2)信頼できるスポンサーがついているかを確認する

2つ目のポイントは、SPACに信頼できるスポンサーがついているかどうかを見極めることです。

SPACは2つのタイプのスポンサーによって設立されているように思います。1つ目のタイプは、過去に成功したCEOや起業家たちです。その方々を信頼できたとしても、金融関連の経験があまりなければ、サポートするチームが周囲にいるかどうかを確認した方がいいでしょう。それは、スポンサー企業への投資家という形でも良いですし、金融取引分野で経験豊富な人材が取締役に含まれる形でもよいのです。それらは、スポンサーの一種です。このような形であれば、良いチームになると思います。

もう1つのタイプのスポンサーは、金融機関、あるいは金融機関での経験がある人です。必ずしもその事業分野の深い実務経験があるわけではないものの、彼らは金融取引に精通しています。プライベート・エクイティやベンチャー企業にいた経験を活かしてSPAC取引を開始します。また、事業の買収を成功させるために、周辺に適切なアドバイザーや役員がいるかどうかも確認したいところです。

(3)SPACの取引の構造を理解する

3つ目のポイントは、取引の構造を理解することです。すべてのSPACが同じ方法で設立されておらず、1つの型に当てはまるわけではありません。例えば、SPACの中には、より大きなワラント(新株予約権)を得られるものもあります。SPACによって規模が異なります。あるSPACは1億ドルの資金を調達します。3億ドルのSPACもあれば、5億ドルのSPACもあります。それ以上の10億ドルのものもあります。

これは、どのようなタイプの企業を買収できるかということに関連しています。例えば、10億ドルのSPACを調達した場合、対象となるのは通常40~50億ドル、60億ドル、あるいは100億ドル規模の企業です。

そのような規模の企業は単純にそれほど多くなく、企業を買収するには非常に競争の激しい分野です。ですから、自分が投資するSPACがどのくらいの規模の企業を買えるのか、ということを考えてみるといいでしょう。

これらの要素はSPACの基本的な特徴であり、私が投資家であれば考慮したい点です。

(4)個人投資家として投資方法を考える

4つ目は、個人投資家としての投資方法を考えることです。私はSPACを利用する最も良い方法の1つは、IPOに参加することだと思っています。

SPACのIPOは10ドルで取引されますが、IPOでは投資家はユニット(上場証券)と呼ばれるものを手に入れます。ユニットは、通常、株式とワラントの一部で構成されています。ワラントの1/3かもしれませんし、1/4かもしれません。市場の状況に応じて、どれだけのワラントが配布されるか、あるいはその中にどの株式が含まれるかが決まります。つまり、個人投資家が行った10ドルの投資に対して、IPOに参加できれば、株式を受け取り、さらにワラントも受け取ることができるのです。

普通株には償還権があります。ですから、いったん普通株式の保有者になれば、10ドルの投資額を取り戻す権利があります。すぐには戻ってきませんが、SPACはご存じのように限られた期限、一般的には24ヶ月が非常に典型的な期間ですが、その期間の終了後にお金が戻ってきます。

その株式を保有していれば、ワラントを手に入れることができ、ワラントは事実上、その企業のアップサイドを与えてくれるのです。つまり、10ドルを払って株式を保有したところで、無料のワラントを手に入れた、あるいはワラントの無料部分を手に入れたと考えることができます。そういう意味で、SPACに投資したいと思っている人は多いと思います。

2つ目の投資方法は、IPO後にマネーマーケット口座を利用することです。基本的には、銀行口座と同様に、大きなリターンはありませんが利息が発生します。

しかし、先ほどご説明したように、信頼できるスポンサー、チームがいるSPACを見極めて、うまくいけば、株価が上がるでしょう。ですから、そのタイミングを狙うことができます。

あるいは、IPO後の経営陣に投資したいと思ったら、株式を購入すれば良いのです。先述の通り、私は通常、15ドルや20ドルではなく、10ドル前後での購入をお勧めしています。15ドルや20ドルで購入すると、そこから10ドルに戻る可能性があるので、その時点でダウンサイド・リスクを負うことになると思います。

>> >>特別インタビュー【3】SPAC銘柄の注意すべきポイント、米国株は今後も強気相場が続くのか

本インタビューは2021年5月27日に実施しました。