前回の記事で、伊藤忠商事(8001)が当初、ファミリーマート(8028)に対し1株2,600円の公開買付価格を提案したものの、2,300円に最終決定したこともあり、アクティビストを中心に「買付価格が安い」と指摘されていることをご紹介いたしました。
しかし、8月24日付の日経ビジネス記事で、今回の公開買付が成立したことが報じられています。伊藤忠は8月25日に開示を出し、「公開買付結果は正式に公表しておらず、確定次第の本日(つまり8月25日)速やかに公表します」としています。現時点で数字などが確定はしていないものの、成立自体を否定していないことから、概ね成立するだけの応募があったものと思われます。
注目したい公開買付の条件
公開買付は、公開買付者が対象者の株式を買い付けるものです。公開買付は法令等で制度が決まっているため、公開買付者は買付にあたってその条件を設定する必要があります。主な条件は買付価格・買付株数・買付期間です。このうち、買付価格は同じ株式の場合は1つの価格とする必要があります。
買付価格を上げることは可能ですが、これも1つの公開買付の場合、すべての買付価格を上げる必要があります。基本的に買付価格を下げることはできません。今回の公開買付ではアクティビストが2,300円という公開買付価格を上げることを求めていましたが、公開買付が成立することになったため、2,300円のままになりそうです。
公開買付の条件で注目したいのは、買付株数です。公開買付者は買付株数の上限と下限を設定することができます。下限に達しない場合は1株も買い付けない、上限を超えた場合は上限の株数だけ抽選で買付を行う、などとすることが一般的です。今回、伊藤忠は買付株数の下限を約10%としました。伊藤忠はもともとファミマ株を50.1%保有しているため、約10%を合わせた60%の保有が下限ということになります。
完全子会社化に向けたシナリオ
今回、伊藤忠は公開買付後にファミマを完全子会社にする意向です。その場合、株主総会で特別決議が求められます。特別決議では株主総会で2/3の賛成が必要です。逆に言うと、残り1/3の株主が反対でも強制的に子会社化が行われてしまうのです。その場合の対価は公開買付価格と同じになることが一般的です。日経ビジネスの記事によれば、公開買付により伊藤忠は65%程度の株を保有することになるとのことです。2/3である、66.7%に近い水準で強制的な子会社化も実現しそうです。
しかし、もともと公開買付制度は、一つの買付者がまとまった株数を買い集める場合にすべての株主が平等に売却機会を得られることが目的の1つです。そのため、買付価格も一本にすることが求められているのです。今回の場合、伊藤忠以外の約50%を保有するファミマ株主は、そのうち10%を下限とする公開買付により、完全子会社化を進められてしまうわけです。
伊藤忠以外全体の1/5の公開買付応募をもって完全子会社化が進むことは前回の記事で紹介した公開買付価格の経緯も含めると、既存株主にとってやや割り切れない思いではないかと思います。伊藤忠以外の株主の多くはインデックスファンドなど公開買付に応募しないと見込まれる株主層が含まれています。10%の応募は「応募しうる株主の過半数の賛同」を示すものだとしていますが、一般株主にはその実態が分かりません。
公開買付価格が成立する場合、次は株主総会で完全子会社化が問われることになります。伊藤忠は65%程度の株を保有していることから、2/3の賛成のハードルは高くないように見えますが、少数株主の目線から賛成率をどこまで積み上げられるか注目したいところです。
※本記事では、公開買付者やファミマ株の保有者の伊藤忠関係者も総称して伊藤忠と記載しています。