前回コラムでは、2015年にバーバリーブランドを失い、売上が低迷、赤字に陥っている三陽商会(8011)に対して複数のアクティビストファンドが投資していることを説明しました。アパレル業界においては、過去に国内のアクティビストの草分けとも言える村上ファンドが東京スタイルや繊維会社などに投資をしていたこともあります。本業が趨勢的に不調に陥った会社に対してはアクティビストに限らず、再編を含む経営の変化を求める圧力が高まりやすいのです。

圧力により再編が進んだ百貨店業界

その典型的な例は百貨店業界でしょう。かつて「小売の王様」と呼ばれていた百貨店の三越がダイエーに小売業売上高トップを明け渡したのは1972年、実に50年近く前のことです。時代の変化とともに百貨店が不要になるという議論は長く続いています。それもあって、アクティビストを含め、百貨店株は再三、再編の狙いの対象とされてきました。

1980年代にはダイエーが高島屋(8233)株を取得し、業務提携を迫るようなことがありましたし、バブルの頃には不動産会社が伊勢丹や松坂屋の株式を買い進める動きがありました。村上ファンドも阪神電鉄株式と並行して阪神百貨店株式を買い進めていましたし、松坂屋にも投資していました。

2006年にはセブン&アイ(3382)が当時再建中だったそごうと西武百貨店を買収。その後も、2007年に大丸と松坂屋がJフロントリテイリング(3086)を、阪急百貨店と阪神百貨店がエイチツーオーリテイリング(8242)を、2008年には三越と伊勢丹が三越伊勢丹ホールディングス(3099)を設立するなど、百貨店業界は一機に再編が進みました。高島屋もエイチツーオーリテイリングと統合する話が進んでいました。

投資家が注目する業績低迷企業の優良資産

これら百貨店に様々な投資家が注目してきたのは、本業が不振で株価が低迷する一方、優良な資産を持っているからです。典型的なのは一等地の不動産ですが、各社のブランド力や顧客、仕入れルート、人材など無形資産も評価されているところがあるでしょう。実際に上記各社は統合後も元の百貨店の商号には手をつけていません。

三陽商会を含めたアパレル企業も同様に、不動産資産に加え、ブランド力やアパレルのノウハウなどを有しています。旧来のアパレル企業の多くが厳しい状況にありますが、ファーストリテイリング(9983)を見れば分かるように、衣類のビジネス自体がなくなっているわけでもないのです。

三陽商会は今後、再建なるか

三陽商会は2020年5月の株主総会で、アクティビストのRMBキャピタルから株主提案を受けていました。RMBが出した株主提案は取締役の選任です。RMBが提案した7名は会社提案の9名のうち、直近で三陽商会に入社した1名しか重なっておらず、三陽商会の経営を抜本的に変えることを意図していたものでした。

報道によれば、RMBは三陽商会に対して身売りを提案していたとのことで、取締役会メンバーを変えた上で、三陽商会に出資している三井物産(8031)や英バーバリー、その他の大手アパレルに身売りを求めようとしていたようです。資産売却や事業計画ではなく、抜本的に経営の在り方を変える必要があると判断したのでしょう。少なくともそれらの身売り先候補が三陽商会をその時点での評価よりも高く買い取る見通しを持っていたのだろうと思われます。

しかし、2020年5月の株主総会で、RMB側の株主提案は否決され、三陽商会の身売りはひとまずなくなりました。なお、三陽商会株はRMBの株主提案を開示した4月23日の880円から7月30日には588円と30%以上下落しています。株主総会後、RMB側の株主提案にも入っていた取締役が社長に就任しました。新社長は三陽商会に出資している三井物産(8031)の出身で、前職のアパレル会社を再建したことで評価されています。ひとまず新社長も自主再建の道を選んだ三陽商会ですが、今後再建が進むかどうか注目されます。