感染拡大が止まらない新型コロナウイルス

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。世界保健機関(WHO)によると、2019年12月に中国湖北省武漢市で初症例が報告されてから2020年11月9日までに全世界で約5,000万人が感染した。2002~2003年に流行したSARSの感染者数と比べて6,000倍以上になる。

米国ではこのところ、1日当たりの新規感染者数がおよそ15万人で推移している。ニューヨーク州は、サンクスギビング(感謝祭)やクリスマス期間中の人の移動による感染拡大を抑える観点から、州外からの旅行者に新型コロナウイルス検査を義務付けるなど旅行規制を強化し、一旦緩めた規制の強化に転じている。

さらに、1日当たりの新規感染者数が30万人を超えた欧州では、ドイツが11月2日から1ヶ月間に及ぶ飲食店や映画館などの営業禁止に踏み切ったほか、フランスでは全土で外出制限が行われている。ベルギーでは11月2日からスーパーや薬局を除く全ての店舗が営業停止となった。

また、1日当たりの新規感染者数が9月以降減少傾向となっているインドでも、毎日数万人規模の新規感染者が出ている。

つまり、人類は現在も毎日新たに約60万人が新型コロナウイルスに感染しており、世界では感染拡大を抑えることのできない国々が移動制限など厳しい政策をとっている状況なのだ。

人の行動制限によって環境への負荷が低減

しかし、人類と感染症の戦いは今に始まったことではない。

例えば、14世紀に流行したペストのように、欧州人口の3~4割を死亡させたと推計されている感染症もある。東ヨーロッパにまで版図を広げたモンゴル帝国によって、ユーラシア大陸を横断する貿易が活発になり、ペストが流行したとされる。そして、ペストはクリミア半島を経由して地中海沿岸に広がり、その後ヨーロッパのほぼ全域に拡大した。

国内に感染症の病原体が侵入することを防ぐプロセスである「検疫」を意味する英語「Quarantine」は、イタリア語で「40」を意味する「Quarantena」に由来している。

これは、ペストが流行した際に、東方から来た船の船内に感染者がいないことを確認するため、ヴェネツィア共和国が疑わしい船を40日間隔離したからである。新型コロナウイルスの水際対策として、入国者を14日間待機させているのと同じやり方だ。

また、注目したいのは、ペストによって人口が減少し、農村が無人になり農耕地に森林が蘇ったとされていることである。バージニア大学のラディマン名誉教授は、「(ペストによって)人口が減り、森林面積が増加したために大気中の二酸化炭素が減少した」と主張している。

世界気象機関の専門家は、世界の多くの地域で実施されたロックダウンによって、2020年4月上旬の二酸化炭素排出量が前年比17%減少したと報告している。大気汚染が過酷だと言われる世界の都市でもPM2.5濃度が減少し、青空が戻った。つまり感染拡大防止のために人の行動が制限されたことによって、環境への負荷が低減したのである。

「人類が地球にとってのウイルス」という見方

現在、人類は新型コロナウイルスに対する免疫をどのようにして獲得するかということに躍起になっている。しかし、実は「人類が地球にとってのウイルスであり、活発に活動する人類に対して地球が獲得する免疫システムが感染症だ」という見方もあるかもしれない。

実際、地球の温暖化によって感染症の媒介動物の分布域が拡大する傾向や、高温化に伴って感染力が増大する傾向などが見られることも研究によって示唆されている。

従って、治療薬やワクチンの早急な開発が切に望まれるものの、「感染症を制圧できる」と考えるのではなく、「人類は地球上で活動させてもらっている」という前提で対策をとるべきではないだろうか。

人類が地球のウイルスだとするなら、宿主である地球との共存は最も重要である。長い年月をかけて作られてきた宿主との平和的な共存関係を壊さないよう、SDGsを含めたホリスティックな議論を尽くし、環境にやさしい諸施策を実行していくことも、感染症対策の1つだろう。

コラム執筆:重吉 玄徳/丸紅株式会社 丸紅経済研究所