FRBのゼロ金利政策発後、S&P 500指数の先物は下落
ここ3週間の間、米国の金曜日の相場は下がるのが習慣となっていました。週末に悪いニュースが出ることを恐れたトレーダー達が、ポジションを抱えたまま週末を過ごしたくなかったからです。
それが、先週金曜日にはS&P 500指数は9.29%上昇し、2008年の金融危機以来の上昇率をもって1日を終えました。
前回のこのコラムでも書いたとおり、市場のセンチメントはこれ以上悪くならないくらい最悪であり、理性なく売られた株価のバリュエーションは絶望的なシナリオを織り込んだ状況下において、なんらかのポジティブなきっかけがあれば、いつ暴騰してもおかしくはない状況でした。
先週米国時間3月13日金曜日には、主要各国による景気刺激策や、金融緩和策の発表を受け、米国株指数先物は欧州時間の朝から上昇しました。
その流れを受けNY市場は寄り付きから上昇、一時弱含む局面もあったのですが、引けにかけての最後の20分間でS&P 500指数を7%押し上げ、最終的に9.3%上昇して終わったのは、トランプ政権による5.4兆円相当の緊急経済対策の発表のお陰でした。
緊急経済対策には、政府機関が貸し付けている学生ローンの利息の免除、暴落した石油価格を利用し世界最大である米国の戦略的石油備蓄を積み増すなどの発表をしています。
日本時間今週3月16日月曜日の早朝、米連邦準備制度理事会(FRB)は、1%の緊急利下げを決定したと発表しました。政策金利を年0.0~0.25%とし、事実上のゼロ金利政策を採用しました。
株式市場の反応はどうかというと、発表後S&P 500指数の先物は下落し始め、日本時間朝8時46分には金曜日の引値から約5%下落しており、各国の金融・財政政策が後手後手に回っているという市場の認識が株式のプライシングに反映されています。
米FRBのゼロ金利政策を受け、今日は日欧の中央銀行の追加対策が注目されます。
大規模な経済対策発表の背景には、米国でも新型ウイルスの感染者数の拡大と、ウイルスに端を発する経済への影響が日に日に悪化しているという現実があります。
米国でも「未知への恐怖」に対応すべく学校が休校となり、スポーツ、音楽、会議イベントなどがキャンセルになっています。ブロードウエイのミュージカルが公演中止になったのは象徴的な出来事と言えるでしょう。大手企業も従業員に在宅勤務を命じています。
欧州からの入国規制の発表を受け、欧米間のフライトもキャンセルとなります。航空会社で世界最大の売り上げを誇るデルタ航空は、今後数ヶ月輸送能力を4割カットすることになると発表しています。これは、2001年の同時多発テロの時より状況は悪いと言います。ナイキは米国、カナダ、欧州と多くの国の店舗を3月27日まで休業すると発表しています。
欧州は欧州で、新型ウイルスについては連日日本でも報道されるように大変な事態となっています。
トンネルの先の光はいつ見えるのか
米国では今後新型ウイルスの拡大を封じ込むために、レストランなど人が多く集まる場所の短期的な封鎖がされる案など日本以上にラジカルな対応が行われる可能性もでてきました。このような対応は、目的ははっきりしているものの、市場はそのような過激な政策の発表を嫌がる可能性もあります。
しかし、前回も書きましたが、新型ウイルスの発生地である中国では新型肺炎のニュースについての最悪の時期は超え、改善の兆しが見え始めていると報道されています。
実際、アップルは、世界中の直営店を3月27日まで休業するとの発表には、中国や香港など中華圏の店舗は含まれていません。同じくナイキの店舗休業の決定には、中国のみならず、日本や韓国の店舗も含まれていません。
日本で新型ウイルスについての状況が改善したというヘッドライン・ニュースが出てくると、それは日本だけでなく米国の株式市場参加者にも好感されると考えられます。中国で改善し、日本でも改善しているというニュースは、米国での改善も時間の問題であると解釈すると考えられるからです。株価が割安な状況になる中、市場が求めているのは正にそのようなポジティブなニュースです。
今から1ヶ月後には、米国企業の第1四半期決算発表が始まります。
S&P 500の第1四半期の収益予想は1月18日の段階では前年同期比2.71%の増益でしたが、3月7日には1.44%の減益へ、そして3月14日には2.3%の減益へと下方修正されています。
第2、第3、第4四半期についても下方修正が起きています。
今の相場の下落はこのような収益の下方修正の下げ含む、最悪のシナリオを織り込んでのことだと思います。決算発表において、私たちが確認しなければならないのは、企業の今後の事業の見通しについてのガイダンス発表です。これでトンネルの先の光がすこしでも見えてくるはずです。その光は薄暗いものかもしれませんが、現在の真っ暗闇な状態にいるよりましであることには間違いありません。
市場のボラティリティが高いのはなぜ
今回の下げはあっという間の出来事で、2018年の下げと違い、投資家に考える余裕を与えてくれませんでした。このスピード調整、かつ値動きの激しい相場がなぜ起こっているのか考えてみたいと思います。これは、ETFの人気からくる株式のパッシブ化による流動性の低下が起きているなか、デリバティブ市場で起きている取引が大きく影響しています。
裁定取引は昔から市場で行われている取引手法ではありますが、株価が大きく下がると、まずすぐにヘッジのために先物を売る、理論価格より大幅に安く乖離すると、売りの裁定取引となり、安くなった先物を買い、相対的に高い現物を売る、インデックスネーム(指数に名を連ねる)の個別株が下がる。これの繰り返しとなります。
また、オプションでヘッジするトレーダーやCTAと呼ばれる投資顧問業者も、ボラティリティの上昇に貢献していると言われています。加えて、今ではアルゴリズム取引により、一定の株価に達すると、自動的にロスカットの売りが個別株でも出され、最近のAIが今の流れがダウントレンドであると判断すると、売りの注文がでるという流れになっています。
加えて、このような背景で株が下がると、現物市場においても売りが入りますから、売りが売りを呼ぶという事態になっており、まさに今の米国株市場でボラティリティが高まっている理由です。
ただし、その一方で、金曜日にように、一旦トレンドがリバースすると、今までの逆の動きが起き、上がるときも激しく上昇することになります。
ALL USAによる新型ウイルス拡大への対応
今回の米国政府の新型ウイルスの対応については、後手に回ったという非難があることは事実ですが、その一方、トランプ政権は、新型ウイルス対策を行うにあたって関連省庁、関連機関、地方政府のみならず、米国のIT、金融、製薬、小売業界などのCEOらトップマネジメントを巻き込む形のALL USAで政府と民間企業も一丸となって問題解決に向かっていく体制が見え頼もしく感じられました。
この国では、この問題は必ず解決するのだろうなという自信を感じました。
仕事の情報収集の目的もあり、私は日ごろ見るテレビ放送の半分以上は米国のテレビ放送で報道番組が多いのですが、今回新型ウイルスの状況を報道する番組では、政府の役人だけでなく、ニュースのアンカーマンまでが、We’ll get through this together(我々はこの局面を一緒に乗り越えていきます)というような心強い言い方を視聴者に向けて言うのを聞き、アメリカの有事の際の強さや団結力には大変感心させられました。
魅力的な企業を安い株価で買えるまれな機会だととらえる
大切な事だと思いますので、今回も書かせていただきますが、今の株式市場は、「未知への恐怖」により株価の形成がされており、理性的な株価の形成が行われておらず、米国企業の本来の価値が無視された状況にあります。
加えて、今回の株価の下落により米国企業の長期的な価値が大きく変わったわけではありません。魅力的な企業を安い株価で買えるまれな機会だととらえ、時間の分散で今回の一連の騒ぎが収まった場合に長期的に成長を継続すると思われる以下の優良成長企業を買うことをお勧めします。時間の分散をお勧めする理由は、プロの投資家であったとしても絶対的な安値で株を買うことは至難の業だからです。
・アップル(NASDAQ:AAPL)
・アマゾン・ドット・コム(NASDAQ:AMZN)
・アルファベット(NASDAQ:GOOGL)
・ウォルト・ディズニー(NYSE:DIS)
・ナイキ(NYSE:NKE)
・ロウズ・カンパニーズ(NYSE:LOW)
・テスラ(NASDAQ:TSLA)
・ゼネラル・エレクトリック(NYSE:GE)
・ビザ(NYSE:V)
・エヌビディア(NASDAQ:NVDA)
・マイクロソフト(NASDAQ:MSFT)
・コカコーラ(NYSE:KO)
・プロクター・アンド・ギャンブル(NYSE:PG)
・フィリップ・モリス・インターナショナル(NYSE:PM)
(順不同)