レンジを破れず、トレンドのない相場

トランプ米大統領が誕生した2016年11月、米ドル/円相場は101円で、そこからわずか2ヶ月で118円まで一気に約16円も駆け上がりました。しかしその後の4年間、米ドル/円相場は105円近辺から115円近辺の10円幅のレンジの中での推移が長期化している状況となっておりました。

そうした中で、2020年3月、コロナショックと呼ばれる金融市場の混乱時に、米ドル/円相場は112円近辺から101円台まで一気に10円超の円高となりました。これも過去4年のレンジ上下限をわずか1ヶ月でこなしたという驚きはあるもののレンジを破るものではなく、トレンドのない相場へと戻ってしまっています。

米ドル/円相場に新たなトレンドが生まれるとしたら円安、円高どちらの方向に分があるのでしょうか。

米ドル/円下落:ドル安・円高となる材料

FRBによるバランシート拡大と巨額の財政支出

コロナ禍でFRB(米連邦準備制度理事会)は政策金利をあっという間にゼロに引き下げてしまいました。市場の一部にはマイナス金利導入の観測も出てきています(トランプ米大統領もマイナス金利を求めるTweetをしています)。

高金利通貨であった米ドルの魅力が失われただけでなく、大規模な金融緩和策によってFRBのバランスシートは7兆ドルを超える前代未聞の水準へ陥っています。簡単に言えばドルのバラマキ政策によって、危機の連鎖を止血したのです。

まだ新型コロナウイルス問題は終息しておらず、ドル不足への不安も完全に解消されていないことから、急激なドル安とはなっていないものの、危機が去った後は溢れるドルの価値は低下するだろうという見方が広がりつつあります。

また、トランプ米政権による大規模な財政刺激策と比べると日本の財政政策は見劣りすることから、日本がデフレ方向に動くとの見方もあります。デフレ下にある通貨は高いというセオリ―から考えると円高圧力が強まるとみることもできます。

原油安による貿易赤字縮小

4月にWTI原油が貯蔵スペースの限界が近いとしてマイナス40ドルを示現したことは記憶に新しいです。現在30ドル台で推移しているWTI原油価格は、2014年に急落するまでは80ドルから110ドル台で推移しており、近年かなり安価となっているように感じられます。資源のない日本はエネルギーを輸入に頼らざるを得ないため原油価格の変動は経済に大きな影響をもたらします。

実は、アベノミクス・黒田バズーカと呼ばれた2012年からの米ドル/円の上昇は、100ドル近辺で推移していた原油の輸入により、日本の貿易赤字が10兆円にも上っていたことが背景にあるとの指摘もあります。

原油を購入するための円からドルへの通貨の交換が膨大であった、ということですね。これが現在ではWTI原油が30ドル台にまで下落しており、貿易赤字の縮小はドル買いを縮小させるため、円安となる要因が1つ減っていると考えられます。

※2012年からの米ドル/円上昇=80円近辺から2015年の125円まで45円上昇

米ドル/円上昇:ドル高・円安となる材料

GPIFの5ヶ年中期計画のアロケーション変更

GPIFとは日本の年金積立金管理運用独立行政法人のことです。運用される基金の規模は2019年末で169兆円にも上ります。言わずもがな世界最大規模の年金基金であり、この資金動向による市場の影響は小さくありません。

GPIFは2020年4月から新5ヶ年中期計画によってアロケーションの変更に着手しています。
これまで円債35% 日本株25% 外債15% 外株25%だったバランスを
4月から円債25% 日本株25% 外債25% 外株25%に変更しました。

円債の比率が10%減り、外債比率が10%増えました。169兆円の10%となると概算で17兆円です。5ヶ年計画ですので、一気に17兆円が動くわけではありませんが、2020年4月から、月初の3~4営業日に米ドル/円相場が上昇するパターンがみられるのはGPIFのオペレーションによるものだという指摘もあります。また節目節目で下値が固いレンジが形成されるパターンが確認できるのも、GPIFによる買いオーダーが支えているとみられます。

債券バブルの崩壊で長期金利底入れか

コロナ禍でのリスク回避時には米長期債利回りは0.3%にまで低下しました。利回りが低下するということは債券価格が上昇しているということです。リスクを避けようとする動きが強まると債券市場に資金が流入し、利回りは低下してしまうのです。

しかし、3月に株式市場が底入れし大きく上昇する中で、長期債利回りもジワリ上昇を始めました。4月以降0.7%台でウロウロしていましたが6月に入ってレンジをブレイク、一気に0.9%台へと上昇しています。これがトレンドとなるなら、米金利上昇でドル高基調となることも考えられます。