選挙後に動き出した米ドル/円
注目された米大統領選挙が先週行われましたが、事前にもある程度予想されていたように、勝敗の決着はなかなかつかない状況が続きました。ただそういった中でも、米ドル/円は、3月のいわゆる「コロナ・ショック」における乱高下の後からサポートされてきた104円を大きく割り込んできました。これを90日MA(移動平均線)との関係で見ると、2%以上下回ってきたことになります(図表1参照)。
ところで、前回、2016年の米大統領選挙では、選挙後に米ドル/円が、今回とは方向は逆ながら、90日MAを2%以上上回ると、その後は基本的に2%を下回ることなく一段高に向かいました(図表2参照)。そして、実はそれは前々回、2012年の大統領選挙後にもおおむね該当したプライス・パターンだったのです(図表3参照)。
これまでも何度か述べてきたように、米大統領選挙年の米ドル/円は、選挙前まで小動きが続くものの、選挙前後からとたんに一方向への大相場に「豹変」するプライス・パターンが繰り返されてきました。
そのひとつの目安が、小動きが続く中で、過去3ヶ月の平均値である90日MAからのかい離率が±2%中心の小幅レンジでの推移が続くものの、選挙前後にそれを抜けた方向に大相場が展開したということでした。上述の、前回、前々回の米大統領選挙年の米ドル/円も、まったくそんなプライス・パターンだったわけです。
このようなプライス・パターンが繰り返されてきたことを、論理的に説明するのは困難です。むしろ「論理的には説明困難ながら、結果として繰り返されてきたパターン」を「アノマリー」と呼ぶので、これは米大統領選挙年の米ドル/円アノマリーと呼ぶべきでしょう。
さて、そんな「米大統領選挙アノマリー」からすると、今回まだ選挙の勝敗が未決着の段階でも、米ドル/円の90日MAからのかい離率が±2%のレンジを下抜けてきた動きは、選挙前の小動きから、米ドル/円一段安へ「豹変」が始まっている可能性として注目されるところでしょう。
「アノマリー」なら101円割れに向かう?
かりに、「米大統領選挙アノマリー」通りに、先週からの米ドル/円104円割れが米ドル一段安の始まりなら、そのターゲットはいくらなのか?
「米大統領選挙アノマリー」のもうひとつの特徴に、選挙後一方向へ大きく動き出した相場は、年初来の高安値のどちらかを年末までに更新するということがありました。それを参考にすると、この米ドル一段安は、3月の「コロナ・ショック」で記録した101円の米ドル安値更新に向かう動きの可能性があるでしょう。
少し余談になりますが、実はこの選挙後一方向に動き、年初来高安値を更新する「アノマリー」は、前回2016年には「未達」となりました。2016年は、大統領選挙前後で101円から118円まで米ドル/円急騰の「トランプ・ラリー」が起こったのですが、年初来米ドル高値更新には届きませんでした。
ただ、それにしても、ほんの1ヶ月余りで約17円もの米ドル急反騰は物凄い動きだったということで異論はないでしょう。これまでの米大統領選挙後の米ドル/円は、そんなふうにトレンドを伴った高いボラティリティーの展開を繰り返してきたのですが、では改めてそんな動きが今回も先週から始まっているのでしょうか。
株高から株安への転換はあるか?
少し気になるのは、米大統領選挙後に104円割れとなった動きは、株価が急反発する中で起こったということです。これについて、「最近は株高、リスクオンでは米ドルが売られるのが基本だから株高で米ドル/円下落になった」といった解説が一般的だったようです。
このような株高・米ドル安は、「コロナ後」確かに続いてきた流れでした。ただ、だからこそ、最近にかけての株高で、米ドルはかなり「売られ過ぎ」懸念が強まってきました(図表4参照)。それでもなお、株高、リスクオンで、米ドル売りが対円で年初来安値更新を目指す一段安をもたらすだけのエネルギーがあるのでしょうか。
過去の「アノマリー」通りに、米ドル/円が大統領選挙後に、今回の場合なら一段安の大相場となり、年初来安値101円更新に向かうなら、鍵は米国株中心に株高から株安に転換し、リスクオフで円買いが一段と拡大するかが目安なのではないでしょうか(図表5参照)。