前回、前田建設工業(1824)による前田道路(1883)のTOBについてご説明しました。簡単にまとめると、もともと20%超の株を保有していた前田建設工業が前田道路にTOBを行い、前田道路はそれに反対、敵対的TOBとなったのですが、結果的に前田建設工業のTOBは成立し、前田道路は前田建設工業の子会社となったというものです。

前田建設工業の前田道路買付が合理的なものかどうかは今後の業績推移を見るなどしないと分からなそうです。一方、今回のTOB攻防戦を巡る攻防戦の中で、前田道路のリリースなどに興味深いものが複数あります。株主にとっての会社の価値を向上させようというアクティビストの動きは個人投資家にとって無視できないものになっていますが、今回の前田道路の動きは特に参考になることがありそうです。

1つ目と2つ目は、前田道路が前田建設工業のTOBに反対した際に発表されたリリースです(前田道路のウェブサイトIRサイト参照)。前田道路はこのリリースの中で驚くべき内容を記載しています。

1つは、前田建設工業がTOBに至った経緯として、「前田道路に投資しているアクティビスト投資家が前田道路にTOBを行おうとしている」と前田建設工業は認識し、その買収リスクを避けるために前田建設工業はTOBを行ったと書かれているものです。これについて前田建設工業側は明確に説明をしていないですが、アクティビストの動きが前田建設工業のTOBにつながったということを示していると言えそうです。
    
また、次の驚くべき内容は、前田道路は「前田建設工業と前田道路のシナジー効果がない」と表明していることです。前田建設工業はシナジーを前提にTOBをかけているので、利害関係者の前田道路の言い分を鵜呑みにはできません。

しかし、当事者がそう説明しており、両者の取引は前田道路の年間連結売上高の0.76%と具体的な数字を出していることから一定の合理性はありそうです。だとすると、前田建設工業はなんのために20%超の前田道路株式を保有し続けていたのか、そして今回TOBを行ったのかということが疑問に思われます。

3つ目は大きく報道されたので個人投資家の方もご存知かと思いますが、前田道路は2月20日に剰余金の特別配当を発表しました(前田道路のウェブサイトIR情報を参照)。1株あたり650円、500億円を超える巨額の配当です。2019年3月期の同社の現金・現金同等物は722億円、2008年3月期に222億円だったので、実にこの10数年に蓄積してきた現金をすべて配当するという発表です。

これはTOBへの対抗策で、TOBが成立した今、どういう結果となるかも興味深いところです。ただ、それよりも重要なのは、前田道路自身がこの特別配当を決めたということでしょう。これは前田道路がその500億円超の現金がなくともよいと認めたことにほかなりません。事実、同社の発表には本特別配当を行っても十分な現金類があり、高い信用力への懸念はない、投資機会があれば負債にて対応可能と記されているのです。

この発表は、それまでの前田道路の配当方針に疑問を持たせるものでしょう。また、前田建設工業のTOBがそもそもアクティビストの動きによるものだったということはアクティビズムが日本の会社を正しく動かしうる証左だと言えるのではないでしょうか。