株式市場を取り巻く環境は「パーフェクト・ストーム」の状態に

「未知への恐怖」を起こした新型肺炎は、その恐怖さに勢いを増し、株式市場の参加者を不安に落とし、世界中の株価を近年経験したことがない速度で下落させています。

先週末には、文字通り、火に油を注ぐかのように、ロシアとサウジアラビアがOPECを舞台とした石油市場で戦いを始め、原油価格は1日で20%と大きく下げることになりました。

パーフェクト・ストームという言葉があります。複数の悪いことが同時に起こるという意味ですが、株式市場を取り巻く環境は、まさにパーフェクト・ストームの状態になりました。

同じ3月9日には、北朝鮮がミサイル発射を行いました。何も被害がなかったからよかったですが、一歩間違ったら、新たな問題に発展していた可能性もありました。
 
マーケットはサプライズを嫌いますから、突然石油価格も1日で20%も下がりますと、そのボラティリティは株式市場にショックを与え、株価は連鎖反応で大きく下落しました。

石油価格の下げが米国株に与える影響とは?

米国は、世界3大石油生産国の1つになっています。石油業界がS&P 500全体の収益の14%を占めているのですが、時価総額全体でみますと2.7%程度ですから、石油株が下がったとしても、株価指数に与える影響はそれほど大きくありません。

むしろ、大きな問題は、石油業界に直接携わっている雇用の数で、これが650万人と言われています。加えて、間接的に石油業界に関わっている人の数はそれを上回るので、雇用という観点では、影響は小さくはありません。

この原油価格の下げは債券市場にも影響を与えています。

債券市場の中でも、社債、特に格付けの低い高利回り債、ジャンクボンドの価格も急落しています。米国債と違いまして、このジャンクボンドは株の動きにリンクする傾向にあります。

米国で取引されているiシェアーズ iBoxx 米ドル建てハイイールド社債 ETF(NYSE:HYG)という、高利回り債券の指標の動きにリンクするETFがあります。

米国で金利が下がり、米国債の価格が上昇している局面で、このジャンクボンドのETFは今年の高値から12%下落しています。

資源セクターの比率が5%となっているこのETFに保有されている石油銘柄の1つが、WPXエナジー(時価総額約2,000億円)です。シェールオイルで有名なテキサス州西部のパーミアン盆地で石油やガスの探索、生産を行っているWPXエナジーの株価は、年初から76%下落しており、社債も直近の高値から36%下落しています。

今回の原油価格の下落で、石油会社のデフォルトリスクの可能性も出てきており、金融市場に新な不安を与える可能性もありますので、ジャンクボンド市場の動向にも注意です。

今後起こりうるシナリオ、何が株価の下げを止めるのか

新型肺炎については基本的に、米国では、日本で起きたことが時差を伴って起きています。学校の休校や、スポーツイベントのキャンセル等です。そういった意味で、新型肺炎に関係する日本での進展は、世界の先行指数となるのではないかと思います。

世界中の株価が下落し、反発する気配がない中、中国の上海総合指数は2月4日に、今回の下げの底を付け、今まだ安値から5%高いレベルにあります。中国国内のコロナウイルスの状況が良くなる前に、株価は底を付けています。

考えられるシナリオとしては、日本の状況が最悪の段階を脱しそうだというようなニュースのヘッドラインが出始めますと、すこしトンネルの先のライトが見えてくることになり、市場は安心、もしくはその段階で、株価は底を付ける可能性があります。

次回のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、1%の利下げを行うという見方も出てきていますが、株式市場は前回0.5%の利下げを歓迎しませんでした。

今すぐ必要なのは米国政府による大胆な経済対策です。新型肺炎に端を発す、経済への悪影響を払拭する規模の経済対策です。

世界中の株式市場は米国株の動きに大きく影響されています。そういった意味では、米国株が落ち着かないと他国の株式市場も落ち着きを取り戻すことができません。

今週トランプ大統領は、年末まで給与税の免除を行うと国民に対し演説を行いました。発表を受けて株価は一時的に上昇したのですが、実際に行うには議会の承認が必要です。民主党はこれを11月の大統領選挙対策と警戒し、賛同するのが難しい状況です。

ただ、民主党としても、現在起きている新型肺炎に端を発する一連の出来事は米国という国家の一大事ですので、何らかの形で妥協する可能性は高いのではないかと思います。

センチメント指標は今が最悪、これ以上悪くならないという領域に

不安定な株式市場ではありますが、米国株は想定できる最悪のシナリオを織り込みに行っています。現時点での様々な投資家のセンチメント指標を見ますと、今が最悪、これ以上悪くならないという領域に入っています。

例えば、今週月曜に紹介しましたフィア&グリード(恐れと欲望)指標は最大限の恐れで0~100のレンジで、最大限の恐れの領域で2のレベルとこれ以上悪くなれないレベルとなっています。この指数は逆張り指数ですから、株価が急反発するのを待っているレベルです。

バリュエーションも、今年の予想EPSで測ったS&P 500 のPERは14.5倍です。

ただ、今年の予想EPSの数字については今の段階で誰も信じていない訳です。

来年の予想EPSを使うと今の株価ではPERは13倍を切ります。1990年からの平均PERは18倍ですから、例えば、仮に来年の予想EPSが2割減益になったとしても、予想PERは15.6倍です。

これは、歴史的に見てもかなり割安なレベルですから、何らかのポジティブなきっかけがあれば、株価はいつリバウンドしてもおかしくないバリュエーションのレベルであることは事実だと思います。

問題は、トンネルの先のライトが見えないということです。

米国市場では、4月の半ばから第1四半期の決算発表となりますが、それに向けて事前の企業によるプロフィットウォーニング(利益警告)がでて、収益の下方修正、これはすでに起きていますが、追加の下方修正が起きる事が想定できます。

今期の決算が悪いことは、マーケットは知っており、株価に織り込み始めていますので、思ったほど悪くなければ株価は落ち着きを取り戻すことになろうかと思います。

しかし、この後少なくとも数週間はボラティリティの高い相場が続くことを覚悟する必要があります。

米国株の歴史は下落時のパニック売りが正しくないことを証明してきた

このような環境下で投資家はどうするべきか

まず、パニックして株を売らないことです。

理想は、余剰資金があれば、ここからは時間の分散で、私がこのコラムでお勧めしていますバランスシートがしっかりした、長期的に成長が見込める米国株を、時間の分散でもって買う事をお勧めします。後になって、あの時勇気をもって投資をしていて良かったと思えると思います。

ウォーレン・バフェットや相場の賢人たちが言っています。今回の一連の騒ぎで10年後のアメリカの企業の価値の何が変わったのかと。

このコロナウイルスの騒ぎは、どこかで落ち着くはずですから、その先をよく考えて、焦った投資行動を取らないことだと思います。米国株の歴史は、下落時のパニック売りが正しくないことを証明してきました。

米国株の投資をする場合、ぜひ長期的な視点での投資を考えていただきたいと思います。