一般に、証券の理論価格は将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたものの合計である。普通の債券は将来のキャッシュフローの支払いが決まっているから、価格は純粋に割引率(=金利)の変動で決まる(モーゲージ債やインフレ連動債を除く)。割り引く分母の金利が上がれば価格は下がり、金利が下がれば価格は上がる。長期債と短期債とでは長期債のほうが金利に対する価格感応度が高い。長期債は償還までの期間が長いため、その間に発生するキャッシュフローが多い。金利が動けばそれだけたくさんのキャッシュフローの割引現在価値が影響を受けるからだ。
債券投資とは国債なら国に、社債なら企業におカネを貸して、利息をつけて返してもらうということだ。短期債はすぐに返してもらえるが、長期債というのは貸したお金がかえってくるのに時間がかかる。それだけ金利変動リスクにさらされる期間が長い。期間だけでなくて、1回に返ってくるクーポンの水準も考える必要がある。年限とクーポンを勘案した、貸したお金の平均回収期間のことをデュレーションという。残存期間が同じ債券であれば、利率が高い債券の方がデュレーションは短くなる。投資が早く回収されるからだ。ここでは省略するが実はデュレーションは金利変動に対する債券価格の変化を表す式になっている。例えばデュレーション5年の債券であれば、金利が1%上昇すれば債券価格は5%下落する。つまり、デュレーションの値が大きいほど、金利変動による債券価格の振れ幅が大きくなるということだ。
デュレーション
(1) 債券投資の「平均回収期間」
(2) 一定の利回り変化に対する「債券の価格変動の大きさ」
これを株に応用してみよう。株式のデュレーションとは何だろう。理解しやすいのは配当利回りの逆数である。配当利回り5%の銘柄は年に5%ずつ投資元本を返してもらうのと同じ。投資額は20年で回収できる。デュレーションは20年だ。PERは株価がEPSの何倍かを測るものだが、EPSも株主へのリターンの原資となるものだから何年で投資を回収できるかと考えることができる。PER20倍なら20年、PER100倍なら100年かかる。グロース株というのは一般的にPERが高いか配当利回りが低い株、すなわちデュレーションが長い、よって金利感応度が高いのである。
証券価格=CF/金利であった。ここで、債券ならばCFは固定だから金利が上昇すれば必ず価格は下がる。ところが株式の場合はどうだろう。金利が上がってもCF(の見通し)がさらに上昇すれば価格は下がらない。金利上昇局面では通常、業績拡大期待も高まる。分子のCFの代理変数(配当や利益)も上昇していくだろう。金利上昇と株価上昇は併存し得る。今の局面は金利上昇に対して株式市場が「敬意を払って」調整しているに過ぎない。本格的な調整局面ではないいうことだ。
米国の長期金利はどこまで上がるか。長期金利は(1)実質金利、(2)期待インフレ率、(3)タームプレミアムに分解できる。実質金利というのは実質期待成長率、つまり潜在成長率とニアリー・イコールであるから目先の変動要因ではない。もっと長期的な話だ。グラフ1は(2)期待インフレ率に10年債のブレークイーブン、(3)タームプレミアムとしてNY連銀のエコノミストであるTobias Adrian, Richard Crump, and Emanuel Moench (or "ACM") が計算している値を載せている。(ACMについてはこちらのレポートもご参考)
年初来で見て、10年債の利回りは57bps上昇したが、ブレークイーブンは12bpsしか上昇していない。タームプレミアムは63bpsも上昇している。この間の金利上昇はタームプレミアムの上昇によるものだ。タームプレミアムは長らくマイナスに沈んでいたが、2月10日あたりからプラス圏に浮上してきた。バイデン政権の追加経済対策がまとまる機運が高まり、財政悪化懸念を反映してのことと思われる。プラス圏に戻ったことでタームプレミアムの上昇にも一服感が出るだろう。そもそも、その上昇を促したのが追加経済対策であれば、その材料も織り込み済みとなる。期待インフレ率は2%を越えたところでさすがに頭打ちになっている。こう考えると米国長期金利の上昇も、そろそろいいところだろう。実質金利0.5% + 期待インフレ率2%で2.5%が自然な長期金利の水準だが、そこからFEDによる超金融緩和を考えれば、1%台後半、ざっくり言って1.7~1.8%が上限と考えられる。
マーケットもその水準を見切り始めると思う。このカネ余り、この運用難で米国債が1%台後半なら喜んで買う買い手は、年金や生保などごまんといる。
日経平均は10月からの上昇で25日移動平均にワンタッチすると調整完了となってきた。今回の調整もここまでだろう。