クラウド事業で業績好調のマイクロソフト

前回の特別レポートでは、GAFA(グーグル:GOOGL、アップル:AAPL、フェイスブック:FB、アマゾン:AMZN)の決算について取り上げた。この4社にマイクロソフト(MSFT)を加えたハイテク5社の米国株式市場における存在感はかつてないほど強まっている。そしてこれからも成長し続ける可能性が高いと考えている。これらの中でも筆者は特にアマゾンとマイクロソフトの強さに注目しており、今回は前回の特別レポートで取り上げなかったマイクロソフトについて改めて掘り下げる。

S&P500の1%に過ぎない5銘柄が、時価総額では市場の20%を占めている。

【図表1】
出所:ゼロヘッジ

GAFAの決算発表に先立つこと、マイクロソフトが10月27日に発表した2021年第1四半期(2020年7-9月期)の業績は、売上高が12%増の372億ドル、純利益は30%増の139億ドルと過去最高となった。コロナ禍において世界的に在宅勤務が普及する中、クラウドのアジュールの売上高が5割近く伸びた他、ノートパソコン「Surface」やゲームの「Xbox」といったハードウェアの販売も2桁増となった。また、グループチャットアプリ「Teams(チームズ)」の新規ユーザー数も増え、4月時点では7500万人だったDAU(1日当たりのアクティブユーザー数)は1億1500万人となった。

【図表2】マイクロソフトの売上高と純利益の推移(単位:百万ドル)
出所:筆者作成

マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは自社サービスである「Teams(チームズ)」を使った会見の冒頭で、「コロナ禍のこの2ヶ月間で2年分のデジタル改革を目の当たりにした」と語った。一方、同社のエイミー・フッド最高財務責任者(CFO)は、ロイターのインタビューでアジュールの「力強い伸びが続く」との見通しを示したと言う。GAFA同様、業績は市場予想を上回る好調なものであったことを踏まえておきたい。

安定性を備えたメガグロースの優等生

前回の特別レポートでは、米国の巨大ハイテク企業を、世界最大規模の企業になってもトップラインが2桁で伸びていく「メガグロース株」であると指摘した。また、筆者がこれらのハイテク企業にこれからも期待している理由として次の3つあげた。
(1)巨大ハイテク企業の提供するサービスがデジタル社会のインフラになっていること
(2)世界的な低金利と低成長によって高成長企業の希少性が高まっていること
(3)潤沢な手元現金を持っていること

GAFAにマイクロソフトを加えたハイテク5社は潤沢なフリーキャッシュフロー(FCF)を持っている。

【図表3】FAAMGのFCF推移(単位:百万ドル)
出所:筆者作成
【図表4】マイクロソフト+GAFAの営業利益率の推移
出所 筆者作成

これら3つの強みはもちろんのこと、マイクロソフトは高い営業利益率という強みも備えている。例えば、フェイスブックの営業利益率はマイクロソフト以上に高いが、FCFの水準はマイクロソフトだけではなく、グーグルにも劣っている。一方、アップルのFCFは群を抜いて高水準であるが、営業利益に目を転じるとマイクロソフトとは10ポイント以上の差がある他、近年では低下傾向にある。マイクロソフトはFCFの水準も高く、営業利益率も上昇傾向にある。メガグロースの中でも財務的な指標が抜群に安定している。まさにメガグロースの優等生であると言える。マイクロソフトはどのようにそのポジションを築いてきたのだろうか。その背景にはマイクロソフトが経験してきた大きな挫折がある。

成功したハイテク企業は自己再生できないのか?

米司法省は10月、独占禁止法に違反したとしてグーグルの提訴に踏み切った。米司法省がIT企業を提訴するのは1974年のAT&T、1998年のマイクロソフト以来のことである。今回、米司法省の64ページに及ぶ訴状には、グーグル創業時の昔話から始まり、過去に対峙したマイクロソフトと今回の案件との類似性が指摘されていると言う。

20年以上前の、しかも和解に終わったマイクロソフトの案件を引き合いに出さざるを得なかったところに司法省の苦しい事情が伺える。しかし、マイクロソフトに関して言えば、2000年には連邦地裁から「分割すべき」との命令が下されるものの、連邦高裁がそれを差し戻し、2001年には司法省との和解が成立する。和解案が修正された後、2002年に連邦地裁が両者の和解案を承認。和解条項に基づき、定期的に連邦地裁に報告書を提出し、条項が失効して訴訟が正式に終結するのは2011年のこと。実に12年にわたる年月が費やされたのだ。

この裁判によって、マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツは早期退職を強いられた他、重要な経営資源を訴訟に割かざるを得なかったため、モバイルの分野への進出が遅れるなど、事業運営にも大きな打撃を与えることになった。2010年代、マイクロソフトは「ピークを過ぎた企業」だと見られていた。

古い記事になるが、WIRED誌の「甦る巨人:サティア・ナデラのMicrosoft」という記事にその経緯がつぶさに描かれている。この記事によると、転落の発端となったのは、競合他社との協力を拒み、ユーザーを自社製品に囲い込もうとしたドミナント戦略にあったとのこと。自社製品を使用しているユーザーの囲い込みだけではなく、イノベーションの多くがiOSやAndroidで起きているにもかかわらず、社員はマイクロソフトの製品を使い、マイクロソフト的なライフスタイルを送ることを求められたと言う。

しかし、消費者が求めていたのは、他のソフトウェア・エコシステムと連携できるデザインの優れたデバイスであり、そのエコシステムと関わりを持とうとしなかったマイクロソフトは、蚊帳の外に置かれた。その間に、コンピューター産業は大きな変化を迎えていた。処理機能はどんどんクラウド上へと移され、企業はソフトウェアを借りて使用するようになっていった。ユーザーの作業用デバイスはモバイルへとシフトし、アップルのiOSとグーグルのAndroidの独占状態が築かれた。ナデラ氏が好んで口にする「モバイルファースト、クラウドファースト」な世界において、当時マイクロソフトはモバイルで大コケし、クラウドに乗り遅れていたのだ。

2014年、ナデラ氏がマイクロソフトの3代目の社長に就任する。前任者のスティーヴ・バルマー氏は、マイクロソフトを「デバイスとサービスの企業」と定義していたが、ナデラ氏はその考えを捨て去り、それが競合他社によるものであろうとなかろうとあらゆるプラットフォームで事業を展開し、ユーザーの誰もがプロダクティブになれることをサポートする企業になることを打ち出した。

一度繁栄を極めた大企業の中には自身の成功にあぐらをかき、過去の成功体験にしがみつき、落ちぶれていくのを認められず、自己再生できないというケースがしばしば見られる。その事例を打ち破り、過去の挫折から甦ったことが他のハイテク企業にはない安定感をマイクロソフトにもたらしているのだろう。

マイクロソフトはロビー活動にも多額の支出を行っている。

【図表5】
出所:OpenSecrets.org

2019年11月、米国防総省(DoD)のクラウドプロジェクト「JEDI」(Joint Enterprise Defense Infrastructure)の契約をマイクロソフトが獲得したというニュースがあった。その背景にはアマゾンの「AWS」を退けての契約に、トランプ米大統領のアマゾン嫌い(アマゾンのジェフ・ベゾスCEOが買収した「ワシントン・ポスト」との関係が決して良好ではない)ことが挙げられていた。他にも、中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業の買収に関してもマイクロソフトの名前が挙がるなど、マイクロソフトは優等生として政府とも良好な関係を築いていることが伺える。 優等生であるマイクロソフトは、人工知能や量子コンピューティングなど、将来に向けた投資も怠っていない。過去の手痛い挫折から自己再生を果たしたマイクロソフトは、これからも他のハイテク企業には真似できないユニークなポジションを維持していくことを筆者は期待している。

石原順の注目5銘柄

GAFAにマイクロソフトを加えた5銘柄を紹介する。

マイクロソフト(ティッカー:MSFT)
出所:トレードステーション
アルファベット (ティッカー:GOOGL)
出所:トレードステーション
アップル(ティッカー:AAPL)
出所:トレードステーション
フェイスブック(ティッカー:FB)
出所:トレードステーション
アマゾン(ティッカー:AMZN)
出所:トレードステーション

日々の相場動向については、ブログ「石原順の日々の泡」を参照されたい。