株式市場は高値圏で一進一退の攻防が続いています。新型コロナウイルス第2波が懸念される一方で、様々な経済活動が再開されてきたこともあり、株価面でも一方向には動きがたい状況になってきたということなのでしょう。
しかし、社会行動様式の変化は着実に市場に織り込まれてきており、業種・銘柄によってかなり明暗がくっきりと分かれてきたのも確かです。筆者は、全体的には方向感のない状況が続くものの、業種間格差・銘柄間格差はさらに広がるという見方を継続したいと考えています。
異業種他社のチェックポイントを「会社四季報 最新版」で確認
さて、今回は前々回のコラムに立ち返り、「異業種他社比較」について再び考えてみたいと思います。まずは前々回のコラムで提示した数字面でのチェックポイントについて、最近発刊された会社四季報の最新版(2020年夏号)を用いてアップデートしておきましょう。
前々回のコラムでは、高い収益力を誇る電子部品大手のキーエンスと国内百貨店の雄とも言われる三越伊勢丹ホールディングス(HD)の2社を比較しました。
まず、会社四季報最新版で両社のPER(株価収益率)のバリュエーションを見ると、キーエンスの今期予想PERは57倍、三越伊勢丹HDの今期予想PERも56倍となっています。前号ではキーエンスの方が高めだったのですが、直近では両社の差がほとんどなくなっていることが確認できます。
次いで、決算実績を織り込んだ直近3期の年平均経常利益成長率は、三越伊勢丹HDが14.9%のマイナス成長、キーエンスは3.2%のマイナス成長となっています。やはりコロナ禍によって、成長ピッチは前号の見通しよりも急ブレーキとなりました。
さらに今期に関しては、キーエンスがほぼ横ばい、三越伊勢丹HDは54%の減益に。来期においては今期見通しを基準にキーエンスが15%増益、三越伊勢丹HDは今期の落ち込みの反動もあって56%増益と予想されています。なお、本原稿執筆時点では両社とも今期の業績見通しを開示していないので、あくまで会社四季報上での見通しということになります。
このような業績動向を見る限り、来期の回復力では三越伊勢丹HDに分があるものの、数年単位で平均してみた利益成長率においては、キーエンスの方が相対的に堅調な推移予想にあることがわかります。
株式市場と会社四季報の業績見通しの違い
依然として不透明感の残る今期の状況を見ても、コロナ禍という逆風に対する抵抗力はキーエンスに底堅さがあると言えるでしょう。(とすれば、キーエンスのPERの方が高くなってよいの)にもかかわらず、現時点でのバリュエーション(PER)が同水準ということは、株式市場は会社四季報によるキーエンスの業績見通しが楽観的過ぎる(あるいは、三越伊勢丹HDの業績見通しが保守的過ぎる)と見ているのかもしれません。
どこまでが会社四季報の業績見通しに織り込まれているかはわかりませんが、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスによる感染が鎮静化してきたとはまだ言いがたい一方で、日本では1人当たり10万円支給される特別定額給付金が冷え込んでいた個人消費を喚起させているとの報道もあります。
とすれば、会社四季報の業績見通しに修正が早晩入るだろうと株式市場が見ていると考えても不自然ではないでしょう。こういったアプローチを通して株式市場の見方を分析することができれば、後はそれに対して「投資家自身がどう思うか」で投資判断を下すことができるはずです。異業種銘柄の比較においても何となく比較するのではなく、こういった考え方で判断基準をクリアにすることが可能であることをわかっていただけるかと思います。
ただし、この2社の比較においてはもう一つ、確認しておかなければならないバリュエーションがあります。それはPBR(純資産倍率)です。キーエンスのPBRは6.4倍であるのに対し、三越伊勢丹HDのPBRは0.5倍と、時価総額が純資産額を大きく割り込んでいます。(「解散価値以下」という言い方もできます)
様々な視点から数字を確認することが重要
前段ではPERが同水準にあるため、何かしら業績面で株式市場が会社四季報と違う見方をしている可能性を論じました。しかし、三越伊勢丹HDに関しては既に株価は理論上の下落余地がない状況になったため、必然的にそれが強力な下値抵抗線となり、結果的にPERが高止まりしたという可能性もまた否めないのです。