日経電子版(1月28日付 「DeepSeek「パニック大げさ」「AI普及に扉」米金融市場」)の記事で米調査会社バーンスタインの半導体アナリスト、ステイシー・ラスゴン氏が、DeepSeekが引き起こしたパニックは大げさにみえると述べていた。まったく同感である。

ラスゴン氏は「ディープシークのモデルはよくできているようにみえるが、奇跡的とは考えていない」という。

僕は技術者ではないので専門的なことはもちろんわからない。しかし、普遍的なことは理解しているつもりだ。それは、どんな技術も、それが世の中に必要とされるものであるならば、必ず模倣され、より低コストで、より効率のよいものに取って代わられる宿命にあるということだ。

IBMのスーパーコンピューター「ディープ・ブルー(Deep Blue)」がチェスの世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフを破ったのが1997年である。その後、AIは将棋でも名人を破り、DeepMindの開発した囲碁AI「Alpha Go」は囲碁の世界チャンピオンにも勝利した。

それでは「Alpha Go」が最強か、といえばそうではない。たしかに人間界にはもはや敵はいない。しかし、AIはAIに負けるのだ。「Alpha Go」の改良版、「AlphaGo Zero」は自分自身で学習することにより、以前の「Alpha Go」のすべてのバージョンを打ち破った。それが科学誌Natureに発表されたのが2017年のことである。

驚くことに「AlphaGo Zero」は人間の対局からのデータを使わずに作られたものであるということだ。開発者たちは、人間の熟練者から得られたデータは高価で、信頼性が低く、あるいは単に利用ができないため、こういったデータセットなしでの開発に臨んだという。

DeepMindの共同創立者でCEOのデミス・ハサビスは、AlphaGo Zeroは人間の知識の限界によって制約されなかったため非常に強力だ、と述べた。Natureで発表された論文の筆頭著者の一人であるデビッド・シルバーは、人間からの学習の必要性を取り除くことによって、汎用AIアルゴリズムを得ることが可能である、と述べている。

つまり、AIは自身が有する特徴である機械学習、深層学習によって驚異的な進化を遂げるものであるということは、すでに自明であったことなのだ。

だから、DeepSeekのようなものが出てくるのは、まったく不思議ではない。今後も第二、第三のDeepSeekが出てくるだろう。そうやってAIの普及がさらに加速し、有益な社会インフラとして定着していくのだろう。

テクノロジーはさらに進化をする。AIも発展し普及していく。それに伴う半導体などの産業が成長するのも間違いないだろう。ただし、株価に過度な成長期待が織り込まれていたとするならば、それは修正される局面がくるだろう。

「発展し普及する」というのは、言葉を替えれば「普通のものになる」ということだ。それは、特別なものではない、ということだ。