年初に動いた中東情勢

2021年も中東では年初からいくつかの注目すべき動きが見られた。その1つが、1月5日にサウジアラビアが発表したカタールとの国交回復である。これにより、約3年半続いたカタール断交問題が終結に向かうことになった。

その前日の1月4日には、イランがウラン濃縮度の引き上げ作業の再開を発表した。1年前の2020年1月3日にイラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のトップ、ソレイマニ司令官が殺害されたことに加え、2020年11月にイランの核開発で重要な役割を担っていたとされる科学者が殺害される事件があったため、年末年始にかけてイランの過激な動きが懸念された中での発表となった。

また、1月4~5日にかけて開催されたOPECプラス閣僚会合後、2月からロシアとカザフスタンが若干の増産を行うことが決まった一方で、サウジアラビアがその量を大幅に上回る独自の追加減産を発表した。年初から慌ただしい動きを見せる中東だが、2021年は安定化に向かうのだろうか。

イスラエルとアラブ諸国の接近

2020年の中東での大ニュースの1つはイスラエルとアラブ諸国の接近が顕在化したことであろう。イスラエルは、アラブ首長国連邦(UAE)(8月)をはじめ、バーレーン(9月)、スーダン(10月)、モロッコ(12月)と次々にアラブ諸国との国交正常化を発表した。

その背景には、親イスラエル政策を進めるトランプ米前政権の強力な後押しの下、イランの勢力拡大を懸念するイスラエル、イスラエルからの技術移転に期待を寄せるUAEやバーレーン、米国によるテロ支援国家リスト指定の解除を望むスーダン、西サハラ領有権問題への支援を期待するモロッコなど、各国の様々な思惑があった。

サウジアラビアは現状、イスラエルとの国交正常化を否定しているものの、イスラエル発着航空機の領空通過を事実上認めている。他にも、両国首脳が密談した可能性が報道されるなど、接近は周知のものとなっている。

現状、イスラエルと国交が回復した国々の間での貿易・投資の拡大についてデータでは確認できないが、例えばイスラエルとUAE双方の高官やメディアから、両国間貿易が3~5年で40億ドルに達するとの見通しが語られている(※1)。

実際、既に医療やAIをはじめとした分野で両国企業の提携が報道されているほか、12月には両国の輸出信用機関(ECA)が輸出振興協定を結んだ。

またUAE・イスラエル・ビジネス・カウンシルによれば、UAEと取引を行っているイスラエル企業は国交正常化前に250社程度であったが、2020年末までに500社に倍増したとされる。コロナ禍の影響でヒト・モノ・カネの移動に制約があるものの、2021年はイスラエルとアラブ諸国間での経済関係の緊密化による各国経済の押し上げに期待が高まっている。

カタール断交問題の解決へ

2017年6月から続いていたサウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプト(以下、中東4ヶ国)とカタールとの断交が終結したことも2021年の中東にとってポジティブに作用するだろう。

この問題に対してもトランプ前米政権が積極的な動きを見せていた中、2021年1月4日にサウジアラビアとカタールが陸海空の国境封鎖解除に合意したことが発表され、その翌日(1月5日)のGCC(湾岸協力理事会)首脳会議後に中東4ヶ国とカタールとの国交回復合意が発表された。

ただし、断交の原因となった諸々の対立点は解消しておらず、和解案なども不明なままであり、問題再燃の可能性はゼロではない。また、中東4ヶ国の間でも対カタール関係には温度差があるとされ、断交後に強まったカタールとトルコ、イラン(いずれも中東4ヶ国との関係は微妙)とのつながりも維持されるようだ。

したがって、直ちに断交以前の関係に回帰するとはみられていない。しかし、急減したカタールと中東4ヶ国との貿易・投資の回復が、コロナ禍で低迷した同地域の経済にとってプラスとなりうるであろう。

【図表1】カタールの輸出
出所:CEIC
【図表2】カタールの輸入
出所:CEIC

イランの動向とバイデン米新政権

イランと、対立するアラブ諸国やイスラエル、米国との関係は2021年も中東地域の最大の焦点の1つである。イラン核合意(JCPOA)離脱をはじめ、イランへの締め付けを強化してきたトランプ前米政権は、政権交代直前の1月13日にも対イラン制裁対象を追加するなど、最後まで強硬な姿勢を取り続けた。

一方バイデン米新政権下では、より柔軟な対イラン政策に転換されると見られている。外交関係閣僚には、オバマ政権下で国務副長官を担ったアントニー・ブリンケン氏が国務長官に、JCPOAで重要な役割を担ったジェイク・サリバン氏が国家安全保障大統領補佐官に起用されており、その陣容からもより対話的な対イラン政策が期待されている(※2)。

対するイランもバイデン米新政権との交渉を視野に入れているとされ、米国やイスラエルによる挑発に対しても、上述のウラン濃縮度引上げ作業再開のように「比較的」抑制した対応に留めている。もちろん、JCPOA復帰に対する米議会の反発の可能性や、トランプ前米政権が追加した多くの新たな対イラン制裁が存在するため、イランを取り巻く環境をすぐにトランプ前米政権発足以前の状態に戻すことは困難である。

加えて、イラン国内でも6月18日に大統領選挙が予定されており、国際協調路線を進めても景気回復を実現できなかった現政権への批判から、対外強硬派が優勢になるとの見方がある(※3)。

したがって、イランの大統領選挙の結果次第では、バイデン米新政権との交渉が難航する可能性があり、楽観してばかりもいられない。ただし、両国の現在の姿勢を踏まえると、トランプ前米政権下に比べて緊張が緩和すると見る向きが多い。

2021年、中東は安定化に向かうのか

米イラン関係の極度の緊迫化から始まった2020年に比べ、2021年の中東情勢は安定化に向けた滑り出しを始めたように見える。

とはいえ上記以外にも、2年間で4度目の総選挙を3月に控えるイスラエルの内政、エルドアン政権下で対外的に摩擦を生む政策を続けているトルコの動向、世界的に加速するグリーン政策の流れの中での原油・天然ガス需要の動向とそれに左右される産油国経済など、中東を不安定化させる懸念材料は多数存在している。

まずは当面の注目点であるバイデン米新政権の中東政策と、イランの大統領選挙の動向に留意しつつ、その他の中東諸国の動きにも注目していきたい。

(※1)イスラエルとアラブ諸国との直接貿易に関する数値は明らかになっていない。ただし、英国のシンクタンクの推計によると、イスラエルからGCC(サウジアラビア、UAE、バーレーン、オマーン、カタール、クウェート)への輸出額は第3国経由を含むと約10億ドル(2016年)との試算がある。

(※2)その他、2015年のイラン核合意時に国務長官であったジョン・ケリー氏が気候変動問題担当の大統領特使に、サリバン氏と共に核合意で重要な役割を担ったウィリアム・バーンズ元国務副長官がCIA長官として要職に起用されている。

(※3)イランの大統領選挙候補者は4月以降に確定する見込みであるが、強硬派としてライシ司法長官や、イラン革命防衛隊のサイード・ムハンマド氏などの出馬の可能性が指摘されている。

コラム執筆:常峰 健司/丸紅株式会社 丸紅経済研究所