コロナ禍の勝ち組セクターと負け組セクター

新型コロナウィルスの感染拡大によって、人との付き合い方や働き方に大きな変化が起きている。「Stay home」によって外出や移動が制限され、「Work from home」で通勤をせずに自宅から仕事をする人が増えている。こうした変化を株式市場も反映し、各企業、各セクターの株価に強弱が表れている。経済は人や物が動くことによって成り立つが、パンデミックによって人の動きが遮断されれば、航空会社や鉄道会社、またショッピングセンターやアパレルなど、多くのセクターへの打撃は避けられないだろう。

米国では航空会社が政府に対して支援を要請している他、JPペニーやニーマンマーカスといった百貨店が日本の民事再生法に相当するチャプター11を申請した。日本においては、親会社である中国企業との関係がこじれたという特殊事情もあるが、老舗アパレルのレナウンが経営破たんに追い込まれた。

一方で、こうした傾向が社会の新しい常識となれば、ハイテクやヘルスケアを中心に特定のセクターは恩恵を受ける。今回のパンデミックは本格的なデジタル社会への移行を後押しするきっかけにもなったと言えよう。また、ワクチン開発をめぐって一部ヘルスケア企業の株価が大きく上昇している。

【図表1】S&P500とセクターパフォーマンスの比較(2020年5月22日現在)
出所:barchart.com

上記はS&P500指数と各セクターの1年間のパフォーマンスを比較したものである。5月22日時点でS&P500指数を上回るパフォーマンスとなっているのが、情報技術、ヘルスケア、コミュニケーションサービス、一般消費財の4業種、いずれもコロナ禍における勝ち組セクターである。その一方で指数をわずかに下回っているのが、生活必需品と素材。公益事業、不動産、資本財、金融、エネルギーの7業種は指数をアンダーパフォームしている。

指数を大きく上回っている情報技術セクターでは、マイクロソフト(MSFT)、アップル(AAPL)、アマゾン(AMZN)、アルファベット(GOOGL)、フェイスブック(FB)の5銘柄へ資金が集中しているのが大きな特徴である。S&P500の銘柄数に対してわずか1%に過ぎない5社の時価総額が市場全体の22%を占めている。この水準は2000年を上回りかつてないところまで高まっている。

【図表2】S&P500の銘柄数1%に過ぎない5銘柄が、時価総額では市場の20%を占めている
出所:ゼロヘッジ

働き方を大きく変えたパンデミックと関連銘柄

ウェブ会議システムを提供するズーム・ビデオ・コミュニケーションズ(ZM)は今回の変化から恩恵を受ける顕著な一例であろう。ズームの株価は大きく上昇し、1社の時価総額だけでサウスウェスト航空(LUV)、デルタ航空(DAL)、ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングス(UAL)、アメリカン航空グループ(AAL)の4社合計を上回っている。

2019年の売上が6億ドルに過ぎなかった企業の時価総額が480億ドルに膨らんでいる。ズームに関してはセキュリティに対する懸念はありつつも、今期も増収が見込まれており、会社側は2021年度通期について、売上高が9億500万〜9億1500万ドルと、前期比4割ほどの増加を見込んでいる。ズームのウェブ会議システムの特徴は、使いやすいインターフェイスとユーザーエクスペリエンスにあると言う。

また、一度に最大100人の参加者をサポートする機能も備えている。さらに、CEOのエリック・ユアンはこのプラットフォームを幼稚園から中学校に無料で提供し、オンライン学習に使用する教育者の間で爆発的に伸びた。ズームのデイリーユーザー数は過去数ヶ月で急増しており、2019年12月の1000万人程度から2020年4月時点で3億人に増加した。

【図表3】ズームの時価総額は航空会社4社合計の時価総額を上回っている
出所:筆者作成

一方で、航空会社の衰退は避けられそうもない。世界的に渡航制限がしかれたことによって、航空業界は前例のない需要の急落に苦しんでいる。航空会社の収益は大幅に落ち込み、各社は便数を減らしたり、役員報酬を押さえたりして、なんとかこの苦難を切耐え忍ぼうとしている。

コロナ以前のように人々が飛行機に乗るようになるかは依然として疑問である。すでにご存知のようにウォーレン・バフェットは保有する航空会社株の全てを手放した。バフェットは「世界が航空会社にとって変わってしまった。将来、どのように航空会社のビジネスが変わるのかわからない。」と語った。世界の多くの地域が経済活動の再開に取り組み始めると、徐々にではあろうが顧客が戻ってくることが期待できる。しかし、その回復の道のりは緩慢で長い時間を要するだろう。
 

ゴールドマンによる決算発表から読み取れる、今後の4大テーマとトレンド

米国でも決算発表が一巡し、ここからは経済の再開へ向けた動きがどうなっていくのかが相場の材料になる。ゴールドマンサックス証券はS&P500企業の決算報告をベースに四半期ごとの傾向やテーマなどをまとめたレポートを公表している。それによると今回の決算発表から読み取れる傾向がいくつかあったと言う。

ゼロヘッジの記事「The Top 4 Themes And Trends From Q1 Earnings Conference Calls(第一四半期決算からの4大テーマとトレンド)」にまとめられていたので、抜粋してご紹介していこう。

傾向としては、第一に、S&P500を構成する企業は大型企業に偏っているため、景気循環にあまり影響を受けておらず、実際の経済の動きとはかい離していると言う。一方で、バランスシートの健全性に劣る中小企業に深刻な影響を与えているようだ。

消費は米国経済の7割を占める重要なドライバーであるが、対面型のビジネスが制限されていることによって、売上の減少に直面している。ところが、オンラインプラットフォームによってもたらされたビジネスモデルの変化が対面消費の減少分を埋め合わせている。例えば、ターゲット(TGT)は4月中旬までのデジタル売上が3倍近くに膨らんだ他、ベスト・バイ(BBY)は、米国内の全ての店舗を閉鎖した一方、店頭での商品引き取り販売を強化することで売上の70%を維持した。

しかし、事業活動の維持または再開に伴うコストの増加は、企業にとっては利益率を圧迫する要因となっている。オンラインでの販売が絶好調と思われているアマゾン(AMZN)でさえ、労働者の安全対策、ウイルス検査、人件費の増加など、関連する追加費用が40億ドル発生した。

こうした傾向が見られる中、ゴールドマンが決算を通じてピックアップした4つのテーマがある。

【1】「ビジネス見通し(不確実性、収益ガイダンスの撤回、V字回復よりはU字またはL字回復)」

【2】「収益モデルの変化の加速(デジタル化、Direct To Customer、自動化推進)」

【3】「企業運営と労働力の変化(Work From Home、人件費の削減)」

【4】「現金の使用の優先順位(流動性確保優先、自社株買いと配当の停止)」

順に見ていこう。なお、それぞれのテーマとともに取り上げられていた銘柄については一覧にして最後に添付させて頂いた。ご参考にされたい。

テーマ【1】:「ビジネス見通し(不確実性、収益ガイダンスの撤回、V字回復よりはU字またはL字回復)」

決算発表において、経営者の多くは、回復への道のりについての不確実性を強調した。在宅勤務の義務化が継続し、事業が閉鎖され、および社会的距離を図る中で、約180社が今期の収益見通しを示さなかった。2020年のS&P 500のEPSボトムアップコンセンサスの見積もりは、今年の初めから27%引き下げられた。

全般的に、経営者は2020年の第2四半期に活動が落ち込むと予測したが、企業はパンデミックの経済的影響がどのくらい続くかについて、さまざまな見方をしていた。V字型のリバウンドを示したのは数社に止まった一方、ほとんどの企業はU字型またはL字型の回復を予想した。

当然のことながら、旅行業界や対面でのやり取りを必要とする企業は、ビジネス活動が正常に戻るまでにより長い期間がかかると示した。対照的に、建設、ビジネス用品、データセンターなどの市場セグメントの企業は、より速い正常化を見込んでいる。

テーマ【2】:「収益モデルの変化の加速(デジタル化、Direct To Customer、自動化推進)」

在宅勤務とビジネスの閉鎖を受けて、オンラインに対する需要が急増していることが強調された。デジタルを活用することによって人が移動しない、そして接触しない環境の中で、消費者は行動を変化させることを余儀なくされる。デジタル化を加速させた一環として、レストランではオンラインの注文と有料サービスを追加し、小売業者はデジタルマーケティングと電子商取引に目を向け、医療サービスでは遠隔医療に転換した。

また、経営陣はオペレーションとサプライチェーンの自動化に積極的に取り組んだとも述べた。自動化技術は、運用コストを恒久的に削減するための長期的な戦略として挙げられた。施設内の人員削減とソーシャル・ディスタンス対策により、企業からの業務効率を維持または向上させるための自動化需要はさらに高まっている。

テーマ【3】:「企業運営と労働力の変化(Work From Home、人件費の削減)」

経済・健康危機の中で、多くの企業は一時解雇、賃金削減などを通じて人件費を削減した。人件費に関する対策はあらゆる産業に広範囲に及んだ。4月だけでも2,050万人の雇用が失われ、米国の失業率は14.7%に急上昇した。多くの企業は、人件費に関する対策は一時的なものであると示し、現時点では失業の経済的影響は限定的である可能性を示唆している。

一方、リモートワークを実施できる企業はそれを取り入れたが、その結果はまちまちであった。リモートワークによって効率が改善されたとする企業は、従業員がリモートで長期的に働き続けるのは可能だとしたが、一部の企業は生産性の低下と運用上の課題に関して課題を指摘した。また、従業員が現場で働き続けている企業は、従業員の安全確保に伴う追加コストを負担した。

テーマ【4】:「現金の使用の優先順位(流動性確保優先、自社株買いと配当の停止)」

不確実性の高まりにより、経営者たちは流動性とバランスシートの強さを優先し、企業は設備投資、自社株買い、配当を減らした。しかし、配当金を支払うことにコミットし、株主への配当金支払いの重要性と、配当金の支払いの実績を長く維持することが最優先だと強調した企業も多かった。

【図表4】自社株買いや配当の取りやめを検討している企業の数は2019年の21社に対してこの第一四半期で164社に上った
出所:ゼロヘッジ

なお、ゴールドマンによると、2020年にS&P 500社の自社株買いは50%減少、配当金は25%減少すると予測している。

石原順の注目5銘柄

アマゾン(AMZN)
出所:トレードステーション
マイクロソフト(MSFT)
出所:トレードステーション
ズーム (ZM)
出所:トレードステーション
アクセンチュア(ACN)
出所:トレードステーション
サービスナウ(NOW)
出所:トレードステーション

参考資料:ゴールドマンの4つのテーマとその関連銘柄

ビジネス見通し

財務ガイダンスに関する不確実性

 

アカマイ・テクノロジーズ

AKAM

IT・通信

シーエムエス・エナジー

CMS

公益事業

フェイスブック

FB

サービス業

カンザスシティー・サザン

KSU

工業

モンデリーズ・インターナショナル

MDLZ

一般消費財

スリーエム

MMM

医療関連

パッケージング・コーポレーション・オブ・アメリカ

PKG

工業

 

2Qの落ち込み予想

 

アーチャーダニエルズ・ミッドランド

ADM

一般消費財

アムジェン

AMGN

医療関連

アプティブ

APTV

一般消費財

デュポン

DD

原材料・素材

ヒルトン・ワールドワイド・ホールディングス

HLT

サービス

ジョンソン・エンド・ジョンソン

JNJ

医療関連

レイドス・ホールディングス

LDOS

IT・通信

ニューモント

NEM

原材料・素材

リジェネロン・ファーマシューティカルズ

REGN

医療関連

V字回復よりU字またはL字回復予想

アッヴィ

ABBV

医療関連

アボット・ラボラトリーズ

ABT

医療関連

オートマチック・データ・プロセシング

ADP

IT・通信

セラニーズ

CE

原材料・素材

エコラブ

ECL

原材料・素材

エマーソン・エレクトリック

EMR

工業

ハンチントン・バンクシェアーズ

HBAN

金融

アイデックス・ラボラトリーズ

IDXX

医療関連

ピーエヌシー・フィナンシャル・サービシズ・グループ

PNC

金融

ピーピージー・インダストリーズ

PPG

原材料・素材

リジョンズ・フィナンシャル

RF

金融

ワールプール

WHR

一般消費財

ウェアーハウザー

WY

金融

 

中国回復に懐疑的

アンフェノール

APH

工業

イートン

ETN

工業

アイデックス

IEX

工業

ゾエティス

ZTS

医療関連

まだら模様ではあるが楽観できるところ

アメリカン・エキスプレス

AXP

金融

バンク・オブ・アメリカ

BAC

金融

フォックス

FOXA

サービス

アイキューヴィア・ホールディングス

IQV

医療関連

ビザ

V

工業

 

収益モデルの変化

デジタル化

アクセンチュア

ACN

工業

アカマイ・テクノロジーズ

AKAM

IT・通信

アンセム

ANTM

医療関連

AOスミス

AOS

一般消費財

シティグループ

C

金融

CDW

CDW

IT・通信

チャーチ・アンド・トワイト

CHD

一般消費財

チャーター・コミュニケーションズ

CHTR

サービス

コムキャスト

CMCSA

サービス

チポトレ・メキシカン・グリル

CMG

サービス

CVSヘルス

CVS

医療関連

エスティ・ローダー

EL

一般消費財

フェイスブック

FB

サービス

ゼネラル・エレクトリック

GE

工業

ゼネラル・モーターズ

GM

一般消費財

アルファベット

GOOGL

IT・通信

ジェニュイン・パーツ

GPC

一般消費財

ヘインズブランズ

HBI

一般消費財

ハーシー

HSY

一般消費財

インターコンチネンタル・エクスチェンジ

ICE

金融

キーコープ

KEY

金融

コカコーラ

KO

一般消費財

レナー

LEN

サービス

マスターカード

MA

工業

MGMリゾーツ・インターナショナル

MGM

サービス

ナイキ

NKE

一般消費財

サービスナウ

NOW

IT・通信

トラクター・サプライ

TSCO

サービス

ユナイテッド・パーセル・サービス

UPS

工業

ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス

WBA

サービス

ウエストロック

WRK

原材料・素材

 

Direct To Customer(直販)

アフラック

AFL

金融

チャーター・コミュニケーションズ

CHTR

サービス

コルゲート・パルモリーブ

CL

一般消費財

デューク・リアルティ

DRE

金融

ガーミン

GRMN

一般消費財

レゲット・アンド・プラット

LEG

一般消費財

マコーミック

MKC

一般消費財

ワールプール

WHR

一般消費財

自動化

アメテック

AME

工業

オキシデンタル・ペトロリウム

OXY

エネルギー

シードル・エア

SEE

原材料・素材

シュルンベルジュ

SLB

エネルギー

TEコネクティビティ

TEL

工業

ザイレム

XYL

工業

ヤム・ブランズ

YUM

サービス

ゼブラ・テクノロジーズ

ZBRA

IT・通信

 

変化する労働力

リモート・ワーク

アメリカン・エレクトリック・パワー

AEP

公益事業

エアープロダクツ・アンド・ケミカルズ

APD

原材料・素材

アプティブ

APTV

一般消費財

ケイデンス・デザイン・システムズ

CDNS

IT・通信

キャピタル・ワン・ファイナンシャル

COF

金融

シトリックス・システムズ

CTXS

IT・通信

グローバル・ペイメンツ

GPN

工業

HCAヘルスケア

HCA

医療関連

L3ハリス・テクノロジーズ

LHX

工業

ニューモント

NEM

原材料・素材

オムニコ・グループ

OMC

サービス

SLグリーン・リアルティ

SLG

金融

S&Pグローバル

SPGI

金融

ベリスク・アナリティックス

VRSK

工業

 

人件費削減

ボルグワーナー

BWA

一般消費財

キャタピラー

CAT

工業

CHロビンソン・ワールドワイド

CHRW

工業

エマソン・エレクトリック

EMR

工業

ロウズ・コープ

L

金融

ラボラトリー・コーポレイション

LH

医療関連

LKQ

LKQ

一般消費財

MGMリゾーツ・インターナショナル

MGM

サービス

ニューウェル・ブランズ

NWL

一般消費財

トランスダイムグループ

TDG

工業

 

COVID-19関連の従業員人件費増加

アシュラント

AIZ

金融

CVSヘルス

CVS

医療関連

シンクロニー・フィナンシャル

SYF

金融

タイゾン・フーズ

TSN

一般消費財

ヤム・ブランズ

YUM

サービス

 

現金支出の優先順位

流動性

アメリカン・インターナショナル・グループ

AIG

金融

ボーイング

BA

工業

CDW

CDW

IT・通信

デボン・エナジー

DVN

エネルギー

ヘンリーシャイン

HSIC

医療関連

モンデレイズ・インターナショナル

MDLZ

一般消費財

スタンレー・ブラック・アンド・デッカー

SWK

工業

ワブテック

WAB

工業

 

注意喚起

CHロビンソン・ワールドワイド

CHRW

工業

インベスコ

IVZ

金融

ムーディーズ

MCO

工業

ノーザン・トラスト

NTRS

金融

 

配当金へのコミットメント

キャタピラー

CAT

工業

イートン

ETN

工業

ダイヤモンドバック・エナジー

FANG

エネルギー

FLIRシステムズ

FLIR

IT・通信

カンザスシティー・サザン

KSU

工業

パブリック・サービス・エンタープライズ・グループ

PEG

公益事業

プロクター・アンド・ギャンブル

PG

一般消費財

トラベラーズ

TRV

金融

ウェイスト・マネジメント

WM

工業

 

M&Aの機会

バクスター・インターナショナル

BAX

医療関連

サーナー

CERN

IT・通信

ジャック・ヘンリー・アンド・アソシエーツ

JKHY

IT・通信

ラスベガス・サンズ

LVS

サービス

ストライカー

SYK

医療関連

ゼロックス

XRX

IT・通信

 

日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。