外出禁止・自宅待機によってモニターとラップトップの売り上げ急増、中国では離婚が増加

新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外出禁止と自宅待機によって、米国において思わぬマーケットが活況にわいている。調査会社のNPDによると、自宅で仕事をする人が増えていることからコンピュータモニターとラップトップの売り上げが急増しているとのこと。コンピュータモニターの売上は3月の最初の2週間で80,000台に倍増、ラップトップの売上は10%増加したと言う。

また、ワイン、ビール、アルコール製品の販売も急増しているそうだ。ブルームバーグの記事「Americans Are Buying More Alcohol to Drink at Home(米国では自宅で飲むためのアルコール購入が増加している)」によると、3月第3週のアルコール類の販売は2019年末に比べて、カクテル類で8割増、スピリッツやリッカーは63%増、ワインは47%増加、ビールも3割以上増えているとのこと。

食糧や日用雑貨のオンライン販売が急増しており、ウォルマート(ティッカー:WMT)ではeコマースの売上が2月中旬から3月中旬の1ヶ月で6倍以上に拡大した。中でもパスタやスープ、缶詰、冷凍野菜など、これらはいずれも5倍位以上の売上となった。また冷凍ラーメンの販売も増えていると言う。

一方、ロックダウンしている世界に対する今後の警鐘となるのだろうか。中国において、封鎖政策から開放された3月以降、離婚申請件数が増加しているそうだ。この現象は、新型コロナウイルスの拡散を止めることを意図して数週間にわたるロックダウンを実行した後から増え始めた他、家庭内における暴力の件数も倍増しているとか。今後、ウイルスの感染拡大を止められたとしても、様々な社会的ストレスや課題があぶり出されることになりそうだ。

原油価格の低迷を受けて活況を呈するVLCCマーケット

ウイルスの感染拡大とともに、現状のマーケットにおいて注目されているのが原油価格の動向であろう。原油価格の歴史的な崩壊は、サウジアラビアとロシアによる価格戦争が引き金となった。結果として、原油の供給が需要を大幅に上回り、原油価格は1月のピークから50%下落している。

【図表1】NY原油先物(日足)
出所:筆者作成

この原油の供給過剰が「VLCC=Very Large Crude Oil Carrier」の傭船価格の急騰を引き起こしている。VLCCは、原油の輸送を主な目的とする20万~30万重量トンの超大型タンカーのことである。原油を大量に移動・保管するには、大型の輸送船であるVLCCが必要となる。過剰な原油は備蓄施設だけでは収まりきらずタンカーに貯められるが、その時に古い非稼働の石油タンカーが浮遊油貯蔵ユニットとして使用される。現在、タンカーの取り合いが起きており、タンカー業界は過剰原油の環境下で史上最高の四半期になることが見込まれている。

フォーブスの記事「Supertanker Prices Spike By Nearly 678% On Oil Market War And Storage Plays(スーパータンカーの価格は石油マーケットの戦争と貯蔵をめぐる取引でほぼ678%急騰)」によると、VLCCのリース料金は「ほぼ毎日」跳ね上がっており、VLCCの傭船料は2月1日に16,000ドルであったのが、約1ヶ月後、OPEC+協議が決裂した3月6日にはほぼ倍となる30,000ドルとなり、現在は42,000ドルと162.5%上昇した。

この傭船料の価格高騰に拍車をかけているのが、コンタンゴ(Contango)取引である。大手エネルギートレーダーは現在、石油を貯蔵し、将来の石油価格が現在よりも高価になると想定して船をチャーターしようと駆け回っている。今、安く石油を購入して備蓄をしておき、将来、市場でより高い価格で販売することにより、トレーダーは利益を荒稼ぎすることができる。

【図表2】
出所:bloomberg

フィナンシャル・タイムズの記事「Oil tanker owners cruise to bumper quarter as rates surge(石油タンカーの所有者は、レートが急騰するにつれてバンパークォーターにクルーズ)」によると、5年前の前回の石油暴落時には、トレーダーはそのような取引を通じて10億ドルの利益を得たと言う。

コンタンゴは、主に商品先物取引で使われる用語である。限月間の価格差を利用した「順ざや」取引のことであり、期先の限月の価格が高く、期中・期近と受渡期日までに残された期間が短くなるほど価格が安い状態を指している。

これらの状況からメリットを受けると考えられる米国市場に上場するタンカー企業を次にご紹介しよう。

石原順の注目5銘柄

ティーケイ(ティッカー:TK)

1973年に設立、石油、天然ガス、液化石油ガスの海上輸送を行う。また、石油の海上生産、貯蔵、出荷を請け負う。タンカー資産は約200あり、世界最大の原油タンカー会社の1つ。

出所:トレードステーション

フロントライン(ティッカー:FRO)

世界的に事業を展開しており、中東湾岸、極東、大西洋、北ヨーロッパ、カリブ海、ルイジアナ沖の石油港などの主要な事業地域を持つ。

出所:トレードステーション

ノルディック・アメリカン・タンカー(ティッカー:NAT)

1995年設立。二重船体原油タンカー「スエズマックス」を保有、チャーターする。100万バレルの石油を運搬する「スエズマックス・タンカー」を20隻保有。

出所:トレードステーション

SFL(ティッカー:SFL)

2003年に設立。船舶の所有、運航、用船の事業を行う。石油タンカー、ドライバルク船、コンテナ船、自動車専用船、ジャッキアップリグ、セミサブマーシブルリグ、海洋補給船、ケミカルタンカーを所有。

出所:トレードステーション

DHTホールディングス(ティッカー:DHT)

世界各国の石油会社に、VLCC(20万重量トン以上の大型タンカー)、小型タンカーなど原油タンカーによる運輸サービスを提供。

出所:トレードステーション

今回、需給バランスの不安定さが引き起こす原油価格下落の背景で、特需を受けるセクターがあることを取り上げた。しかし、こうした企業への投資に関して注意を促しておきたい。

第一に原油価格の動向に大きく左右される点である。今後、中国の需要が回復し、OPEC+が減産に合意した場合、原油価格は急上昇する可能性がある。価格の反転によってコンタンゴ取引を狙うトレーダー達は利鞘を稼ぐことになるが、需要が回復し、原油を貯蔵しておく必要が低下した場合、VCLL市場の相場上昇は頭打ちとなり、上昇分が一気にはげ落ちる可能性がある。

第二に、市場における圧倒的なプレーヤーの存在によってもたらされた価格の歪みもある。サウジアラビアの国営海運会社であるバーリは、スポット市場から19隻のVLCCを暫定的にチャーターしたと言う。世界最大のタンカー会社の一つであるバーリはすでに42隻のVLCCを持っているが、それだけでは足りずに新たにチャーターしたのである。しかし、このような"単一の主要企業"からのクレイジーコールは、トレーダーによるコンタンゴ取引だけではなく、結果的に自分で価格の高騰を招くと言う矛盾を伴っている。

さらに長期的な視点から考えれば、エネルギー産業の衰退と言う課題にも直面している。これが三点目である。環境問題に対する世界的な関心の高まりによって、今後、化石燃料に対する需要は緩やかに減少していくものと考えられる。大きなタンカーを保有すると言う装置産業としての側面を持つことも今後の事業展開においては重荷になるだろう。

日々の相場動向については、ブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。