コロナ禍から脱却ムードの中国、足元の経済成長には心もとない部分も

中国では、新型コロナウイルス感染症の流行を抑え込むことに成功したとの認識が広がっている。5月1日から始まったメーデーを挟んだ5連休の間には慎重な行動が求められていたが、政府の宣伝に反し、自分の住んでいる都市やその周辺を中心に外出する人が急増した模様である。国内旅行者の数も急増。新型コロナウイルスの感染が拡大した今年1月の春節以降で、最大の旅行者数を記録し、中国各地の観光スポットへ向かう航空券等の売り上げも急激に増加したようだ。

新型コロナウイルス対策では、やや楽観的な雰囲気が伝えられる中国だが、経済指標からみればそうとも言いがたい。新型コロナウイルスの影響を受けるという点では例外ではなく、足元の中国経済も厳しい状況となっている。中国国家統計局が4月に発表した2020年第1四半期のGDP(国内総生産)は、前年同期比でマイナス6.8%と大幅に減少した。2020年のGDP成長率も、市場予想は年率1.8%程度の成長にとどまる。

製造業購買担当者指数PMIの動きを見ると、3月は52.0と、2月の35.7から上昇して、活動拡大・縮小の分かれ目である50を上回っていた。生産指数も50.6に改善(2月は28.6と極端に悪化)し、新規受注指数も上昇した。そして4月の製造業購買担当者指数PMIは50.8と減少したものの、非製造業PMIは53.2に上昇し、市場予想の52.5を上回った。ただ、一度もつれた紐を解くのは、そう簡単ではないだろう。

内容を見ると、新規輸出受注PMIの低迷が示しているとおり、輸出は主要貿易相手国が軒並み成長率でマイナスに転落する中、下向きとなる公算が高い。それにも関わらず中国のPMIが改善している理由は、景気対策を受けた政府部門による需要拡大支援とそれに関連する内需の押上げ効果が大きいと見ている。

国内経済の先行的な指標でもある鉄道貨物輸送量は3月には既に前年同期比横ばいまで回復し、2月比でも4.5%増えて34,600万トンと高水準を維持していた。これは、原材料や製品の輸送を確保して生産回復を支援する政策や消費など内需を喚起する政策が、比較的早い時期から効果を発揮していたことを示している。

金融市場では、中国市場が欧米市場とは異なる動きをして早期に上昇に転じるという“デカップリング”期待も出てきているが、政府により喚起された需要頼みでは、心もとないシナリオである。

全人代開催の動向に注目

政治的には、延期されていた全国人民代表大会(全人代)の開催に注目が集まる。中国共産党中央政治局は4月29日に常務委員会を開催した。そこでは国内外の新型コロナウイルス感染症の予防・抑制状況が分析され、長期的な感染予防・抑制措置についての検討、指示がされるとともに、湖北省の経済・社会発展を支援するための包括的政策が決定された。

この会議では、3月開催が延期となった第13期全人代第3回会議を5月22日から北京で開催することもあわせて決定されている。

全人代では、毎年、経済成長率の数値目標が定められ、発表されてきた。昨年(2019年)の目標は6.0~6.5%とレンジを取って設定されている。これも異例のことであったが、中国政府の指導部は、今年(2020年)の世界経済の見通しが極めて不透明であることから、例年設定しているGDP成長率の国家目標の設定を数値化せず、定性化する可能性があるとの報道もでてきている。

加えて、中国政府は2010年から2020年の10年間で、当時のGDPを倍増させるという計画を掲げていたが、実現には少なくとも今年5.6%程度の成長がなければならず、これもすでに実現の可能性が低い。このあたりも政治的にどう処理するのか注目される。また、全人代で発表される政府活動報告の内容も、注目されるところである。

なお、全人代がどのように開催されるかは、正式発表がされていない。常務委員会は初めてビデオ会議で開催されたが、全人代のような大規模会議をバーチャル形式で行うことなども検討されているとの一部報道もある。

コロナの「中国責任論」で緊張が高まる米中関係

中国政府にとって厄介なのは、やはり対米関係だろう。トランプ米大統領は新型コロナウイルスの感染拡大に関して、中国が情報を操作し過ちを隠蔽したと中国批判の姿勢を取り始めている。ポンペオ国務長官も5月6日の記者会見で、中国が新型コロナウイルスの発生源を隠したと改めて指摘し、中国批判のトーンを強めた。

11月の米大統領選挙に向けて、経済回復シナリオを周到に準備してきたトランプ米大統領だったが、新型コロナウイルスの感染拡大によりロックダウン政策を取らざるを得なくなり、景気拡大の足を引っ張られたと感じているのだろう。中国責任論に火が付いて、米中間で政治的な火種となりかねない点には要注意である。

そんな中、米商務省は8日、劉鶴副首相がライトハイザーUSTR(米通商代表部)代表およびムニューシン米財務長官と電話で協議したことを確認した。今年1月に米中通商協議で第1段階の合意に署名した後、ライトハイザー代表と劉副首相が合意について公式に話し合いをしたのは今回が初めてである。

1月以降は、新型コロナウイルスの感染拡大が世界中で深刻化し、米中のみならず世界中のサプライチェーンが機能不全となった。経済的な状況が激変している中で、米中両国が、今後も共に意思疎通を続けることで一致したことには意義がある。USTRも協議後に「現在の衛生上の世界的な緊急事態にもかかわらず、米中両国は1月の通商協議で合意した内容が着実に履行されることを信頼している」と声明を発表した。

いわゆる米中通商協議の第1段階の合意は、金融市場を安堵させ、1~2月のラリーのきっかけとなった出来事だ。それが揺らぎ、トランプ米大統領がちらつかせているような関税カードがまた実施されれば、コロナ禍同様にネガティブな材料となりかねない。

コロナ禍からいち早く抜け出したかに見える中国経済だが、成長路線への回帰の道のりは平坦ではないと言わざるを得ないだろう。