毎年恒例となった香港大で開催される「香港大学・東京大学合同サマープログラム」に講師として招かれて話をする機会を得た。このサマープログラムは今年で5回目である。東大の園田先生(社会学)と香港大の中野先生(日本学)のお二人の指導の下で2週間に亘って両校の学生が、香港の歴史・政治・経済についての講義を受け、日系企業の現場を訪問し、プログラムの最後はグループ毎に「香港の中の日本」を調べて発表すると言う体験学習型プログラムである。生まれも育ちも異なる学生達が、2週間寝食を共にして議論を続けることでお互いを知り、お互いの違いを認識することにより、グローバルな人材を育てるというのが最終的な目標なのだそうだ。
香港大の中野先生によると、「日本の大学は元々欧米志向が強く、アメリカやイギリスの大学との共同研究のようなものが多く、日本以外のアジアの大学との共同プログラムのようなものは他に例がないのでは」とのことである。これは東大の園田先生が、「日本と香港は飛行機で4時間しか離れていないにも関わらず、大きな意識GAPが存在する。それを学生達に体験学習を通じて体感してもらうだけでも大きな意味がある」という強い問題意識で始められ、今日まで続いているのだ。この園田先生の思いには、筆者も、日頃日本と香港の関係でその違いを強く感じている事もあり、大いに共感を覚えている。「日本の常識が香港に来ると全くの非常識、その逆もある」事を若い学生諸君にも学んで貰えるのは「相手を知る」という意味でとても大切な事であると思う。
そんな事もあり、筆者は第1回からこのプログラムのお手伝いをしており、今回が何回目かの講演となった。今年の筆者のテーマは「なぜ今香港で資産運用サービス事業を展開しているのか?」で1時間半講演をし、筆者の次には世界一のラーメン店チェーンを作り上げた味千ラーメン創業家副社長の重光氏の熱い講話。その後味千ラーメンを試食しに香港の街中にバスで移動した。そんな中今回は「一つの気づき」があった。第1回目の講演では、質問の殆どが香港大の学生からであり、東大の学生からの質問は数少なかった。しかも東大の学生は日本人かと思いきや、実はシンガポールとマレーシアからの留学生であったという事実にややがっかりして、日本の大学の将来に一瞬不安を覚えたものである。しかし、今回は出身大学問わず学生が皆競うように質問をしてくる。しかもみんな結構しっかりとした英語を使って質問してくる。講演の後、ある東大工学部の学生と話をしたら、大学のゼミではブロックチェーンやAIの実社会への応用研究をしており、筆者の演題になった最新のテクノロジーの金融業界に与える影響は刺激になったと語る。そのゼミからは大半が外資系コンサルに就職したり、起業したりするという。ひと昔の徒弟制のような、ゼミの先生の親しいメーカーに就職するという慣行は既になく自由な雰囲気で学生一人一人が将来を見つけようとしているらしい。
世界における日本の大学の地位低下についてマスコミが囃し立てているが、教育の現場はもっと先を見つめて動いており、学生達も将来を見据えて様々なオプションをもって行動しているなと感じられた。
日本の将来は明るいと思えた良き週末であった。
学びは教わる側も教える側も常に双方向である。
コラム執筆:Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank (NWB)
世界三大金融市場の一つである香港にて、個人投資家に、「世界水準の資産運用商品」と「日本水準のサービス品質」、個人向け資産運用プラットフォームとしての「安心感」を併せて提供している金融機関。マネックスグループ出資先