今回は伊藤忠商事(8001)によるファミリーマート(8028)への公開買付について見ていきたいと思います。この公開買付における伊藤忠とファミマ間での交渉過程が具体的な提示価格も含めて開示されており、ファミマ投資家に限らず、個人投資家にとって大変興味深い内容のように思います。

商社が戦略的に小売店を狙うワケ

ファミマは、2009年にampmを買収し、2016年には大手の一角であったサークルKサンクスを合併しています。その結果、国内店舗数は16,600店となり、ローソンの14,400店を上回っています。チェーン全店売上高は3兆円あり、その全国店舗網を含めると小売店としての価値が非常に大きいのは想像ができるでしょう。

世界中から商品を仕入れることを得意とする総合商社は、このような小売店を手にすることを重視しており、三菱商事(8058)はローソン(2651)株を保有、かつてはショッピングモールを運営していました。住友商事(8053)は首都圏のスーパー「サミット」、ドラッグストア「トモズ」を展開しており、丸紅(8002)はダイエーとの連携を進めていました。そして、ファミマは伊藤忠が大株主となっています。

その伊藤忠がファミマに対して公開買付を発表したのは2020年7月のことでした。もともと伊藤忠は50.1%と過半数のファミマ株を有する株主です。今回の公開買付で全株式を購入し、完全子会社にしようという目論見です。完全子会社化したあとは、ファミマ株の一部をJA全農、農林中央金庫に売却し、それらと提携していくということで、戦略的に商社の資源とファミマのシナジーを活かそうとしているように見えます。

伊藤忠は、コンビニが国内小売業の主役ではあるものの、eコマースの拡大による物流費の上昇や競争激化、デフレや人手不足などもあり、その成長余地は小さくなってきています。さらに新型コロナウイルスの影響もあることから、変化が求められており、同社との連携がファミマにとって有効であると考えているようです。コンビニ業界の今後の成長が不透明であるのは分かりますが、殊更にこれらを強調することは以下の公開買付価格の議論につながると考えるのは穿ち過ぎではないでしょうか。

注目を集める公開買付価格

そういった戦略と別に、今回の公開買付ではファミマ株の公開買付価格が注目されています。伊藤忠の公開買付価格は2,300円でした。これは公開買付発表直前終値の1,754円を上回りますが、2019年末の2,625円を下回っており、2018年11月の5,000円近い株価からは半値の水準です。

ファミマの開示資料によれば伊藤忠はもともと3月2日に2,600円の公開買付価格を提案していました。しかし、コロナショックで株価が大きく下がったことを受け、3月28日に2,000円程度で再提示。ファミマ側はその市況での買付価格変更は承服できないとして交渉し、最終的な2,300円からも交渉を続けたいとしていましたが、伊藤忠は2,300円に最終決定したとのことです。

結果的にファミマはこの公開買付自体に賛同はするものの、価格は推奨できる水準ではないとし、応募は株主で判断してほしいという態度をとっています。ファミマは第三者に株価算定を依頼していますが、算定方式によっては、2,300円は下限にも達していないようです。

このような背景から、ファミマに投資するアクティビストは2,300円という公開買付を引き上げるように訴えています。日本企業への投資を続けているRMBキャピタルは公開買付価格を2,600円に戻すべきであるとしており、同じく日本での活動が目立つオアシスインベストメントも特別配当を求めています。特別配当を公開買付と別に実施するので、これは実質的な公開買付価格の上乗せ要求と言えるでしょう。

今回の公開買付は過半数の株式を保有する伊藤忠が行うため、ファミマとしては拒否しにくい案件です。それだけに買付者の伊藤忠、対象者のファミマはともに少数株主の利益に配慮すべきでしょう。

RMBキャピタルは「ファミマ経営陣の「賛同すれども推奨せず」といった玉虫色の意見表明は、取締役会としての経営責任を果たさず、少数株主を混乱させるだけであり、到底許されるものではない」としています。

公開買付の賛否判断は基本的には公開買付価格次第でしょうし、ファミマと伊藤忠の交渉経緯を考えるとRMBの主張は妥当だと言えるのでないでしょうか。日経平均で見ると、日本株は伊藤忠が2,600円の提案をひるがえした3月28日の水準はもちろん、2,600円を提案した3月2日の水準さえ1割程度上回っています。

伊藤忠は2018年にもファミマ株の公開買付を行っています。その際の買付理由も過半数の株式を保有することでシナジー効果を発揮することでした。今回、完全子会社化をしないとそれを十分に発揮できないという説明がなされていますが、それであれば、もともとシナジー効果を企図して投資している既存株主はその完全子会社化の効果をプレミアムとして享受すべきではないでしょうか。

過去にも親会社による子会社への公開買付で価格が妥当でないとされるケースがありました。そのために個人株主が裁判を起こしたような例もあります。今回、アクティビストが声をあげることで(もちろん、アクティビスト自体はもっぱら自らの利益目的と思いますが)、少数株主に目が向けられることは、個人投資家にとってもいいことだろうと思います。ぜひ、この公開買付の今後の展開にご注目ください。